「開花させる力」がリーダーシップ――マネジメントが幹をつくり、リーダーシップが枝を伸ばす

組織には、誰が担当しても一定の品質と安全性を保てる「構造」が必要です。しかし、役割、手順、評価、意思決定まで細かく管理しすぎれば、人は次第に決められた仕事を正確にこなす存在になります。それでは、多様な経験や専門性を持つ人材を集める意味がありません。会社がつくるべきなのは、すべての行動を決める仕組みではなく、守るべき「幹」です。その幹から一人ひとりが異なる枝を伸ばし、そこで生まれた成果を再び組織へ還元する。これからのリーダーには、人を統制する力以上に、構造を守りながら、人が構造を超えていくことを可能にする力が求められます。

組織に「構造」は必要である

組織運営において、属人性の排除は重要です。

担当者が変わるたびに品質が変わる。上司によって判断基準が違う。特定の人がいなければ仕事が止まる。こうした状態では、企業として安定した事業運営はできません。

そのため会社は、役割、権限、意思決定、業務手順、評価基準、情報共有、コンプライアンスなどについて、一定の構造をつくる必要があります。
これはマネジメントの重要な役割です。

しかし、ここには一つの逆説があります。
優れたマネジメントを徹底するほど、人間まで標準化してしまう危険があるということです。

人まで標準化したら、多様な人材を採用する意味がない

企業は、多様な人材を求めています。
異なる専門性、経験、価値観、発想、得意分野を持った人を採用し、それを競争力につなげようとします。
ところが入社した途端、
「この手順でやってください」
「前例どおりにしてください」
「上司の判断を仰いでください」
「評価項目に沿って行動してください」
と、仕事の仕方まで均質化してしまうことがあります。
これでは、多様な人材を採用しておきながら、組織の中で同じ形に整えていることになります。

必要なのは、構造をなくすことではありません。
会社が最低限の構造を明確につくるからこそ、その先を個人に委ねることができます。

マネジメントは幹をつくり、リーダーシップは枝を伸ばす

会社がつくるのは「幹」です。
企業理念、法令遵守、安全、品質、責任と権限、意思決定の原則など、組織として外してはいけないものは、太い幹として共有します。

しかし、枝の伸びる方向まで会社が決める必要はありません。

ある人は専門性を深める。
ある人は顧客との新しい関係をつくる。
ある人は業務を改善する。
ある人は新しい市場を発見する。

同じ幹から、異なる枝が伸びてよい。
その枝を伸ばせる状態をつくることが、リーダーシップです。

必要なのは「方向を示し、方法を決めすぎない」力

リーダーシップで重要なのは、放任ではありません。

リーダーは、「何を実現するのか」「何を守らなければならないのか」を明確にします。

その一方で、「どうやって実現するのか」については、できる限り本人に委ねます。
①目的は共有する、②境界は明確にする、③方法には余白を残す。この三つを同時に成立させます。

細かく指示するよりも、実は難しいマネジメントです。
リーダー自身に、「任せてよい領域」と「任せてはいけない領域」を判断する力が必要になるためです。

「違い」を誤差ではなく、資産として見る

組織を管理する側から見ると、人による違いは「ばらつき」に見えることがあります。
すべてのばらつきを、「属人化をなくそう」と取り除くと、組織は均質になり、特徴がなくなります。

リーダーが見るべきなのは、「なぜ、この人は他の人と違うのか」です。

顧客との距離の縮め方が違う。
問題の発見方法が違う。
説明の仕方が違う。
仕事の組み立て方が違う。
そこに、その人固有の価値があるかもしれません。

したがって、成果の最低基準は共通化しても、成果への到達経路まで共通化しない。
これが、多様性を単なる人員構成ではなく、組織能力へ変える条件になります。

優れたリーダーは「逸脱」をすぐに潰さない

さらに重要なのが、既存の構造から外れた行動への対応です。
すべての逸脱を認めれば、組織は統制を失います。
一方で、すべての逸脱を禁止すれば、組織は進化しません。

必要なのは、危険な逸脱と、価値を生む逸脱を見分けることです。

法令、安全、人権、重大な品質基準など、守らなければならない境界は明確にする。
「これまでそうしてきたから」というだけのルールや慣行については、異なる方法を試す余地を残す。
成果が確認できれば、例外 → 実験 → 検証 → 新しい標準へと変えていきます。

ここで、個人の挑戦が組織の進化につながります。

個人の成功で終わらせない

もう一つ、リーダーには重要な仕事があります。

優秀な社員が独自の方法で大きな成果を上げても、その人にしかできないのであれば、会社の力になったとは言い切れません。

そこでリーダーは、個人の発見を、組織の知へ変換する。

なぜうまくいったのか。
何が従来と違ったのか。
どこまで他の人にも応用できるのか。
既存の仕組みを変える必要はないか、を考えます。

すると、構造 → 個人の挑戦 → 新しい成果 → 組織学習 → 構造の更新という循環が生まれます。
構造は人を固定するものではなく、人によって進化していくものになります。

排除すべき属人性と、育てるべき属人性

これからの組織では、「属人性を排除する」という言葉そのものを、もう少し精密に考える必要があります。

排除すべきなのは、特定の人がいなければ仕事が止まること、判断基準が人によって変わること、法令遵守や安全、品質が個人の能力や良心に依存することです。

一方、排除してはいけない属人性もあります。

専門性、経験、発想、感性、顧客理解、問題発見力、創造性—
—これらまで標準化すれば、人材の価値そのものを失います。

したがって、目指すべきなのは「属人性のない組織」ではありません。
排除すべき属人性を構造でなくし、育てるべき属人性をリーダーシップで開花させる組織。
この区別が重要です。

マネジメントとリーダーシップの関係図

リーダーとは、人を動かす人ではなく、人が動き出せる構造をつくる人

リーダーシップというと、強いビジョンを語ること、人を鼓舞すること、先頭に立って引っ張ることが語られがちです。
もちろん、それが必要な場面もあります。

しかし、多様な専門人材が働くこれからの組織では、もっと静かなリーダーシップが必要ではないでしょうか。

人を自分の方向へ引っ張るのではなく、その人自身が進む方向を見つけられる状態をつくる。
会社として守るべき幹は強くする。
その代わり、枝の伸ばし方まで管理しない。
そして、新しく伸びた枝から生まれた知恵を、再び組織の幹へ戻していく。

これが、安定と多様性、ガバナンスと自律、再現性と創造性を両立させるリーダーシップであると考えます。

マネジメントは、誰が働いても組織が機能する状態をつくる。
リーダーシップは、その「誰か」が、その人である意味をつくる。

企業が多様な人材を採用するのであれば、その両方が必要です。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。