RACIと組織ガバナンスで読み解く、心理社会的リスクマネジメント

心理社会的リスクは、単なる「人間関係」や「個人のストレス耐性」の問題ではありません。多くの場合、その背景には、役割・責任・判断権限・情報共有経路の曖昧さがあります。誰が決めるのか、誰に相談すべきか、誰が責任を負うのかが不明確な組織では、摩擦・沈黙・疲弊・ハラスメントが構造的に発生します。本稿では、国際的な役割設計フレームであるRACIを手掛かりに、ISO 45003等で求められる心理社会的リスクマネジメントを、当社の7×7ガバナンス・アーキテクチャの視点から再整理します。心理社会的安全性は、善意ではなく「歪まない構造」によって支えられるものです。

心理社会的リスクは「感情問題」ではない

近年、ISO 45003やILO等の国際基準により、心理社会的リスクへの対応が強く求められています。

代表例としては、

  • 過重負荷
  • 役割曖昧性
  • ハラスメント
  • 支援不足
  • 組織内不和
  • 情報不足
  • 不公平感

などがあります。

しかし、日本企業では依然として、
「コミュニケーション不足」
「上司のマネジメント力不足」
「本人のメンタル耐性」
と、個人問題化されることが少なくありません。

ですが実際には、多くの心理社会的リスクは、「役割と責任の設計不良」から始まっています。

「誰が決めるのか」が曖昧な組織は、人を壊す

例えば、次のような職場です。

  • 誰に相談すればよいかわからない
  • 上司によって判断が変わる
  • 他部署が突然介入する
  • 責任だけ押し付けられる
  • 情報共有が属人的
  • 異論を言うと空気が悪くなる

この状態では、現場は常に、「見えないリスク」に晒され続けます。
心理社会的負荷とは、「予測不能性」によって増幅されるのです。
そして、その予測不能性の多くは、組織構造から生まれています。

RACIとは何か

RACIとは、役割設計を明確化するための国際的フレームです。

区分 内容
R(Responsible) 実行責任者
A(Accountable) 最終責任者
C(Consulted) 相談先
I(Informed) 情報共有先

本来、RACIは単なる業務整理表ではありません。

その本質は、「組織の意思決定構造を可視化すること」にあります。

つまり、

  • 誰が判断するのか
  • 誰が異論を入れるのか
  • 誰が説明責任を負うのか
  • 誰が状況を把握しているべきか

を構造化するためのものです。

心理社会的リスクとRACIの関係

心理社会的リスクが高い組織では、RACIが壊れていることが非常に多く見られます。

① A(最終責任者)が曖昧

典型例です。

  • 人事も言う
  • 現場部長も言う
  • 経営も介入する
  • しかし誰も責任を取らない

この状態では、現場は常に「空気」を読むしかなくなります。

結果として、

  • 過剰同調
  • 異論消失
  • 沈黙
  • 疲弊

が発生します。

② C(相談構造)が存在しない

心理社会的リスクの高い組織ほど、

  • 「相談すると面倒」
  • 「法務はブレーキ役」
  • 「人事は現場を知らない」

として、相談構造が省略されます。
しかしこれは、「異論の制度化」を失うということです。
異論を失った組織は、短期的には速く見えても、長期的には必ず歪みます。

③ I(情報共有)が属人化

情報共有が「善意」に依存している組織では、

  • 現場が孤立する
  • 経営が異変を察知できない
  • 支援が遅れる
  • 不信感が蓄積する

という状態になります。
心理社会的職場環境において、情報設計は極めて重要です。

当社の7×7ガバナンス・アーキテクチャとの接続

当社では、心理社会的リスクを、メンタルヘルス課題ではなく、「統治構造の歪み」として捉えています。

例えば、以下のように接続できます。

心理社会的リスク 構造要因
上司依存・属人化 権限責任の曖昧
空気支配・沈黙 異論の消失
情報格差 情報の歪み
管理職疲弊 業務設計の過負荷
ハラスメント 組織摩擦の蓄積
規範崩壊 規範の劣化

つまり心理社会的リスクとは、「組織の摩擦係数」の表出でもあります。

管理職レジリエンスにも直結する

現在、多くの管理職が疲弊しています。

その背景には、

  • 責任だけ重い
  • 権限がない
  • 判断基準が曖昧
  • 情報が来ない
  • 上から覆される
  • 部下支援構造がない

という、“壊れた役割設計”があります。
これは個人能力の問題ではありません。
管理職を支えるべき統治構造の問題です。

そのため、管理職レジリエンスを高めるには、

  • 役割設計
  • 判断権限
  • 相談構造
  • 情報設計
  • 異論導線

を再設計する必要があります。

心理社会的安全性は「優しさ」では維持できない

「心理的安全性」という言葉は広まりました。

しかし、

  • 誰が決めるのか
  • 誰が責任を持つのか
  • 誰が異論を言うのか
  • どこへ相談するのか

が曖昧なままでは、安全性は維持できません。
一時的に空気が柔らかくなっても、構造が歪んでいれば、いずれ再び摩擦は発生します。
必要なのは、善意への期待ではなく、歪まない統治構造です。

結論|心理社会的リスクマネジメントは「構造設計」である

ISO 45003やILOが求めているのは、単なるメンタルヘルス施策ではありません。

本質は、「健康的な心理社会的職場環境を、継続的に維持できる統治構造」です。

そのためには、

  • 役割設計
  • 意思決定設計
  • 情報設計
  • 異論設計
  • 監督設計

を統合的に見直す必要があります。

当社は、7×7ガバナンス・アーキテクチャを通じて、「正しい判断が必然になる構造」を分析・設計・実装し、心理社会的リスクを、“個人問題”ではなく“組織設計課題”として解決していきます。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。