ペイシェントハラスメント

ペイシェントハラスメントとは、医療従事者が、患者やその家族等から受けるハラスメントのことです。
ハラスメントとは、人権、人格、自尊心を侵害する言動のこと。
つまり、医療従事者が、患者やその家族等から受ける、人権、人格、自尊心を侵害するような暴言、暴力、性的嫌がらせなどを、「ペイシェントハラスメント」といいます。
「医療現場におけるカスタマーハラスメント」「患者等からの迷惑行為」などと表現されることもあります。
また、ペイシェントハラスメントの主体(行為者)を。「モンスターペイシェント」と呼ぶことがあります。

厚生労働省が公表した令和3年度の「過労死等の労災補償状況」では、精神障害に関する事案の労災補償について、請求件数、支給決定件数ともに、「医療、福祉」が最も多くなっています。

日本看護協会が実施した「2017年看護職員実態調査」によりますと、過去1年間における暴力・ハラスメントを勤務先または訪問先等で受けた経験がある人について、誰から受けたかについて訪ねたところ、「意に反する性的な言動」「身体的な攻撃」は「患者」からが最も多かったということです。

福岡医師刺傷事件

  • 2022年6月27日、福岡市東区の病院で、男性が医師をナイフで複数回刺し殺害しようとした事件。逮捕された容疑者は以前、通院していた母親の付き添いでこの病院を訪れていた。
  • 刺された男性医師は、背中などに全治2週間の負傷。
  • 動機等は捜査中。
ふじみ野市散弾銃男立てこもり事件
2022年1月27日、60代男性(本件犯人)が、その前日に死亡した母親のため利用していた出張介護クリニックの関係者を含む医療関係者7名を、弔問に呼び出し、人質にして取り立てこもり、散弾銃や催眠スプレーで攻撃、医師1名が殺害された事件。
北新地ビル放火殺人事件

  • 2021年12月17日に、大阪府大阪市北区曽根崎新地の雑居ビル4階に入居する、心療内科や精神科などを専門とするクリニックで起きた、元患者による放火殺人事件。
  • 院長、被疑者を含む26名が死亡、1名が負傷。

ここでは、医療機関における患者や家族、医療関係者以外からの暴力・暴言・わいせつ行為等を、一律に「ペイシェントハラスメント」と表現します。

以下は、当社で把握している事案の一例です。

  • コップや食器を投げつける
  • 手を払いのける
  • 唾を吐く
  • 叩く
  • 理不尽な要求をする
  • 大声を発する
  • 診療に協力しない
  • 担当替え要求を繰り返す
  • 不必要に身体に接触する
  • 卑猥な言動を繰り返す
  • スカートをめくろうとする

ペイシェントハラスメント深刻化の背景

高齢化

医療・介護ニーズの急速な増大で、サービス供給量との不均衡が生まれています。

ニーズの多様化

例えば看護師は、医療施設にとどまらず、地域の介護施設・事業所や、在宅看護へと、働く場が多様になっています。
訪問系では、従事者が1人で利用者宅を訪れることがあり、また複数名でも、暴力やわいせつ行為の被害者となり得ます。
また求められるサービス内容も、患者・利用者の価値観、人生観の多様化に伴い、患者・利用者の意思を「尊重」することが重視され、対応が一筋縄ではいかなくなっています。

SNSの台頭

SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の急速な普及に伴い、SNSを通じた個人や組織への攻撃が頻発しています。
例えば、思い通りのケアを受けられなかった患者が、個人や医療機関を特定し誹謗中傷投稿をする、その個人や医療機関の職員の家族もいじめ等の対象になることがあります。
またそのような事態を恐れるあまり、必要十分な治療、ケア、助言を提供できず、医療の質が下がってしまうこともあります。
SNSの台頭により、「患者様は神様」という風潮が構築され、患者側の立場が高くなりすぎていることが、現代のペイシェントハラスメント深刻化の最大要因と言えます。

医療機関における対策

ペイシェントハラスメントは、被害者の生命が脅かされるのはもちろんのこと、心の傷は永久的に残り、被害者の離職にもつながります。
医院として、事件の予防から、発生時の対応、また発生後のケアや再発防止策まで、明確な方針を持って一貫性を持って対策に臨まなければなりません。

以下は、厚生労働省資料「医療機関における安全管理体制について(院内で発生する乳児連れ去りや盗難等の被害及び職員への暴力被害への取組に関して)(平成18年9月25日医政総発第 0925001号)を参考にとりまとめたものです。
なお、「乳児連れ去り」や「盗難」等に関する安全管理体制については、ここでは省略します。

厚生労働省資料「医療機関における安全管理体制について(院内で発生する乳児連れ去りや盗難等の被害及び職員への暴力被害への取組に関して)(平成18年9月25日医政総発第 0925001号)
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/dl/060925-1a.pdf

安全管理体制に対する病院の方針の明確化

安全管理に対する病院の方針のあり方を明確化し、病院全体で取り組むべき課題として位置付ける

  • 院内で発生する暴力等のハラスメントリスク低減、発生時の対策を検討するために、ペイシェントハラスメント被害の実態把握を行う。
  • 実態調査結果等に基づき、ハラスメント被害に対してどのような方針で臨むか、どのような取り組みを進めるべきか等について、病院全体で(病院管理者、看護部門、事務部門など多職種・部門が参加する)話し合う。
  • ハラスメントを容認しないという姿勢等、暴力に対する病院の方針を職員に周知徹底し、利用者向けには掲示等を行う。

安全管理体制整備にかかる経費について検討する

  • 安全管理体制整備のための経費については、病院の理念に関わる問題であるため、院内全体で安全管理体制のあり方を話し合った上で、病院の実情にあった防犯設備・システム(防犯カメラ、警備会社への委託等)の導入を工夫する。
  • 可能な経費の範囲内で、効果的な防犯設備・システムの導入を行うとともに、警備会社、警察等に設備・システムへの助言を相談・依頼する。

予防:暴力事件、ペイシェントハラスメント発生のリスクを低減する

安全管理に関する職員の意識を高める

職員の安全管理に関する意識が高まるよう働きかける。
職員に人目につく写真入り身分証明書を携帯させる。
来院した患者・家族に対し、「こんにちは、どちらに行かれますか?」「何かお手伝いしましょうか?」といった「声かけ」を日常的に行う(ハラスメント予防においても、日頃からの声かけは有効)。
職員が安全管理への意識を持つこと、「声かけ」が効果的であることを、安全管理対策マニュアルに記載し職員に周知する。

防犯設備・システムの拡充を可能な範囲で行う

  • 職員による声かけ、出入・動線の工夫に加え、安全管理に関する病院の基本的な考え方に基づき、防犯設備の導入範囲を設定する。
  • 職人に防犯ベル等、非常時にすぐに応援を求められるような装備を携帯させる。
  • 安全管理上特に重要と考えられる場所(会計、相談・面談室、職員ロッカー等)には、警備室につながる防犯ブザーを設置する。
  • 防犯カメラを導入し、ナースステーション、警備室、事務室等にモニターを設置する。録画及び日時等による画像検索可能なものが望ましい。
  • 電子ロックを導入する。
  • 警備会社と契約を結び、緊急通報システムを導入する。
  • プライバシー配慮及び防犯の観点から、防犯カメラの設置や警備会社との契約等防犯システムを設置していることを掲示する(掲示すること自体に防犯効果あり)。
  • 警察と日頃より連携をとり、定期的な巡回を依頼する。ホットラインの導入が可能かどうか確認する。

警備員の配置の充実と、病院職員との連携促進を図る

  • 安全管理に関する病院の基本的な考え方に基づき、警備員の配置範囲を設定し、配置する。配置にあたっては業務内容を確認し、職員との役割分担・連携を安全管理に関する定例会議等によって密にする。
  • 病院に警察OBを渉外・警備担当として配置する。
  • 警察と日頃より連携をとり、ホットラインの導入が可能かどうか確認する。

暴力事件等を起こす患者・家族への対応を検討する

  • 暴力を起こす患者・家族、起こす可能性のある患者・家族に対する対応方法を決めておき、安全管理対策マニュアルに明示する。
  • 患者の権利とともに、院内ルール順守、医療・看護への協力等についての文章を掲示し、守らない場合には退院や診療を断る等の対応を行う場合があることを明示する。
  • 問題のある患者を診察しないことが応召義務違反にあたらないよう、対応の経緯を全て記録し、顧問弁護士に相談した上で、内容証明郵便で診療を行わない旨送付する事例もあった。

その他(環境改善、人員配置等)

  • 駐車場等、夜間暗くなる場所に照明を増設する。
  • 待合人数を知らせる等の仕組みを導入することにより、待合時間の過ごし方を改善する。
  • 待合室の環境・設備を改善する(照明、温度等)。
  • 救急部門に勤務する職員は、ネックレスやはさみのような、つかまれたり武器になる恐れのあるものを身につけない。
  • アルコールや薬物による影響や行動に対する知識を深め、適切な対応ができるようになる。
  • 禁止持込物を指定し、掲示または入院のしおり等に明示する。

安全管理対策マニュアルの整備と職員教育の実施

安全管理対策マニュアルの整備と定期的な改訂を行う

  • 病院全体で話し合った上で「安全管理対策マニュアル」を作成する。必要に応じて各病棟や部署で個別の実情に応じた安全管理対策マニュアルを別途作成する。

職員教育の充実を図る

  • 安全管理体制に関する病院の基本方針、予防方策、安全管理対策マニュアルに示された事件発生時・事後の対応方法等を周知徹底し、職員の安全管理に対する意識を高める。
  • 治療に関する説明不足や、態度や口調等の応対や身浮くな技術がきっかけで発生した票力事件もあるため、暴力事件を防ぐ観点からの「接遇」研修を実施する。