女性ボクシング巡る発言で、連盟が番組に抗議文

8月8日、野球評論家の張本勲氏が、出演したTBS系番組『サンデーモーニング』で、東京オリンピックの女子ボクシングフェザー級で日本の入江聖奈が金メダルを獲得したことについて、「女性でも殴り合いが好きな人がいるんだね。観ててどうするのかな。嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね。こんな競技好きな人がいるんだ」とコメントしました。

直後から、番組には批判が相次いでいました。

これを巡り、日本ボクシング連盟が、番組に対し抗議文を送った、とのことです。

■抗議文の全文

株式会社TBSテレビ 代表取締役社長 佐々木卓様
一般社団法人日本ボクシング連盟会長 内田貞信

サンデーモーニング(令和3年8月8日放送)での張本勲氏のご発言について

拝啓 時下、ますますご清祥のこととお慶び申しあげます。

さて、貴社放送のサンデーモーニング(令和3年8月8日放送)において、オリンピック女子ボクシングフェザー級の入江聖奈選手(日本体育大学)の金メダル獲得の話題に際して、ご意見番である張本勲氏より、【女性及びボクシング競技を蔑視した】と思わせる発言がありましたので、遺憾の意を示し、当文書を送付致します。

ボクシングは、オリンピック競技の中でも歴史が長く、技術・戦略・戦術を駆使する競技で、殴り合いではありません。選手は、体重調整を行い、試合の重圧に打ち勝ちリングに上がります。正々堂々と競技をした後には、友情や、対戦相手を心から尊敬する気持ちが育まれます。当連盟は、競技を通じて、健全な心身が育成され、競技者が人生を豊かにしていくことを目標として活動しています。

安全面に関しても、試合前後の医師による健診や、試合中リングサイドでの医師の常駐を義務付けるなど、他の競技以上に、安全面に配慮した競技運営を行なっています。

女子競技に関しては、2012年のロンドンオリンピックから採用された比較的新しい競技です。ヘッドガードを装着して試合を行うなど、男子競技以上に安全面に配慮しながら実施されています。当連盟でも、女性も楽しめる・活躍できる競技でなければ競技の普及や発展には繋がらないとして考え、世界に倣って啓発と普及に努めてまいりました。その結果が、入江聖奈選手と並木月海選手という二人の女子選手の大躍進に繋がったと考えております。両者ともに、競技の強さのみならず、謙虚な立ち居振る舞いや、他人への配慮ができる素晴らしい人です。競技を通じて、「痛み」を知っているからこそ、他者を尊重し、人に対して優しくできるのではないでしょうか。男性だから、女性だから、ではなく、ボクシング競技を通じて「人間力」が養われた結果であると考えております。

このように、ボクシング競技が単純な、暴力的な殴り合いではないこと、技術を駆使した競技であることをご理解いただき、また女性だからそんな競技に取り組むべきではないという、多様性を否定するような番組内でのご発言を、視聴者の皆様に対して、訂正をしていただきたく、文書を発させて頂きました。

一般社団法人日本ボクシング連盟は、子供から大人まで、男女の大会の普及と振興を図り、更には、高齢者でも健康的にボクシング競技を楽しめるための大会を企画しております。今後のご理解とご協力を賜りますようよろしくお願い申しあげます。

今後も、御社のサンデーモーニング内で、ボクシング競技のみならず、すべてのスポーツの楽しさや価値を伝え続けていただけることを楽しみにしております。

敬具

女性と競技を蔑視する発言

女性が格闘技をすることについてどのような感情を抱くかは、個人の自由です。
家族や仲間内でそれを語るのも自由です。
しかし公共の場で、競技として公式に認められているスポーツについて、選手とそれを観戦し応援する人たちの行動・活動・価値観を否定するような発言をするのは、不適切です。

危険性で言うならば、スポーツはどれも危険を伴うものです。
ボクシングだけを否定するのは正しくありません。

男性はやりたい競技を選択でき、女性は選択を制限され「しおらしくあれ」というのは、女性に対する差別です。
また、男性ならば危険な行為が許容されたり強要されたりするのは、男性に対する差別でもあります。

さらには、嫁入り後なら良いのか、嫁入りと何の関係があるのか、女性の身体は嫁入りまで守られるべきということか、つまり女性の身体は夫を支え従うためのものであり夫を支え満たすのが女性の役割ということか・・・疑問符が付きます。

オリンピック・パラリンピックの精神であるジェンダー平等に反する発言です。

競技の好き、嫌いも自由ですが、もしも野球について「球を投げて打って走って戻ってくる競技の何が面白いの?」と自身が言われたら、どのように感じるでしょうか。

自分と異なる価値観を、否定せず、尊重し、配慮する力が、現代ではとても大切です。

女性らしさとは

さて、連盟の会長は、「ボクシングを愛している方々のために、女性のボクサーのためにも誤解されたくない。抗議文を出させていただきました」と述べているとのこと。

しかしこれに続き、一部報道では、会長が「もう少し理解をもって女性ボクサーを見てもらいたい。入江選手、(銅メダル獲得の)並木(月海)選手も礼儀正しく、女性らしい人格を持った選手です。だれに対しても模範となる女性であります。サンデーモーニングさんには、スポーツの楽しさや価値観を伝えていただけるようお願いしたい」と苦言を呈したとされています。

本当にこのようにおっしゃったのか、スポーツ新聞が勝手に言葉をすり替えてしまったのかは不明ですが、「女性らしい人格」という言葉は不適切です。

性別による「らしさ」という枠組みは全世界から撤廃されるべきで、「女性らしい」「男性らしい」という言葉は今や使用禁止用語になっています。
また、女子ボクシングの選手が、例え「男性らしい人格」であったとしても、女子ボクシングを否定する理由にはなりません。