厚生労働省は、毎年9月10日から9月16日の「自殺予防週間」において、自殺防止に向けた集中的な啓発活動を実施しています。
令和5年の自殺者数は21,837人で、前年から44人減少しましたが、依然として高い水準が続いています。
労働時間やメンタルヘルス対策等の状況
週労働時間が40時間以上の雇用者のうち、60時間以上の雇用者の割合は減少傾向又は横ばいで、年次有給休暇の取得率も令和3年まで7年連続で増加しています。
「働き方」は改善傾向にあります。
勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者数の推移を見ても、増減はあるものの、増加傾向にはありません。
企業の対策が功を奏しているのでしょうか。
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、60%前後の水準で推移していて、令和4年は63.4%と、前年の59.2%よりは増加しました。
労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェックの実施割合は、令和4年が32.3%で、前年の29.7%よりも増加しました。
ところが、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスがあるとする労働者の割合は、令和4年は82.2%と、ほとんどの労働者がストレスを感じている実態が浮き彫りになりました。
現状では自殺者数が増加しているわけではないとしても、これほどまでにストレスを感じている労働者が多いということは、不安を残します。
「勤務問題」の詳細(令和3年)
勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者数を原因・動機の詳細別にみると、令和3年は、
- 「仕事疲れ」(28.3%)、
- 「職場の人間関係」(24.6%)、
- 「仕事の失敗」(17.0%)、
- 「職場環境の変化」(14.0%)
の順となっています。
過労死等をめぐる調査・分析結果
以下は、就業者に対するアンケート調査の結果です。
週の実労働時間をできる限り短くし、7時間程度の十分な睡眠を確保できるよう、「業務量」「人員」「業務遂行体制」等を会社が主体となって調整することが大切です。
1週間の実労働時間と疲労の持ちこし頻度
1週間の実労働時間が長くなるにつれて、翌朝に前日の疲労を持ちこす頻度が増加する傾向。
疲労の持ちこし頻度とうつ傾向・不安
翌朝に前日の疲労を持ちこす頻度が増加するにつれて、「うつ傾向・不安」のある者や「うつ病・不安障害の疑い」がある者等の割合が増加する傾向。
理想の睡眠時間と実際の睡眠時間
理想の睡眠時間は「7~8時間未満」の割合が最も高いが、実際の睡眠時間は「5~6時間未満」の割合が最も高い。
1週間当たりの実労働時間と理想の睡眠時間との乖離
1週間当たりの実労働時間数が増加するにつれて、理想の睡眠時間と実際の睡眠時間との乖離(睡眠の不足感)が増加する傾向。
理想の睡眠時間との乖離とうつ傾向・不安
理想の睡眠時間と実際の睡眠時間との乖離(睡眠の不足感)が大きくなるにつれて、「うつ傾向・不安」のある者や「うつ病・不安障害の疑い」がある者等の割合が増加する傾向。
理想の睡眠時間との乖離と主観的幸福感
理想の睡眠時間と実際の睡眠時間との乖離(睡眠の不足感)が大きくなるにつれて、主観的幸福感は低くなる。
ハラスメントの経験(直近1年間における経験)
男女とも、「上司から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」者の割合が最も高い。
令和4年における自殺の状況
同居人の有無別の自殺の状況
令和4年の自殺の状況を同居人の有無別にみると、総数では「同居人あり」(65.2%)の割合が「同居人なし」(33.9%)と比べて約1.9倍となっています。
男女別でも、年齢階級別でも同様に、同居人ありの割合が高くなっています。
同居人がいない→孤独→自殺という、俗な仮説は成立しないようです。
社員の皆様についても、「同居人がいるから大丈夫だろう」と決めつけず、家族構成にかかわらず、過労自殺やハラスメント自殺等はあり得るという前提での対策と配慮が必要です。
令和4年の月別自殺者数
令和4年の自殺者数を月別にみると、男女総数では「5月」が最も多く、次いで3月が多くなっています。
「なぜ?」については解明されていませんが、世界的に見ても、春先に増えると言われているそうです。
令和4年の発見曜日別1日平均自殺者数
令和4年の自殺者数を1日平均に調整した発見曜日別にみると、「月曜日」が最も多く71.8人、「日曜日」が最も少なく51.9人でした。
また、「土曜日」が53.7人と2番目に少なく、「祝日・年末年始」でみても48.0人であり、平日と比べて休日が少ない傾向でした。
著名人の自殺報道後に自殺者数が増加する現象は、1774年にゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』発刊後に主人公と同じ方法によって自殺で亡くなる若者が相次いだことにちなみ、「ウェルテル効果」と呼ばれるそうです。
別の影響も考えられますので断定はできませんが、日本でも、三浦春馬さん、竹内結子さん、上島竜兵さんの自殺報道後には、自殺者数が増加しているように見えます。
職場においても、著名人の自殺報道直後は、社員の皆様の動揺、変化を特に注視し、「私も辛いな」と感じる瞬間をできる限り作らないよう、仕事や人間関係の悩みが背中を押してしまわないよう、配慮することが大切でしょう。
何かあってからでは間に合わない
2012~17年度に労災認定された過労自殺をみると、過労自殺は精神疾患の発病から6日以内が最多となっていて、発病から期間が短いほど自殺が起きやすい傾向にあります。
厚労省の担当者は、発病から自殺まではあっという間。大変な出来事が起きてから慌てて対策を講じても間に合わない。日ごろからストレスチェックや相談体制を整えておくことが大事」としています。
日ごろから企業が講ずるべき自殺予防対策
- 業務量、人員、業務遂行体制等を見直す=業務改善
- ハラスメント防止策を徹底する。
- 働き方やハラスメント、その他あらゆる悩みを一元的に相談できる窓口を整備する。
- 直属の上司やメンターが日ごろから声掛け、面談を行い、何かあったら相談できる関係性、異変に気付ける関係性を築いておく。
- 日ごろから職場内を巡回し、何か話したそう、相談したそう、悩んでいそうという、部下の声なき声を察知するアンテナを立てておく。
- ストレスチェックで高ストレス者と判定された社員には、面接指導を行う。
- 上司から積極的に挨拶を励行する。
- 著名人の自殺が報じられた直後は特に、仕事上のストレスを軽減し、ストレスケアを強化する。
(出典)
- 厚生労働省『令和5年版自殺対策白書』
- 厚生労働省『令和5年版過労死等防止対策白書』
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人が人に対して、あるいはある集団が別の集団に対して抱く、立場や価値観の違いに基づく偏見的な憎悪=Hate。自分が信じるもののみが正しいと思い込み、それと異なるヒト・モノ・コトを悪と決めつけ攻撃する。それは人類の存続をも脅かすものです。意見の違う相手も尊重し、敬うこと、良識と品格を持ち、違いを乗り越えていくこと。すなわち、寛大であることが大切だと考えます。
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