ビジネスと人権
- 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」によると、国の人権保護の義務だけでなく、企業も人権を尊重する主体として、次のことを求められています。
- 企業は、企業活動を通じて人権に悪影響を引き起こすこと、及びこれを助長することを回避し、影響が生じた場合は対処する。
- 企業がその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の活動、商品又はサービスと直接関連する人権への悪影響を予防又は軽減するように努める。
- 企業の規模や、運営状況、業種等に関係なく、全ての企業に対して、人権を尊重する責任を果たすことが期待されています。
- どのような活動を行う場合でも、国際的に認められた人権を尊重することが求められています。
ビジネスと人権に関し企業が行うべき取組の全体像
企業の責任として「人権を尊重する」ことが求められています。
具体的には、人権への負の影響を防止・軽減し、救済するための具体的な措置として、大きく(a)方針によるコミットメント、(b)人権デュー・ディリジェンスの実施、(c)救済措置、の3つの行動が挙げられています。つまり、人権に関する対応方針を策定し企業としてのコミットメントを表明すること、社内外で調査を実施して人権への影響を把握・特定すること、そして特定した人権に関するリスクに対して予防策・対応策を実施し、適切な救済を提供することが求められています。
自社事業による人権への負の影響を防止・軽減するための取組
1.方針によるコミットメント
企業は、人権を尊重する責任を果たすというコミットメントを企業方針として発信することが求められています。
(1)人権方針の策定
- 自社人権方針(人権ポリシー)の作成・公開
- 人権への取組の責任者を含むマネジメント体制の説明 など
2.人権デュー・ディリジェンスの実施
企業は、人権への影響を特定し、予防し、軽減し、そしてどのように対処するかについて説明するために、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方法に関する情報発信を実施することが求められています。この一連の流れのことを「人権デュー・ディリジェンス」と呼んでいます。
人権方針の策定に必要な5つの要件
- 企業の経営トップが承認していること
- 社の内外から専門的な助言を得ていること
- 従業員、取引先及び、製品やサービス等に直接関与する関係者に対する人権配慮への期待を明記すること
- 一般公開され、全ての従業員や、取引先、出資者、その他関係者に向けて周知されていること
- 企業全体の事業方針や手続に反映されていること
(2)人権への影響評価
- 人権への負の影響の特定・分析・評価
(3)教育・研修の実施-(顕在的・潜在的な負の影響に対する)予防/是正措置の実施
- 人権研修の実施
- ダイバーシティに関する社内啓発活動の実施 など
(4)社内環境/制度の整備-(顕在的・潜在的な負の影響に対する)予防/是正措置の実施
- 各種社内制度(人事・評価・働き方等)の変更・改善
- バリアフリー設備の導入 など
(5)サプライチェーンの管理-(顕在的・潜在的な負の影響に対する)予防/是正措置の実施
- 「サプライヤー行動規範」の策定
- 持続可能な責任ある原料の調達 など
(6)モニタリング(追跡調査)の実施
- 定期的な従業員/取引先アンケートの実施
- 従業員の勤務状況/労働時間のモニタリング/労働組合との意見交換 など
(7)外部への情報公開
- 人権報告書/サステナビリティ報告書等の作成・公開
- 人権に関するリスクの評価結果に関する情報公開 など
3.救済措置
人権への悪影響を引き起こしたり、又は助長を確認した場合、企業は正当な手続を通じた救済を提供する、又はそれに協力することが求められています。
(8)(実際に引き起こされた負の影響に対応するための)苦情処理メカニズムの整備
- 社内向けホットライン(苦情/相談窓口)の設置
- サプライヤー向けホットライン(同上)の設置
- お客様相談室の設置 など
企業による苦情処理メカニズムの確立の重要性
- 「指導原則」は、人権侵害を受けた者の救済へのアクセスを確実にするよう国家に求めると同時に、企業にも苦情処理の仕組みを検討することを求めています。
- 「指導原則」によると、企業は悪影響を受けた個人及び地域社会のために、実効的な運用レベルの苦情処理の仕組みを構築する、又はこれに参加すべきとされています。
- 人権関連の基準の尊重に基礎をおく業界等は、実効的な苦情処理の仕組みが利用可能であることを確保すべきとされています。