パワーハラスメント(以下、パワハラ)は、上司から部下に対して行われるものと認識されています。
しかし近年では、部下から上司に対するパワハラ、いわゆる「逆パワハラ」が深刻になり、多くの上司たち、企業を悩ませています。
部下から上司へのパワハラの実態、要因、影響、および防止策について考察します。
逆パワハラの例
職場において部下が上司に対して行うハラスメント行為を、逆パワハラとして、その例を挙げます。
心理的攻撃
侮辱や陰口、無視、精神的な圧力をかける行為。
- 「時代遅れ」「じじい・ばばあ」「古臭い」等と侮辱的な発言をする
- ITを苦手とする上司をばかにする、教えない
- もたつくと「遅い」「早くしろ」と苛立ちながら急かす
- 上司に対し侮辱的な陰口を言ったり、噂を流したりする
- 上司への誹謗中傷をSNSに投稿する
業務妨害
上司の指示を意図的に無視する、報告・連絡・相談を怠る。
- 対面での報告・連絡・相談を拒否し、メールやチャットでしか会話をしない
- 上司からの指示や指導に対し、相当性を欠いた屁理屈を並べて論破しようとする
過剰なクレーム
上司の指導や業務遂行に対して理不尽なクレームをつける。
- 必要な指導や適切なコミュニケーションも「ハラスメントだ」と言う、訴える(★ハラハラ)
- 業務命令に対し、執拗に反発、反論する
- 嫌がらせや報復の目的で上司の言動を監視し、粗探しをして、粗を上層部や人事部に報告する
集団的圧力
複数の部下が結託し、上司を孤立させる。
- 集団で無視する
- 集団でいじめ行為をする
ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)
ハラハラとは、同僚や上司、他者からの注意や指導に対し、それが適正か否かにかかわらず、不快感や嫌悪感を抱き、または自己防衛や嫌がらせを目的として、「ハラスメントだ」と過剰に反応・主張することです。
ハラハラにより、上司が部下を指導・教育できなったり、コミュニケーションが停滞したりして、人材育成や職場環境に弊害が生じます。
逆パワハラが発生する社会的背景
関係性の変化
上司と部下の関係性がフラットになり、労使関係も労働者保護風潮が強まり、上司・使用者を上位とするガバナンス体制が崩れています。
部下は上司を軽視するようになり、労働者は労働者保護や売り手市場を盾に要求を強める傾向にあります。
ハラスメント対策の影響
パワハラ防止法の施行により、パワハラ対策が強化され、上司は部下への指導を慎重に行わなければならなくなっています。
結果、部下が上司を攻撃しても適切な対処が困難になることがあります。
家庭や学校における教育の変化
”怒らない”、”褒めて伸ばす”が教育の主流となり、また少子化、治安の悪化も相まって、子どもは社会からも学校でも家庭においても、厚く保護されて育つようになりました。
飽食の時代、欲しいものは手を伸ばせば届くのが当たり前、ハイリスクな挑戦をしなくてもそこそこの満足が得られる社会構造。
怒られたことのない、失敗や挫折を知らない子どもたちは、社会に出て、”生まれて初めての叱責”を受けたり、”生まれて初めての失敗”を経験したりして、自身の中で咀嚼できず、他人や社会の責任にし、ハラスメントだと主張することで、自分を守ろうとするのです。
スマートフォン・SNSの普及
上司の言動を録音・録画し、都合よく切り取ってSNSに投稿して拡散する部下、あるいはそれを脅し文句に使う部下もいます。
SNSという武器の前では、上司が弱者です。
被害を受けやすい上司
- 他社から転職してきた上司で、自社での経験が浅い
- 毅然とした対処ができない
- 声が小さい
- 怯えている
- 年下上司
- 組織の多数派と異なる属性上司(女性の多い職場で男性/男性の多い職場で女性/日本人の多い職場で外国人/若手の多い職場で高年齢者、等)
- 実力・実績が部下に知られていない、または実力・実績の乏しい上司
逆パワハラの影響
上司のメンタルヘルスへの影響
逆パワハラにより、上司がストレスを抱え、うつ病や適応障害などの精神的問題を引き起こす可能性があります。
企業秩序崩壊、組織の機能不全
逆パワハラが発生すると、上司と部下の信頼関係が崩れます。
上司から部下への指導、教育、指示が滞り、業務の質が低下します。
業務上過失の頻発
組織の機能不全の結果、業務上のミスや事故が発生しやすくなります。
例えば、設計会社であれば設計ミスが、医療機関であれば医療ミスが起こりやすくなります。
また、チームの士気が低下し、組織全体の生産性が落ちます。
治安悪化、不祥事の頻発
上司が適切な指導を行えなくなると、組織の統率力が低下し、企業としての品位が損なわれることや、法令・規則に反する不祥事が発生しやすくなります。
業務効率の低下
情報や指示がスムーズに流れなくなり、組織全体の業務効率が悪化します。
一言で完了する指導も、指導のための対策を要するため、何倍もの時間がかかります。
知識・技能が継承されない
人材育成が不十分になり、上司が有する知識や技能が、次世代に継承されなくなります。
人が育たない、後継者がいない、そして組織は衰退します。
逆パワハラへの対策
上司が講ずるべき対策
毅然とした態度を取る
「威圧的にならないように」「プライドを傷つけないように」配慮しつつも、部下からの不当な攻撃に対しては、冷静かつ毅然と対応します。
指導記録
いつ・どこで・誰に対し・なぜ・どのような指導を行ったのか等、部下とのやり取りを日々記録し、必要に応じて証拠として提示できるようにします。
大きな出来事が生じたときだけでなく、平常時もこまめに記録を続けることで、証拠能力が高まります。
相談機関の活用
上司にも、相談する場、悩みを吐露する機会が必要です。
社内外のハラスメント相談窓口等に相談し、適切なサポートを受けます。
企業が取るべき対策
ハラスメント防止の明文化
逆パワハラもパワハラの一種であることを社内規程等に明記します。
また、規程や社内マニュアル等において、パワハラの定義、判断基準等を定めます。
同時に、就業規則の服務規律において、業務上の指揮命令に従う義務と、その違反に対する懲戒処分を明記します。
これにより、パワハラの定義・判断基準に照らして適切な指導の範囲内にある上司の指示に従わない労働者は懲戒処分の対象とします。
研修の実施
管理職を対象とするパワハラ防止研修は多いですが、一般職も含む全社員に対してパワハラ防止研修を行い、ハラスメントの定義や適切な行動を周知します。
適切な評価制度の導入
部下による不当な評価や攻撃を防ぐため、公平な評価システムを構築します。
まとめ
部下から上司へのパワハラの実態とその影響、発生要因、対策について考察ました。
逆パワハラは、職場環境の悪化や生産性の低下を招く重大な問題であり、企業や組織全体での取り組みが求められます。
健全な職場環境を維持するために、上司と部下の双方が適切なコミュニケーションを取り、互いに尊重し合う関係を築くことが不可欠です。
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