(※この記事は、7月2日配信のメールマガジンと同内容です。)
特許やブランド、技術・技能、人材、人脈・顧客ネットワーク、組織文化、企業理念といった、財務諸表には表れない無形の資産のことを、知的資産といいます。非財務情報を「知的資産経営報告書」により可視化し、社内外のステークホルダーに開示することは、ESG投資の拡大とともに今後さらに重要になると考えられます。しかし、知的資産経営の認知度の低さや、開示が法的義務となっていないこと、作成の難度が高いことなどから、実際に報告書の作成・開示に至っている企業は、かなり限定的です。
そんな中、「人材」に関する知的資産の開示は、企業の評価に直結する要素となりつつあり、 上場企業には2023年3月期決算から、「人的資本の開示」が金融庁より義務付けられています。
一方、非上場企業には、人的資本の開示は義務付けられていません。
とはいえ、人的資本情報の公開は、企業イメージの向上と優秀な人材の確保において、極めて有効な戦略となります。
非上場企業も、財務情報だけでは伝わらない企業の魅力や将来性を可視化することで、求職者や社会からの信頼を獲得し、持続的な成長につなげることができます。
以下は、人材確保を目的とした人的資本情報開示のポイントです。
1.公開すべき情報(What):企業の魅力を伝える人的資本情報
企業理念・ビジョン、存在意義・社会貢献性、企業文化、教育体制、スキルアップへの投資、キャリアパス等を公表すると有効です。
(1)企業理念・ビジョン
企業がどのような信条を大切にし、どのような企業でありたいのか、理念とビジョンを明示します。
それと連動して、どのような人材を求め、どのように育て、どのような活躍を期待しているのかを示します。
(2)存在意義・社会貢献性
自社が社会や環境保護等においてどのような役割を果たし、貢献しているのか、プロジェクトや実績を示します。
現代の若い世代は、「仕事を通じて社会の役に立てること」を、賃金以上に重要な、就職先の選択基準と位置づけています。
従業員のボランティア活動の様子や、それを企業が支援している制度等を紹介するのも有効です。
(3)人材の育成・成長に関する情報
入社直後から数十年先までのキャリアパスと、各タイミングで提供される研修制度、OJT、資格取得支援、公正で透明性の高い評価制度等を示します。
未経験で入社して、自分は仕事を覚えられるだろうか、丁寧に教えてもらえるだろうか、5年後・10年後はどうなっているのだろうかと、求職者は不安でいっぱい。キャリアパスの可視化を望んでいます。「将来が見えない」「一寸先は闇」という不安を解消する情報を発信します。
育成に十分な投資を行っていて、確実に成長できる企業であることは、大きな魅力です。
(4) 働きがい・働きやすさに関する情報
●多様で柔軟な働き方:
フレックスタイム制度、在宅勤務制度、時短勤務、短時間正社員制度など、各人のライフステージや事情に合わせて柔軟に働き方を選択できるような制度を紹介します。
●ワークライフバランス支援:
育児・介護休業制度、看護・介護休暇、有給休暇取得率、特別休暇制度の種類及び取得率、残業時間の実績など、制度と実績(数値やグラフ)を示します。
●健康・安全対策:
健康診断受診率、メンタルヘルスケア、安全衛生に関する取組みなど、従業員の心身の健康を守るための施策を説明します。
特に、建設業や製造業など、労災発生率の高い業種では、安全に働けるかどうかは重要な選択基準となります。
●エンゲージメント向上施策:
社内のコミュニケーションを活性化するためのイベントや部活動、社員食堂・食事支援、ハラスメント対策、表彰制度等、従業員満足度調査の実施と結果等、働きがいや働きやすさを向上させるための持続的な取り組みを紹介します。
ハラスメント対策としては、規程や相談窓口の整備状況、研修実施・参加率などを紹介します。
(5)ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関する情報
性別、国籍・人種、年齢、障害の有無、性的指向・性自認など、多様な人材が活躍できる環境整備方針と具体的な取組み、実績(女性管理職比率、外国籍社員比率、障害者雇用率など)等を紹介します。
2.公開媒体(Where/How):効果的に情報を届ける方法
人的資本情報を公開する媒体は多岐にわたります。
ターゲット層や予算に応じて、最適なものを組み合わせることが重要です。
(1)自社ウェブサイト(企業サイト・採用特設サイト)
どのルートで企業名を知ったとしても、必ず訪れるのが企業サイトです。
募集要項だけでなく、社員インタビューや一日の働き方、福利厚生等を、写真や動画を用いて、わかりやすく明るく紹介します。
訪れた求職者が、自分が働いている姿をイメージできるような、そして新しい人材を歓迎してくれそうな雰囲気を醸し出すことが重要です。
ウェブサイトがないのは存在していないも同然。サイトはあっても「全然更新していない」「古臭い」「操作しづらい」「チープ」という印象では、求職者は逃げてしまいます。
(2)求人サイト
ハローワークのインターネットページや、大手求人サイト、業界に特化した求人サイト、転職エージェントの企業ページなどを、予算と相談しながら活用します。
ここでも募集要項だけでなく、人的資本情報を積極的に記載します。
貴社の業界を全く知らない素人さんにも理解できるような、イメージできるような、わかりやすく具体的な説明を心がけます。
(3)会社案内・採用パンフレット
会社を訪問した求職者に手渡したり、説明会で配布したりするための、紙資料も作成します。これにもウェブサイトと同様の情報を、写真や図を用いて、貴社の魅力が伝わるようなデザインで掲載します。
PDF版をウェブサイトで公開し、より多くの人に閲覧してもらえるよう工夫します。
(4)SNS
日常の社内風景や、イベント、社会貢献活動等リアルタイムな情報発信にはSNSを活用します。
写真や動画を掲載すること、適切な頻度で更新を継続することがポイントです。
管理チームには老若男女複数名を配置し、必ず2名以上で内容を多角的にチェックしてから投稿するようにし、不適切投稿による炎上に細心の注意を払います。
(5)企業説明会・インターンシップ
経営層や社員が、直接対面で、企業の魅力や、理念・ビジョンを説明し、求職者からの質問に答える「対話の機会」を持つことは重要です。
求職者はこれにより、職場や先輩社員の雰囲気を知ったうえで応募・雇用契約を締結することができます。
また企業にとっても、各応募者の人となりを、短期間・短時間でも最低限把握したうえで採用することができます。
お互いにとって、より理解し合い、ミスマッチを防ぐ絶好の機会となります。
企業は、取り繕うことはせず、事実どおり、ありのままの人的資本情報を公開すべきです。
求職者から出た質問は、「求職者に正しく伝わっていないこと」「現代の求職者が求めている働き方」である可能性がありますので、今後の人材戦略に活かします。
まとめ
非上場企業が人的資本情報を公開する際は、「誰に何を伝えたいのか」を明確にし、「信頼性」「具体性」「継続性」を意識することが重要です。
単なる情報羅列ではなく、企業のストーリーや価値観が伝わるように工夫することで、企業イメージの向上と優秀な人材の採用につながるでしょう。
人材以外の非財務情報=知的資産情報も積極的に開示し、採用だけでなく、資金調達やブランディングにつなげましょう。
ケンズプロにお気軽にご相談ください。
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- ケンズプロは、ハラスメント対策を中心とした人材戦略コンサルティングを全国の企業様に提供する会社です。
