- 再発防止のためには、必要に応じて行為者本人の判断基準・認識・行動を見直す機会を設けることが重要だからです。
- 処分や注意だけでは、本人が「なぜ問題だったのか」「次にどう判断すべきか」を十分に理解できない場合があります。
- 特に、経営者・役員・管理職・教授など、高い専門性や裁量を持つ人には、人格や感情に働きかけるだけでなく、事実・権限・責任・リスクから問題を整理する「ロジカルアプローチ」が有効な場合があります。
- 第三者・専門家が入る利点は、処分・評価を行う主体と、再発防止のための学習を支援する主体を、一定程度分離できることにあります。
- 本稿では、行為者への個別指導が必要な理由、第三者・専門家が介入する意義、そして個人への働きかけと組織構造の改善を両輪で行う再発防止について解説します。
ハラスメントが発生したとき、企業が考えなければならないのは、なぜその行為が起こり、どうすれば同じことを繰り返さないのか、という再発防止です。
再発防止には、組織側の構造的な改善と、行為者本人への個別的な働きかけの両方が必要です。
組織だけを変えても、本人の判断基準が変わらなければ再発する可能性があります。
一方、本人だけを指導しても、過大な業務負荷、曖昧な権限、偏った評価制度、閉鎖的な組織文化などが残れば、別の場所で同じ問題が生じる可能性があります。
ハラスメントの再発防止を「個人か組織か」という二者択一で考えないことが重要です。
処分をしただけでは、再発防止とはいえない
ハラスメントが認定された場合、企業は就業規則等に基づき、必要な措置を検討します。
しかし、懲戒処分や注意を行うことと、再発を防止することは同じではありません。
本人に悪意がなくても、その判断基準が現在の職場環境や社会規範とずれていれば、状況を変えて同じ問題が繰り返される可能性があります。
たとえば、本人が、
「厳しく指導しただけだ」
「自分の時代には普通だった」
「仕事なのだから、この程度は当然だ」
「相手が過敏なのではないか」
と考えている場合です。
再発防止で問うべきなのは、どのような判断基準に基づいて、その行動を選択したのかです。
必要なのは「人格の修正」ではなく「判断基準の更新」
ハラスメント行為者への指導というと、性格や感情、コミュニケーション特性など、心理的な側面への働きかけが想定されることがあります。
もちろん、心理的アプローチが有効なケースもあります。
しかし、すべての行為者に心理的アプローチが必要とは限りません。
特に、経営者、役員、管理職、教授、高度専門職など、長年にわたって一定の成果を上げ、大きな裁量を持ってきた人の場合、人格そのものではなく、
- 過去には許容されていた判断基準
- 自らの権限についての認識
- 指導と威圧の境界
- 成果責任と部下への配慮のバランス
- 上位者として許容される言動の範囲
- 現在の法令・社会規範・企業規模との不整合
を問うことがより重要です。
この場合に必要なのは、仕事上のOSともいえる判断基準を、現在の環境に合わせてアップデートすることです。
なぜ上位者には「ロジカルアプローチ」が機能しやすいのか
経営者や役員、教授、上級管理職などへの個別指導には、特有の難しさがあります。
長年の経験と実績を持つ人に対して、
「あなたのコミュニケーションには問題があります」
「もっと相手の気持ちを考えましょう」
と伝えても、本人の経験則と衝突してしまうことがあります。
本人からすれば、「それでこれまで組織を率いてきた」「成果を上げてきた」「必要な指導だった」という論理が存在するからです。
そこで有効になるのが、感情や人格ではなく、事実・役割・権限・責任・リスク・判断基準から整理するロジカルアプローチです。
「あなたの性格を変えてください」ではなく、
「この役職に付与されている権限はどこまでか」
「今回の目的を達成するために、その言動は必要だったか」
「同じ目的を、よりリスクの低い方法で達成できなかったか」
「その行動が10人規模の組織では機能しても、500人規模の企業で標準化された場合、どのようなリスクが生じるか」
「あなたと同じ行動を、すべての管理職に許容できるか」
と問い直します。
人格への評価ではなく、経営・管理上の意思決定をレビューする作業です。
責任ある立場にある人ほど、議論の土俵に乗りやすくなる場合があります。
管理職としての意思決定能力を更新する
特に管理職以上への再発防止では、「正しい・間違っている」という議論だけでは行き詰まることがあります。
本人には本人なりの合理性があるからです。
そこで、視点を変えます。
たとえば、部下を強く叱責した管理職に対して、「叱ったことが悪かった」だけで終わらせるのではなく、
- 目的は何だったのか。
- その目的に対して、その手段は合理的だったのか。
- 他の選択肢はなかったのか。
- 権限行使として適切だったのか。
- 組織全体に同じ方法を許容できるのか。
と分解します。
すると、「ハラスメントをした/していない」という防御的な議論から、より良いマネジメント判断は何だったのかという議論へ移行できます。
これは再発防止だけでなく、管理職としての意思決定能力を更新することにもつながります。
個別指導だからできることがある
全社員向けのハラスメント研修にも重要な役割があります。
一方、実際に問題となった行為について、本人固有の判断過程を扱うことには限界があります。
個別指導では、一般論として「パワハラとは何か」を教えるだけでなく、本人が実際に用いている判断ロジックを取り出して検討できます。
そして、従来の判断基準 → 問題となった理由 → 新しい判断基準 → 次回の具体的行動まで接続します。
ここに、集合研修とは異なる個別指導の意味があります。
なぜ社内ではなく、第三者・専門家が行うのか
行為者への指導は、人事部や直属上司が行うこともできますが、特に対象者が経営者、役員、上級管理職、教授などの場合、社内だけで行うことには構造的な難しさがあります。
人事担当者との役職差が大きい、過去からの人間関係がある、評価・処分を行った会社への反発がある、社内政治と結び付けて受け取られる、といった事情があるからです。
第三者が入る利点は、単に「外部の人だから話しやすい」ことだけではありません。
処分・評価を行う主体と、再発防止のための学習を支援する主体を一定程度分離できることにあります。
会社は、必要な事実認定と人事上の措置を行う。
第三者専門家は、その判断そのものを蒸し返すのではなく、「今後、同様の状況でどう判断するか」を本人と検討する。
役割を分けることで、再発防止の対話を成立させやすくなります。
本人への指導だけでも、組織改善だけでも足りない
もう一つ重要なのが、行為者個人にすべての原因を帰属させないことです。
ハラスメントの背景には、業務過負荷、曖昧な役割分担、過度な成果圧力、権限の集中、情報の遮断、不適切な評価制度、管理職への支援不足など、組織構造上の要因が存在することがあります。
その場合、本人だけを研修して職場へ戻しても、同じ環境が残っています。
反対に、「これは組織構造の問題だ」として制度だけを変更しても、実際に問題行動を起こした本人の判断基準が従来のままであれば、十分とはいえません。
個人には、判断基準・認識・行動のアップデートを。
組織には、役割・権限・業務・情報・評価・監督など、問題を生み出した構造の修正を。
両方が接続して初めて、再発防止は「研修を実施した」「制度を改定した」という形式から、実際の行動変容へ移ります。
ハラスメント行為者への個別指導は「更生」ではなく、経営上の再発防止である
行為者への個別指導という言葉には、ときに「問題のある人物を更生させる」というイメージが伴いますが、企業が行う再発防止は、人格矯正を目的とするものではありません。
重要なのは、この組織、この役職、この社会環境において、どのような判断と行動が求められるのかを再定義することです。
特に、長年の成功体験を持つ経営者、役員、管理職、教授、専門職などには、「あなた自身を変える」というアプローチより、「あなたが持っている高度な専門性や経験を、現在の組織環境で適切に機能させるために、判断基準を更新する」というアプローチの方が適することがあります。
ハラスメント再発防止は、反省文を書かせて終わるものでも、全社員にもう一度研修をして終わるものでもありません。
個人の判断基準を更新する。
同時に、その行為を生みやすくした組織構造を修正する。
「人」と「構造」の双方に介入すること。
それが、再発防止を実効的なものにするための基本設計です。
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- ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。
