企業では日々、さまざまな問題が発生しています。
ハラスメント、離職、休職、不正、労働災害、組織不和――。
多くの場合、これらは別々の問題として扱われます。
ハラスメントはハラスメント対策。
離職は採用や定着施策。
休職はメンタルヘルス対策。
しかし、本当にそれぞれ独立した問題なのでしょうか。
近年、ILO(国際労働機関)、WHO(世界保健機関)、ISO45003などの国際基準では、これらを共通の視点で捉える考え方が広がっています。
それが「心理社会的リスク(Psychosocial Risk)」です。
心理社会的リスクとは
ISO45003では、心理社会的リスクを、「仕事の設計、組織及び社会的環境に起因し、心理的又は身体的な損傷を引き起こす可能性のある要因」と定義しています。
簡単に言えば、組織の運営やマネジメントのあり方によって生じるリスクです。
例えば、
- 過重な業務負荷
- 役割の不明確さ
- 不公平な評価
- 不適切なマネジメント
- コミュニケーション不全
- 職場内対立
- ハラスメント
などが含まれます。
重要なのは、これらが個人の問題ではなく、組織の問題として捉えられている点です。
長時間労働は「本人の問題」なのか
例えば、長時間労働が発生している職場があったとします。
従来であれば、
「本人が頑張り過ぎた」
「時間管理が苦手だった」
という説明がなされることもありました。
しかし心理社会的リスクの考え方では、まず組織側を見ます。
- 業務量は適切か
- 人員配置は妥当か
- 優先順位は整理されているか
- 管理職は状況を把握しているか
問題の本質は個人ではなく、組織設計にある可能性が高いからです。
ハラスメントも構造から生まれる
ハラスメントも同様です。
もちろん行為者本人の責任はあります。
しかし実務上、多くの事案を見ていると、
- 異論を言えない
- 情報が共有されない
- 管理職が孤立している
- 成果だけが過度に評価される
といった組織的な要因が背景に存在していることが少なくありません。
つまり、ハラスメントは突然発生するのではなく、組織構造の歪みが表面化した結果として現れる場合があるのです。
なぜ経営課題なのか
心理社会的リスクは、従業員の健康問題に留まりません。
放置された場合、
- 離職率の上昇
- 休職者の増加
- 生産性の低下
- 不正や事故の発生
- 採用力の低下
- 企業イメージの毀損
などにつながります。
つまり、心理社会的リスクは人事労務上の課題ではなく、企業価値に影響を与える経営リスクなのです。
問題ではなく構造を見る
企業で発生する問題は、多くの場合「結果」です。
ハラスメントも、離職も、休職も、不正も、事故も、結果として現れたシグナルです。
本当に管理すべきなのは、
- 情報が歪んでいないか
- 異論が消えていないか
- 権限と責任が曖昧になっていないか
- 評価制度が誤った行動を誘発していないか
といった構造要因です。
問題への対症療法ではなく、構造への介入。
それが心理社会的リスクマネジメントの基本的な考え方です。
おわりに
心理社会的リスクとは、人の感情やストレスを管理する概念ではありません。
組織の設計や運営が適切に機能しているかを問い、問題が発生する前に構造を改善していくための考え方です。
ハラスメント、離職、休職、不正、事故を個別の問題として捉える時代から、組織全体の統治品質として捉える時代へ。
心理社会的リスクという概念は、その転換点を示しています。
投稿者
- ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。
