岡山セクハラ(労働者派遣会社)事件

性的な質問や性的関係を迫るセクシュアルハラスメント/会社経営陣によるセカンドハラスメント

事件名

損害賠償請求事件

いわゆる事件名

岡山セクハラ(労働者派遣会社)事件

事件番号

平成11年 (ワ) 1052

事案の概要

役員である女性支店長に対するセクハラ・パワハラに、会社経営陣のパワハラ的・対価型セクハラ的な対応も加わり、受け手が退職に至った事例。

  • 勤務先:Y社(一般労働者派遣事業等を業とする株式会社)
  • 行為者:Y部長(専務取締役営業部長)・Y代表(代表取締役)
  • 受け手:X1・X2(両名とも女性支店長)
  • その他:A=X1が東京出張の際に会っていた男性

性的な質問/性的関係の強要

  • Y部長は、X1支店長に対し、上司としての立場を利用して異性関係を問いただしたり、Aに電話をする等の行動に出たり、さらにはX1支店長に電話をして呼び出し、他の社員のいない所で、後継者の地位をちらつかせつつ、肉体関係をもつように求めたが、X1支店長はこれを拒否した。
  • その後、X1支店長がY部長に先日の言動の理由を尋ねると、これを謝罪するどころか、X1支店長は独身であるから性的欲求が解消されていないと思ったなどと答え、もう感情を表に出さないから最後にキスをさせてくれと言ってX1支店長に対して接吻を迫った。X1支店長はこれを拒否した。
  • Y部長は、X1支店長から相談を受けていたX2支店長に対して、上司としての立場を利用し、X1支店長と肉体関係を持てるように協力するよう要請したが、X2支店長はこれを拒否した。
  • X1・X2ら従業員数名が、Y代表(Y代表も、X1・X2に再婚しないのか、子供はまだか等の発言を行っていた者である)に被害を申告した。

性的な噂の流布

  • Y部長は、X1・X2らがY部長のセクハラを訴えるや、上司としての立場を利用してX1・X2は淫乱である等と従業員に風評を流すようになった。

会社による調査・処分

  • 会社は、取締役2名(男性)・監査役2名(女性)らによるX1・X2の事情聴取を実施したが、X1支店長に対する質問は、以下のようなものであった。
    • Y部長に対して隙はなかったのか
    • あなたは完全な人間か
    • Y部長に対して本当に好意を持っていなかったのか
    • X1支店長が挑発したのではないか
    • クライアントと付き合っているとY部長から聞いたが、クライアントへ迷惑はかけていないか
    • Y部長からあなたが中絶をしたと聞いたが、いつ中絶をしたのか、等
  • 会社は、セクハラ行為は確認できず、かえってX1・X2が社員を先導しているとうかがえると役員の全員一致で結論し、X1・X2に対し、組織ルールを逸脱した行動に出て社内全体を混乱させたとして、支店長を解任し平社員に降格し、減給(3割減)とした。
  • Y部長については、X1・X2への対応に、誤解を招きかねない不適切なものがあったとして、専務職を解いて平取締役にし、降格・減給処分とした。
  • その後、会社はX1・X2を更に減給した。

提訴

X1・X2は、翌月更に賃金が半分以下に減額され、その後は事実上仕事を取り上げられ、給与も入金されなくなったことから退職し、Y部長のセクハラ行為、Y代表の男女差別的発言等が不法行為に当たると主張し、民法七〇九条に基づきY社及びY代表に対して慰謝料等の請求を、Y社に対し、民法七〇九条、七一五条に基づき損害賠償(慰謝料(Y部長・Y代表と連帯)のほか退職後一年分の逸失利益)の支払を請求した。

判決

岡山地裁は、Y代表の行為は不快に感じる行為であっても違法性を有さず不法行為は成立しないが、Y部長の行為は不法行為が成立するとした。

判決理由

  • Y部長の行為は、上司としての立場を利用してX1と肉体関係を持つためになされたものであり、X1がこれを拒否し、Y社やY代表に対してセクハラ行為を訴えるや、上司としての立場を利用してX1の風評を流し、職場環境を悪化させ、X1の職場復帰を不可能ならしめたのであるから、不法行為に当たる。
  • X2に対して、上司としての立場を利用し、上記の通り協力要請し、その後、X2がこれに加担することを拒否し、Y社やY代表に対してセクハラ行為を訴えるや、上司としての立場を利用してX2の風評を流し、職場環境を悪化させ、X2の職場復帰を不可能ならしめたのであるから、不法行為に当たる。
  • また、Y部長の損害賠償責任、Y社の使用者責任による連帯責任を認めただけでなく、Y社の固有の不法行為責任を認め、慰謝料の他に退職による損害(逸失利益)の賠償も認めた。以下がその理由である。
    • X1・X2の事情聴取において、役員らが両名の訴えの真偽を公平な立場で聞く姿勢に欠け、処分は事実確認が行われないまま行われ、しかも処分はD部長よりも重いものであり違法である。
    • X1・X2の申告は就業規則の非違行為に該当せず、2回の減給処分は労働基準法91条(減給制裁の制限)違反である。
    • Y部長の言動を放置し、職場環境が悪化することを放置した。

コメント

  • 地位を利用したY部長の言動は、不法行為が成立するとされているように、不適切なものである。特に、上司という立場を利用して私的なことを問いただしたり、性的関係を迫ったりすれば、部下である受け手には拒絶の自由はなく、強制性が高い。そのパワーバランスを考慮してコミュニケーションをとるべきである。
  • さらに、性的な噂を流布することは悪質である。「噂話は人を殺す」というように、当事者の名誉と自尊心を著しく毀損するものであり、厳に慎むべきである。
  • Y代表の、再婚しないのか、子供はまだか等の発言は、違法性は認められないとしても、個人的領域に踏み込んだものであり、不快に感じるものであることから、慎むべきである。
  • X1に対する事情聴取における質問は、X1の人格を否定し、一方的にX1を非難するものであり、不公平で不適切である。相談や通報を受けたら、先入観や固定観念を持たず、中立的で公平な立場で両者から話を聞き、客観的で合理的な判断を下さなければならない。
  • 相談・通報した従業員への報復人事とも受け取れる処分を下してはならない。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ケンズプロは、パワハラ・セクハラ・ペイハラ・カスハラ等ハラスメント対策や女性活躍推進、採用ブランディングなどを支援する人事コンサルティング会社です。