「配慮してほしい」と言われた企業は、どこまで応えるべきかーー個人の事情と組織の合理性を両立する「配慮設計」

社員から「個別事情に配慮してほしい」と「配慮してほしい」と申し出があったとき、企業はどこまで応えるべきでしょうか。

  • 企業に求められるのは、本人の希望をすべて受け入れることでも、一律のルールで判断することでもありません。障害、疾病・治療、育児・介護、宗教・文化、心理的事情などの背景から「何を守る必要があるのか」を整理し、安全性、業務遂行、公平性、実現可能性を踏まえて対応を設計することが重要です。
  • 個別配慮を管理職による属人的な「例外処理」にせず、情報共有、判断、実施、見直しまでを組織の仕組みとして構築することです。
  • これからの企業に求められる「配慮のガバナンス」を考えます。

社員から障害、疾病・治療、妊娠・育児、介護、宗教・文化、心理的事情などに「配慮してほしい」と申し出があったとき、企業は判断に迷います。
「本人が困っているのだから、できる限り希望どおりにすべきではないか」
一方で、「一人だけ特別扱いすると、他の社員との公平性を保てない」という懸念もあります。
企業に必要なのは、すべての要望を受け入れることでも、一律のルールを適用することでもありません。
「何を守る必要があるのか」と「業務上何が必要なのか」を分けて考え、双方が持続可能な方法を設計することです。

「本人の希望」と「会社が実施する配慮」は同じではない

例えば、治療中の社員から、「毎日在宅勤務にしてほしい」と申し出があったとします。
ここで、「治療中なのだから認めなければならない」と即座に判断することも、「当社は原則出社だから認められない」と即座に判断することも適切とは限りません。
まず確認すべきなのは、なぜ在宅勤務が必要なのかです。

例えば、

  • 通勤そのものに身体的負荷がある
  • 治療後に一定時間の休息が必要になる
  • 特定の曜日に通院がある
  • 感染症への配慮が必要である

など、背景によって必要な対応は異なります。

そのうえで会社側も、

  • 出社しなければできない業務は何か
  • 在宅で実施できる業務は何か
  • チームへの影響はどの程度か
  • 業務分担を変更できるか
  • 他の方法で目的を達成できないか

を検討します。

その結果、「全面的な在宅勤務」ではなく、
「治療日の翌日は在宅勤務とする」
「特定業務の日だけ出社する」
「一定期間実施し、その後見直す」
という第三の方法が見つかるかもしれません。
要望にYES/NOを回答することではなく、要望の背景にある必要性を把握して対応方法を設計することが重要です。

「配慮」と「特別扱い」を混同しない

個別配慮を行うと、「なぜあの人だけ」という声が職場で生じることがあります。
「公平=全員を同じように扱うこと」という考え方があるためです。

しかし、働く条件は一人ひとり異なります。
同じルールを一律に適用することで、ある人だけに著しく大きな負担が生じることもあります。

だからといって、本人が希望することを無制限に認めればよいわけでもありません。
企業には、本人だけでなく、周囲の社員、安全、業務遂行、顧客、組織全体への影響を考える責任があります。

配慮を考える際には、本人の尊厳 × 安全 × 業務遂行 × 公平性を同時に検討する必要があります。

センシティブな事情を「全部話してもらう」必要はない

もう一つ重要なのが、情報の扱いです。
本人が必要としている配慮の背景には、病気、障害、過去の被害経験、トラウマ、家庭事情、宗教・文化など、非常にセンシティブな情報が含まれることがあります。
配慮を検討するためだからといって、直属の上司や関係者が、その詳細をすべて知る必要があるとは限りません。

例えば、「過去に○○という被害経験がある」という情報そのものではなく、「予告のない身体接触を避ける必要がある」という情報だけで、必要な対応ができる場合があります。

「事情そのもの」と「業務上必要な配慮情報」を分離する。

これは本人のプライバシーを守るだけではありません。
組織内に不要なセンシティブ情報を流通させないという、情報ガバナンス上の重要な考え方でもあります。

管理職一人に判断させない

個別配慮で起こりやすいもう一つの問題が、判断の属人化です。
ある上司は、「本人が困っているなら何でも認めよう」と考える。
別の上司は、「一人だけ例外は認められない」と考える。

これでは、同じ会社でも上司によって対応が変わります。
さらに管理職は、疾病、障害、トラウマ、宗教、育児、介護など、すべての領域の専門家ではありません。

必要なのは、

  • 誰が相談を受けるのか
  • 誰が必要性を整理するのか
  • 誰が実現可能性を判断するのか
  • どの情報を誰まで共有するのか
  • 誰が最終判断するのか
  • いつ見直すのか

という組織としての判断プロセスです。

「制度に当てはめる」だけでは解決できないケースが増えている

企業にはすでに、育児・介護、治療と仕事の両立、障害者への合理的配慮など、さまざまな制度があります。
しかし、現実の人間の事情は制度ごとにきれいに分かれているわけではありません。
疾病と育児が重なることもあれば、障害特性と職場の人間関係が影響し合うこともあります。
既存制度のどれにも完全には当てはまらないケースもあります。
このようなときに、「この制度の対象ではありません」で終わるのではなく、この人が安全かつ持続的に働くために何が必要で、組織として何ができるのかという視点から考えることが必要になります。

個別配慮を「例外処理」から「仕組み」へ

人材の多様化が進み、個別事情への対応は増えるたびに、人事担当者や管理職がゼロから悩み、本人と交渉し、特例を作る。
この状態を続ければ、個別配慮そのものが組織リスクになります。

必要なのは、個別事情が生じたときに、適切な情報を把握し、必要な配慮要件へ変換し、組織側の条件と照合して、実行可能な方法を設計する仕組みです。

当社は、この考え方をSensitive Governance™(センシティブ・ガバナンス)と呼んでいます。
本人の希望をそのまま会社に求めるのでもない。
会社の都合に本人を合わせるのでもない。
人に仕事を合わせるだけでも、仕事に人を合わせるだけでもなく、人と組織の間を設計する。
個別配慮が増える時代だからこそ、この「配慮を判断し、設計する能力」が、これからの企業に求められる新しいガバナンスの一つになると考えます。

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仕事と職場のセンシティビティ・コーディネーション(個人面談・センシティブ情報整理・個別配慮設計)

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投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。