厚生労働省が、令和5年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」(調査実施者:PwCコンサルティング合同会社)について、報告書を公表しました。
その中の企業調査結果から、特に注目すべき項目を取り上げます。
企業調査
過去3年間のハラスメント相談件数
過去3年間に各ハラスメントの相談があったと回答した企業の割合をみると、高い順にパワハラ(64.2%)、セクハラ(39.5%)、顧客等からの著しい迷惑行為(27.9%)、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(10.2%)、介護休業等ハラスメント(3.9%)、就活等セクハラ(0.7%)でした。
また、ハラスメントの相談があった企業に、パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント、介護休業等ハラスメント、顧客等からの著しい迷惑行為、就活等セクハラについて、過去3 年間の相談件数の推移を聞いたところ、セクハラ以外では「件数は変わらない」の割合が最も高く、セクハラのみ「減少している」(31.4%)が最も高い結果となりました(「件数の増減は分からない」を除く)。顧客等からの著しい迷惑行為のみ「件数が増加している」(23.2%)の割合の方が「件数は減少している」(11.4%)より高かったが、それ以外では「件数が減少している」の割合の方が「増加している」より高かったということです。
いわゆる「カスタマーハラスメント」に関する相談件数が増加傾向にあるようです。
ハラスメントに関する雇用管理上の措置の実施状況
(1)ハラスメントに関する雇用管理上の措置の実施状況
各ハラスメントについて、従業員規模別にハラスメント予防・解決の取組を実施している企業と何も実施していない企業の内訳をみると、いずれのハラスメントにおいても企業規模が大きいほど取組を実施している割合が高くなっています。
なお、全体として最も取組が行われているのはパワハラで、95.2%の企業が取組を実施しています。一方、就活等セクハラは取組を実施している企業の割合が52.4%で最も低い結果となりました。
<取組を実施している企業の割合>
- パワハラ予防・解決取組実施企業 95.2%
- セクハラ予防・解決取組実施企業 92.7%
- 妊娠・出産・育児休業・介護休業等ハラスメント予防・解決取組実施企業 90.0%
- 顧客等からの著しい迷惑行為予防・解決取組実施企業 64.5%
- 就活等セクハラ予防・解決取組実施企業 52.4%
(2)ハラスメント予防・解決の取組の実施内容
ハラスメントの種類を問わず、予防・解決のために実施している取組として、「相談窓口の設置と周知」の割合が最も高く、次いで「ハラスメントの内容、職場におけるハラスメントをなくす旨の方針の明確化と周知・啓発」でした。前者は約7割以上の企業が、後者は約6割以上の企業が、各ハラスメントに対して実施しています。
<実施割合が高い順に>
- 相談窓口の設置と周知
- ハラスメントの内容、職場におけるハラスメントをなくす旨の方針の明確化と周知・啓発(就業規則等への規定、社内広報誌等への記載・配布、従業員向け研修等)
- 行為者に厳正に対処する旨の方針・対処の内容の就業規則等への規定と周知・啓発
- 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益取扱いをされない旨の定めと周知・啓発(就業規則等への文書への規定・周知、社内広報資料への記載・配布等)
- 事業主によるハラスメント対策への取組姿勢を明確に示す発信(トップメッセージの発信等)
- 相談者・行為者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知(マニュアルの作成、相談窓口担当者への研修、社内広報資料等への記載・配布等)
- 経営幹部がハラスメントに対する関心と理解を深め、労働者等に対する言動に必要な注意を払うための周知・啓発(役員向け研修の実施等)、等
(3)ハラスメント相談窓口の設置状況
ハラスメントの予防・解決のための取組として「相談窓口の設置と周知」を行っている企業のうち、相談窓口を「社内のみに設置している」は55.7%、「社内と社外の両方に設置している」は41.2%、「社外のみに設置している」は3.0%でした。相談窓口の設置状況を従業員規模別でみると、従業員規模が大きいほど、「社内のみに設置している」の割合が少なくなり、「社内と社外の両方に設置している」の割合が大きくなっています。
社内の窓口、社外の窓口、それぞれの利点があるため、両方に設置することが望ましいです。
(4)ハラスメントの予防・解決のための取組を進めたことによる副次的効果
ハラスメント予防・解決のための取組を進めたことによる、予防・解決以外の効果としては、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」(39.9%)の割合が最も高く、「会社への信頼感が高まる」(35.4%)、「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」(33.2%)が続いています。なお、「特にない」の回答も24.0%ありました。
ハラスメント対策によりコミュニケーションが活性化し風通しが良くなることで、一層ハラスメントが起こりづらくなるという好循環が生まれます。
ただし、対策を強化することにより現場が萎縮してコミュニケーションが停滞することもあるため、コミュニケーションを減らさないハラスメント対策をいかに進めるかが課題です。
(5)ハラスメント予防・解決のための取組を進める上での課題
ハラスメント予防・解決の取組を実施している企業では、ハラスメントの取組を進める上での課題として、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」(59.6%)が最も高く、次いで「管理職の意識が低い/理解不足」と「発生状況を把握することが困難」(23.8%)が高くなっています。
ハラスメントかどうかの判断は、最終的には裁判に委ねられることになるため、社内担当者でも、ハラスメントの専門家でも、法律家でも、断定することはできません。先入観を持たず中立の立場で様々な要素から検証を行うこととなります。
重要なのは、ハラスメントに該当するか否か以上に、行為者の行為に対し不快感や不信感を抱いている労働者がいて、当該労働者との信頼関係が損なわれているという事実、就業環境が悪化しているという事実と、その原因を明らかにし、行為者にその責任があると判断された場合は行為者への対処を行い、会社として状況を改善することです。
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