FOXニュースの創立者、ロジャー・エイルズのセクハラを、メーガン・ケリーやグレッチェン・カールソンなどの人気キャスターをはじめとする女性たちが告発する、実話に基づく映画。
看板キャスターのメーガンを中心として、ストーリーが展開される。
(以下、私の知見や感想を含む、映画のあらすじと字幕の引用です。)
FOXニュースを牛耳る絶対的権力者であるロジャーは、数々の女性職員にセクハラを働いていた。
映画では、告発の始まりは、グレッチェン・カールソンが番組を降ろされたこと。
グレッチェンが共演者たちから不適切な発言を受けたことに関して、ロジャーは、
「つらいのは女だけじゃない」
「いちいち傷ついたと言うのはよせ」
「君は男嫌いなだけ」
「男とうまくやるよう学べ」と言い、グレッチェンを番組から降ろし、実質的には降格とした。
男性や周囲は、被害を軽んじ、被害者を非難します。
セクハラと言うあなたが繊細すぎるのだと。
ロジャーは、直接的なことは言わない。
「あなたが忠実なら何とかしよう」と支援を申し出、冗談か批判っぽく、遠回しに性的要求をする。
キーワードは、「忠誠心」。
グレッチェンは、他の女性たちを集め、彼が常習だったと証明し、こんなことはやめさせたいと、弁護士に訴える。
弁護士は忠告する。
「彼がこのことを知ったらクビでは済まない。巨額の訴訟を起こすだろう。あなたを個人攻撃し、金より評判を守ろうとする。同僚たちは、あなたを「傲慢な野心家で、出世に失敗したから訴えた」と非難するだろう。テレビ界で最も力のある男が、全力であなたを追い詰めに来る。」と。
グレッチェンの決意は固かった。
あるとき、若く美しい新人キャスターのケイラ・ポスピシルが、ロジャーに気に入られ、餌食になる。
正確には、チャンスを掴むために、ケイラは自らロジャーに近づき、性と仕事の交換が始まる。
(ケイラは架空の人物で、多くの女性の寄せ集め的なキャラクター。)
エレベーターでケイラと鉢合わせたメーガンとグレッチェンは、その気配を感じ取る。
ちょうどそのタイミングでFOXニュースを解雇されたグレッチェンは、ロジャーをセクハラで提訴する。
ロジャーを支持する女性たち。
想定通りに起こる被害者叩き。「なぜ彼女は苦情を言わず、解雇後に訴えたのか」
セクハラが起こると、加害者の男性を擁護する女性が必ず現れます。
自分は性的言動に寛大で理解があると示すことで、権力的にも数的にも優位な加害者側に忠誠を示し、自らを優位に立たせようとする、無意識的な行動なのでしょう。
メーガンは怒りをあらわにする。
全通信が監視されている、電話は録音されている。「女たち、訴えるがいい。でも会社はロジャーを守る。番組に出たいんだろ?彼が管理するホットラインで声を上げればいい」―そんなホットラインで声をあげろなんて馬鹿げていると。
相談窓口が加害者の管理下にあれば、機能しないのは当然です。
不利益な取扱いや嫌がらせ、漏洩などの不安が徹底的に排除された相談窓口を設置すべきです。
そしてメーガンは同僚に打ち明ける、10年前、自分もロジャーからセクハラ被害を受けたことを。
これを公表すれば、自分の弱さを認めることになる。そしてセクハラの看板を一生背負うことになると、公表をためらうメーガン。
加害者側は、性的発言を「軽口を叩いただけ」と言う。
「グレッチェンは競争心が強く、誰にも好かれない。私が長年守ってやってきた。」
「彼女は冗談が通じないのね」と。
「冗談が通じない」
「ノリが悪くて扱いづらい」
「性的に解釈する方がおかしい」などと、被害者を非難するのも、予定調和だ。
メーガンには、セクハラなんてないと否定するよう同僚たちから無言の圧力がかかる。「ロジャーは私たちに番組と機会をくれたじゃない」と。
ロジャーは面倒見が良く、メーガンがセクハラを拒絶しても昇進させてくれたし、力を与えてくれた。
彼から受けた恩恵と、セクハラの事実との間で揺れるメーガン。
多くの被害者が、加害者への恩があり、それを理由に拒絶したり告発したりできないでいます。
セクハラ加害者の多くは、とてもいい人で、憎めないキャラクター。実力と実績があり、組織になくてはならない存在。
風向きが変わったのは、6人の女性が名乗り出たことによる。
仕事の取引のようなセクハラ被害を告発した。
ロジャーは真っ向から否定。
現役の女性職員たちもボスを擁護し続ける。
グレッチェンに仕事は来ない。ボスを訴えた女性だから。米国企業の最重要ルールは、「ボスを訴えるな」。
これも被害者が払う代償の一つです。
セクハラを訴える者は扱いづらい、目立ちたがり、爆弾のような存在とレッテルを貼られます。
メーガンは、ロジャーの獲物たちの名前をいくつか入手し、行動を促し始める。
次々と上がる声。
そしてついに、メーガン自身が、告発する。
ロジャーは、辞任した。
決め手となったのは、グレッチェンの録音だった。
今はいつでもどこでも録音・録画されています。
秘密にできることは何一つない世界。
その後、メーガンもFOXニュースを去った。
感想
この映画では、被害者の葛藤と心情、置かれる状況と、加害者の主張、言い訳、告発者を見る周囲の反応が、とても丁寧に、わかりやすく表現されています。
原題の”Bombshell”は、「爆弾ニュース」という意味です。
この爆弾ニュースが報じられたときは、全米が揺らぐほどの衝撃だったことがわかります。
セクハラが明るみになれば、その世界の絶対的権力者であろうと、一瞬にして権威は地に落ちるのです。
セクハラは被害者を苦しめますが、その苦しみは加害者にもブーメランのように返ってきて、多くの大切なものを奪い、人生を大きく狂わせるのです。
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を日本人として初めて受賞したカズ・ヒロ氏が手掛けたメイクも、映画の見所の一つです。以前、カズ・ヒロ氏のドキュメンタリー番組でこの映画への携わりについても紹介されていました。主演のシャーリーズ・セロンからの絶大な信頼が伝わっていました。シャーリーズ・セロンのオーラに圧倒される作品です。
→視聴:映画『スキャンダル』
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