パワハラやセクハラ、マタハラ等々のハラスメントは、被害者に害をもたらすだけでなく、加害者自身にもブーメランのように返ってきて、多くの大切なものを奪い、人生を大きく狂わせます。
ハラスメントが加害者にもたらす影響
(1)罪悪感に苛まれる
被害者を苦しめたという罪悪感が重くのしかかります。
ハラスメントの加害者の多くは、故意・悪意で加害行為をするわけではありません。相手のためを思ってとか、つい感情的になってしまってといった、「良かれと思って」や「ついうっかり」などが動機になっていることがほとんどです。
相手を苦しめたかった、傷つけたかったわけではないのですから、思いがけず苦痛を与えてしまったと、強い自己嫌悪に陥ります。
万が一被害者が自殺してしまった場合には、人を死なせたという十字架を一生背負い続けることになります。
(2)法的責任を問われる
民事上または刑事上の法的責任を問われることがあります。
①民事上の責任
ハラスメントにより相手に身体的又は精神的損害を与えた場合、加害者は不法行為による損害賠償責任を負うことになります(民法709条)。
その内訳は、慰謝料、治療費、逸失利益などで、事案の内容や被害の大きさ等により大きく異なりますが、総額30〜300万円、又はそれ以上になることもあります。
被害者が重篤なうつ病に罹患したり、自殺したりした場合は、高額になります。
②刑事上の責任
悪質な場合には「犯罪者」になり得ます。「ハラスメントというより犯罪だ」という表現がしばしば聞かれますが、そもそもハラスメントには犯罪行為が含まれていて、犯罪にはハラスメント行為が含まれています。
例えば、暴力をふるった場合は、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)、人前で人格を否定する発言をすれば名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)、「自殺しろ」と繰り返し発言した場合は自殺教唆罪(刑法202条)や脅迫罪(刑法222条)、本人の意に反することをさせると強要罪(刑法223条)、その他場合によっては殺人罪(刑法199条)などが成立する可能性があります。
(3)懲戒処分
就業規則の定めに従い、勤務先から懲戒処分を受けることがあります。
最悪の場合は「懲戒解雇」となり、仕事も退職金も、コツコツ積み上げてきたキャリアや信用も、一瞬にして失うことになります。
懲戒処分の種類や適用要件は会社により異なりますが、例えば、以下のような処分が、その行為や被害の程度により科されます。
<懲戒処分の例>
- 譴責
- 減給
- 出勤停止
- 降格
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇、等
(4)誹謗中傷を受ける
近年、ハラスメント問題は世間の関心が高く、ニュースや週刊誌などでも大きく報じられるため、報道により名前や勤め先などが公表されるだけでなく、一般のインターネットユーザーが個人情報を特定し、世界中に拡散します。
それにより、身近な人たちから非難を受けるだけでなく、見ず知らずの世間一般からも誹謗中傷や嫌がらせ、身体的攻撃を受けることがあります。
いわゆる「私刑」を受けるということです。
加害者となった本人だけでなく、家族や関係者の個人情報も拡散され、家族が勤め先や学校でいじめを受けることもあります。
<誹謗中傷被害の例>
- インターネット上で過去の行為や侮辱的な悪口を書き込まれる
- いたずら電話
- 石や卵を投げられる
- 家の壁や塀に落書きされる
- 注文していない料理が大量に配達される
- 襲われる、等
(5)人間関係の崩壊〜居場所を失い、孤独に陥る
信用や地位を失うと、潮が引くように人が離れていき、人間関係が崩壊します。
職場では居場所を失い、家族からは縁を切られ、ちやほやしてくれていた人たちも関わってくれなくなり、孤独に陥ります。
解雇にならない限り、職を失うことはありませんが、周囲からは特異な存在という目で見られたり、腫れ物に触れるように扱われたりします。
たとえ周囲がそうしなくても、加害者自身が萎縮し被害妄想に陥り周囲との距離を置きすぎてしまい、組織内がギクシャクした空気になることもあります。
(6)心身への影響
以上のような苦しい状況に身を置くこととなり、多くの加害者が心身の健康を害します。
食欲不振、不眠、動悸、集中力低下などが、加害者となってしまった方々の多くに見られます。
加害者が自殺するケースもあり、ハラスメントは加害者にとっても、命に関わる問題です。
ハラスメントは百害あって一利なし
ハラスメントの加害者となれば、家族も友人も仕事も財産も名誉も、多くの大切なものを失う可能性があります。
ほんのいっときの感情や欲求のままに行動すれば、そのときだけは感情や欲求が満たされたとしても、その後に失うものの大きさを考えると、まったく割に合いません。
特に、一度失った信用を取り戻すのは、お金や職を取り戻すよりも難しく、信用とともに失われた家族や友人は多くの場合戻ってきません。同僚や部下との間にできた溝も、完全に埋めるのは極めて困難で、どうしても居心地の悪さを拭えないでしょう。
だからこそ、失う前の「予防」が重要なのです。「自分の若い頃は厳しくされて育ったものだ」「わい談は職場の緩衝材だ」「ハラスメントと言われるのも覚悟の上!」と言動を正当化する方がいますが、人生のすべてを失うかもしれないという覚悟まで、本当にできているのでしょうか。人生のすべてを賭けてまでする価値がハラスメントにはあるのでしょうか。
そもそも、ガミガミ怒っても人は成長しません。わい談で場が和んでいると思っているのは発言者のみで、実際には場が凍りついている、その場にいる人たちは不快に感じているものです。
大事なのは、コミュニケーション
だからといって、加害者にならないために、萎縮しすぎてコミュニケーションをとらなくなるのでは、返ってハラスメントを誘発し、業務の質と効率を低下させることになります。
大切なのは、「モラルある」コミュニケーションを積極的にとることです、減らすのではなく。
コミュニケーションに必要な「モラル」
- 人が嫌がることをしない。
- もしも自分や大切な人がされたら嫌なことは、誰に対してもしない。
- 相手が嫌だというなら、(必要な指導や対話以外は)もうしない。
もしも加害者になってしまったら
相手や迷惑をかけた方に対し謝罪するのはもちろん、自分の行為の何が問題だったのかを深く掘り下げ、自省することが大切です。
なぜ当該行為をしてしまったのか、感情的になったのか、自分の認識がずれていたのか、正義感からか。―なぜ感情的になったのか、自分の認識はどうで、社会一般はどのようであるか、自分は何を正義としていて、その正義を表現する方法として行為は適切だったか。―そのとき相手はどのような心情だったのか、どのような反応だったか・・・。
自分自身の内面と、表面化した行為と、相手の心情と、社会一般の認識とを書き出し、それぞれの間のギャップを見える化します。
そうすることで、自分の何を改めるべきかが見えてくるため、それを真摯に受け止め、言動を改め、実践します。
それでも周囲との溝は埋まらないかもしれません、コミュニケーションをとるのは怖いかもしれません。
それまで以上に(人生で一番といえるくらいに)高潔な言動を心がけ、自暴自棄にならず、焦らずゆっくり、信用を取り戻していくことです。諦めずに。
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