建設業のダイバーシティは、女性用トイレの整備で終わらない―女性活躍を入口に、「誰もが実力を発揮できる現場」へ

建設業では、女性の入職・定着を促すため、女性用トイレや更衣室などの現場環境整備が進められてきました。しかし、これからの女性活躍に必要なのは、設備だけではありません。長時間・早朝を前提とした働き方、固定的な役割分担、育児等との両立、キャリア形成、ハラスメント、管理職の意識や現場運営まで含めて見直す必要があります。国土交通省も、女性活躍を切り口として「全ての人が働きやすく働きがいのある建設産業」を目指しています。女性が働き続けられる現場をつくることは、多様な人材が実力を発揮できる建設業への転換でもあります。

女性活躍は「設備整備」から次の段階へ

建設業の女性活躍というと、女性用トイレ、更衣室、休憩スペースなどの整備がまず思い浮かびます。
国土交通省も「快適トイレ」の普及など、建設現場の環境改善を進めてきました。
これらは最低限必須ですが、設備を整えれば女性が入職し、長く働き、活躍できるわけではありません。

例えば、

  • 早朝・長時間勤務を当然とする現場運営
  • 育児や介護と両立しにくい勤務・配置
  • 「女性にはこの仕事」という固定的な役割分担
  • 現場経験と昇進・キャリア形成の両立の難しさ
  • ハラスメントや無意識の思い込み
  • 個別事情を相談しにくい職場風土

こうした問題が残っていれば、採用した女性が定着しない、あるいは働き続けても重要な職務や管理職へ進めないということが起こります。

国交省も「全ての人が働きやすい産業」へ

国土交通省は2025年3月、建設業団体等と共同で「建設産業における女性活躍・定着促進に向けた実行計画」を策定しました。
そこで掲げられている方向性は、単に女性の人数を増やすことではありません。

経営者や建設産業全体の意識改革、柔軟な働き方や仕事と家庭の両立、スキルアップとキャリアパス、戦略的な魅力発信、現場のハード・ソフト両面からの環境整備などを進め、女性活躍を切り口として「全ての人が働きやすく働きがいのある建設産業」を目指しています。

女性活躍政策そのものが、現場と組織のあり方を変える段階に入っているといえます。

「女性が働きにくい理由」を構造から見る

ここで重要なのは、女性本人に「頑張って適応してもらう」ことではありません。

例えば、育児中の社員が現場で働き続けることが難しいとします。
本人の問題として処理する前に、
「なぜ、この仕事はこの時間でなければできないのか」
「なぜ、現場に常駐しなければならないのか」
「ICTや遠隔対応で代替できる業務はないか」
「業務を別の人と分担できないか」
と考えてみる。

すると、女性活躍の問題だと思っていたものが、実は業務設計や現場マネジメントの問題だったということがあります。
この改善は、女性だけでなく、育児中の男性、介護を担う社員、治療と仕事を両立する社員、高齢者などにも恩恵をもたらします。

一律の「女性への配慮」にもしない

もう一つ注意したいのが、「女性だから配慮する」という一律の運用です。

妊娠したから現場から外す。
育児中だから重要な仕事を任せない。
転勤が難しいだろうから昇進候補から外す。
—善意から行われた対応でも、本人の希望を確認せずに会社側が判断すれば、キャリア形成を妨げる可能性があります。

必要なのは、本人との対話 → 必要な配慮の整理 → 安全性・業務上の必要性の確認 → 実現可能な働き方・配置の調整という個別のプロセスです。

ダイバーシティとは、全員を同じように扱うことでも、特定の属性を一律に優遇することでもありません。
異なる事情を持つ人が、それぞれの実力を発揮できる条件を整えることが重要です。

採用人数ではなく、「その先」を見る

女性活躍の進捗を見る際にも、女性従業員比率だけでは十分ではありません。
見るべきなのは、その先です。

採用 → 配属 → 定着 → 育成 → 資格取得 → 重要業務への配置 → 昇進 → 管理職・経営層

どこで女性が少なくなっているのか。

例えば採用数は増えているのに管理職がほとんど増えていないのであれば、採用ではなく、配置・育成・評価・昇進のどこかにボトルネックが存在する可能性があります。
女性活躍を「人数」ではなく、キャリアの流れとして見ることが必要です。

女性活躍は、建設業そのものを強くする

建設業は深刻な担い手不足に直面しています。
その中で、従来の働き方に適応できる人だけを前提としていては、人材の入口は狭くなります。

女性が働き続けられる現場をつくる。
育児や介護をしながら働けるようにする。
年齢や属性にかかわらず能力を発揮できるようにする。
個人の事情が変わってもキャリアを継続できるようにする。
—これは女性のためだけの施策ではありません。

多様な人材を採用し、定着させ、育て、その力を十分に引き出せる建設会社をつくることです。

女性用トイレを整備することは、大切な一歩です。
しかし、そこで終わらない。
女性が働きにくい場所、続けにくい働き方、活躍しにくい制度を一つずつ見つけ、現場と組織の仕組みを変えていく。
女性が実力を発揮できる建設現場への転換は、すべての人が実力・真価を発揮できる建設業への転換でもあります。

関連サービス

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。