建設業界では長年にわたり労働災害防止への取り組みが続けられてきました。
安全大会、KY活動、ヒヤリハット共有、安全教育⋯。
現場の努力によって災害件数は大きく減少してきましたが、それでもなお重大事故や死亡災害は後を絶ちません。
事故が発生するたびに「安全意識の不足」や「確認不足」が原因として挙げられます。
本当にそれだけなのでしょうか。
事故は現場で起きます。
しかし、事故の原因は、必ずしも現場だけにあるわけではありません。
近年の労災事故の背景には、人材不足や管理職負荷の増大など、建設業界全体が抱える構造的な課題が存在しています。
人手不足が生む経験者不足
建設業界では技能者の高齢化が進んでいます。
長年現場を支えてきたベテランが引退する一方で、若手人材の確保は容易ではありません。
その結果、
- 危険を予測する力
- 異常を察知する力
- 作業の優先順位を判断する力
といった経験知が不足しつつあります。
かつてであればベテランが気付いていた危険を見逃しやすくなり、事故のリスクは高まります。
もちろん採用活動の強化は重要です。
しかし、それだけでは根本解決になりません。
今いる人材を育成し、経験を継承しやすい仕組みを構築することが必要です。
現場監督が限界を迎えている
建設業界の多くの課題は、現場監督に集中しています。
現場監督は、
- 安全管理
- 品質管理
- 工程管理
- 原価管理
- 発注者対応
- 協力会社調整
- 若手育成
を同時に担っています。
さらに近年は書類作成や各種報告業務も増加しています。
事故の背景を調べると、「危険を認識していたが対応できなかった」「確認する時間がなかった」というケースは少なくありません。
これは個人の能力の問題ではなく、役割や責任が過度に集中した結果です。
現場監督の負荷を下げるためには、
- 権限と責任の整理
- 若手への段階的な権限移譲
- 情報共有ルールの整備
が不可欠です。
働き方改革の副作用
働き方改革は必要な取り組みです。
しかし一方で、「工期は変わらないのに労働時間だけ減った」という現場も少なくありません。
その結果、
- 工程の圧縮
- 焦り
- 無理な作業
- コミュニケーション不足
が生じることがあります。
事故の直前には、
「本当は無理だと思っていた」
「危険だと感じていた」
という声が後から出てくることも珍しくありません。
つまり問題は労働時間そのものではなく、無理と言えない環境や、リスクを共有できない組織風土にあります。
本当の事故原因は「組織」にある
労災事故の多くは、作業員一人の不注意だけで発生するわけではありません。
その背景には、
- 情報共有不足
- 判断基準の曖昧さ
- 管理職への負荷集中
- 報告しづらい風土
- 異論を言えない環境
といった組織的な要因があります。
事故が起きた後に個人へ再教育を行うことも大切ですが、それだけでは再発防止にはなりません。
事故が起きにくい組織をつくる視点が求められています。
労災事故を減らすために企業が取り組むべきこと
1.ベテラン依存から脱却する
技能や判断基準を属人化させず、若手へ段階的に移管できる仕組みを整備する。
2.現場監督の仕事を整理する
現場監督しかできない仕事と、他の人でもできる仕事を分ける。
権限移譲と役割設計を進める。
3.情報共有の仕組みを整える
朝礼や終礼、週次会議などを活用し、危険や課題を共有する。
4.無理と言える文化をつくる
「危険です」
「間に合いません」
「この工程は無理があります」
と言える環境を整備する。
5.安全管理から安全文化へ
ヘルメットや安全帯だけでは事故は防げません。
情報が上がる
異論が言える
管理職が機能する
そうした安全文化の構築が重要です。
事故は現場で起きる。しかし事故原因は会議室で作られる
労災事故は突然発生するものではありません。
その前には必ず、
人手不足、
管理職疲弊、
情報共有不足、
コミュニケーション不全、
といった兆候が存在します。
だからこそ企業に求められるのは、事故が起きた後の対応ではなく、事故が起きにくい組織づくりです。
安全管理を強化するだけではなく、人材育成、管理職育成、情報共有、組織ガバナンスを含めた総合的な取り組みこそが、これからの建設業に求められる安全対策なのです。
投稿者
- ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。
