ハラスメント対応と善管注意義務―経営陣に問われるリスク管理の本質

フジ・メディア・ホールディングス(HD)は、ハラスメント問題への対応を怠ったことは取締役としての善管注意義務違反に当たるとして、元幹部に対し50億円もの損害賠償を請求したことを明らかにしました。
このニュースは、経営陣に求められる「善管注意義務」の重要性を改めて浮き彫りにしました。
この義務は、ハラスメント対応においても、法的責任を問われるリスクと直結します。

善管注意義務とは何か

「善管注意義務」とは、会社法等に定められた役員の基本的義務であり、会社のために善良な管理者として注意を尽くして職務を遂行する義務を指します。
取締役や監査役など、会社の経営を委任された役員がこの義務を負います。
経営陣は、「知らなかった」では済まされません。その地位や専門性に応じて、一般的に期待される水準の注意を払って職務を遂行する義務があります。

ハラスメントと善管注意義務

では、ハラスメント問題と善管注意義務はどのように関わるのでしょうか。

適切な防止策を講じないこと自体が「善管注意義務違反」になり得ます。
被害の申し出を封印・隠蔽したり、組織内でハラスメントが常態化しているにもかかわらず対策を怠ったりした場合、役員は結果的に会社に損害を与えたとして、個人責任を問われる可能性があります。
損害は、被害者からの損害賠償請求、企業の評判失墜、人材流出、取引先離脱など多方面に及びます。

つまり、「知らなかった」「自分の担当部門ではない」は免責理由にはならないのです。

企業と経営陣に求められる対応(例)

ハラスメントに関して、経営陣・管理職が果たすべき注意義務は以下のとおりです。

1.予防義務

ハラスメント防止方針の策定・周知
研修や啓発活動の実施
通報窓口の整備

2.調査・対応義務

苦情・相談を受けたら速やかに調査
公正・中立な立場で事実確認を行う
被害者の保護措置(配置転換・休業など)

3.是正義務

行為者への適切な処分
再発防止策の策定・周知徹底

これらを怠れば、経営陣個人が「善管注意義務違反」として損害賠償責任を問われかねません。

注意すべきポイント

(1)「形式的な制度」では足りない

実際に機能しているかを点検・改善する責任があります。

(2)経営陣自身の姿勢が問われる

ハラスメントに無関心であること自体がリスクです。

(3)内部情報の隠蔽や放置は最大のリスク

発覚したときの企業価値毀損は甚大です。

例えばこんなとき

社長がハラスメント加害者をかばう姿勢をとったとき

ハラスメントが発生した際、社長が、「加害者の社員は我が社の中核を担う人物だ。被害者側を説得して、丸く収めてくれ」と、加害者をかばう対応をとったとき、他の取締役や監査役はどうするべきでしょうか。

万が一取締役や監査役が黙認した場合、役員が被害者から損害賠償を請求されたり、労働局や裁判所から行政的・司法的制裁を受けたり、社会的信用を失墜するなどのリスクがあります。

取締役は、法令遵守の観点から社長に異議を唱えるべきです。「被害者救済が最優先であること」を主張し、社長個人の判断で「もみ消し」や「説得」を進めることを許さず、公正で中立的な調査を提案しなければなりません。
場合によっては、取締役会に正式に付議し、社長の職務執行を制限することも検討します。
明白に法令に反する方向に舵を切るなら、取締役会で社長の職務執行停止や解職の動議を出すこともあり得ます。

監査役は、違法・不適切な指示を是正する義務を負います。取締役の職務執行を監査する立場として、問題点を正式に取締役会へ報告する必要があります。取締役会で是正されない場合は、株主に報告したり、総会に諮ることもあり得ます。

ハラスメントは「一部社員の問題」ではなく、経営リスクそのものです。
善管注意義務を果たさなければ、会社が被る損害だけでなく、経営陣自身が巨額の賠償責任を問われる時代です。
この記事の読者様が対応を怠れば、億単位の損害賠償を請求される可能性もあるのです。
企業の持続的成長のためには、ハラスメント防止を単なるコンプライアンス対応にとどめず、経営課題の中核として位置づけることが不可欠といえるでしょう。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ケンズプロは、ハラスメント対策を中心とした人材戦略コンサルティングを全国の企業様に提供する会社です。