映画『ファクトリー・ウーマン』(原題”Made in Dagenham”)

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映画『ファクトリー・ウーマン』

1968年、英国東部にあるフォード自動車ダゲナム工場で実際に起きた、女性工員たちによる男女同一賃金を訴える運動を描いたドラマ。
これが、英国の男女同一賃金法制化のきっかけとなり、世界に影響を与えました。

以下、映画のあらすじ(ネタバレ)を含みます。

テムズ河畔のダグナムは、自動車産業の中心地。
英国フォード社は、1日3000台を生産する。ヨーロッパ最大で世界第4の自動車メーカー。
1968年、ダゲナム工場の男性社員は5万5000名、女性は187名。

女性工員(映画では「女子校員」とされているが)は、職能分類上「非熟練」扱いとされ、男性労働者よりも低い賃金で使われている。
これを不当として、女性工員たちは会社に同一賃金を求めている。

会社と交渉する主人公のリタは、手本もない中、長年の勘と手先だけで内装を縫っている女性たちの技術を「非熟練」とされることに怒り、はっきりと要求する。
「準熟練労働」にして、賃金を上げて、と。
「女はストをやらない」「放っておけば忘れる」と私たちをナメているから要求しても何か月も放置しているのだ、甘く見ないでと啖呵を切り、スト決行を宣言する。

ストの後、会社からは無礼な返答を受けるが、組合のモンティ(男性)は、「これはストのルールで、習わしだから気にしなくていい」と軽くあしらう。
しかし、「男たちのつくったルールなんて関係ない、失礼だ」と女性たちは憤る。

「技能があるのに賃金は最低ランク。理由はただ一つ、女だから。どんなに熟練していても男より安い。能力に応じた賃金を払うように要求しよう。私たちが目指すものはたった一つ。平等。同一賃金かゼロかだ!」

「こういうものだ」「それが普通だ」と濁されることが多いですが、男性たちの都合で作った不合理で曖昧なルールですよね。
男性以外の考えや都合はまるで考慮されていないし、男性たちもまた、そのルールの合理性を明確には説明できないような。

組合もことなかれ主義。
無視されていないとわかれば十分だろうという態度。
このままでは男性組合員も仕事ができなくなる。
男性組合員が優先だ、女をだまらせろ、という。

女性工員のストを応援しているアルバードが引用したグルーチョ・マルクスの言葉が印象的。
「社会の進歩は女性の地位に表れる」

女性工員たちはバスで大移動しながら、訴えを広げていき、新聞で取り上げられるほど注目を集めるが、一時帰休を命じられた男性労働者たちや、家族、味方であるはずの組合から大小様々な非難を受け、何度もくじけそうになる。

心が本当に折れかけたとき、ある主婦が言う。
私は勉強がとても楽しくて世界有数の名門大学を優等で出るほどだったのに、夫からはバカ扱いされている。
本を読むのが大好きで、歴史を作る偉人たちに憧れた、私は歴史を変えたかった。私の代わりに歴史を変えて。負けないで、と。

男性の、女性を無能とする根拠は何なのでしょうね。
男性は優秀で、女性よりも数字に強いと豪語するなら、女性の無能さと男性の有能さを数字で立証してみていただきたいものです。

組合の支持を得るため、労働組合総会で訴える。
「私たちは労働者。男性も、女性もです。私たちは性別によって区別されない。不公平を受け入れる人と、正義のために闘える人の違いだけ。男女同一賃金は、正義です。」

そして、彼女たちの情熱は、雇用大臣(女性)をも動かす。話を聞いてもらえることになったのだ。
会談は不要では?と大臣に助言する役人たちに、大臣は声を荒げる。
「旧弊で偏見に凝り固まった男には理解できないのね、男女同一賃金こそ正義よ!保護者ぶるのはやめて!女をナメないで!」

「保護者ぶる」という表現が、本当にしっくり来ます。
何かと面倒を見ようとする、アドバイスをしたがる、弱者として扱いたがる、そんな場面に頻繁に遭遇します。
「女性を応援しているよ」「女性の苦労を理解しているよ」とアピールされますが、何もわかっちゃいない!殿方が多いのです。

大臣との会談で、彼女たちは、最低でも90%を保証するよう求める。
大臣には、フォードからの脅しがかかる。イギリスから我社が撤退したら失業者があふれて大損失でしょう?と。
難しい決断を迫られた大臣、会談の結果を記者たちの前で発表する。
「フォードのミシン工たちは、7月1日から職場に復帰する。賃金は男性の92%にする。そして決意しました、政府は男女同一賃金法の成立に向けて尽力します。」

結果、2年後の1970年に同一賃金法が成立し、世界中の多くの先進国で同様の法律がすぐに施行された。

Comment

男女賃金格差のOECD加盟国平均は88.4%であるのに対して、日本は77.5%(OECDデータ)。
性別による男女差別は当然禁じられていますが、役員・管理職に占める女性の割合が極端に少ないこと、結婚や妊娠・出産を機に離職する女性が多く男性よりも勤続年数が短いこと、非正規労働者の割合が高いことなどから、日本では構造的に賃金格差が大きいままです。
つまり、男女格差を是正するには、以下の対策が必要です。

  • 役員・管理職に占める女性の割合を高めること
  • 妊娠・出産後も就業継続できる制度・環境を整えること(男性も育児と仕事の両立に苦心すべき!)
  • 同一労働同一賃金を徹底すること

意思決定の場に女性を、女性管理職を増やそう、などと言うと、「数だけ増やしても意味がない。実力で決めるべき」とおっしゃる方がいますが、では男性は本当に実力で選ばれているのでしょうか。
たとえ能力で選んだとしても、「旧弊で偏見に凝り固まった男性たち」は、女性を排除しようとするでしょう。
優秀な女性が自分たちの縄張りに入るのは、面白くないから。
そして、自分たちに有利なお友だちだけで構成しようとするでしょう。

だから数だけでも確保しないと、永久に縄張りには入れないし、残れません。
荒療治が必要なのです。

→視聴:映画『ファクトリー・ウーマン』