センシティブな事情を会社・上司はどこまで知る必要があるのか―個人情報の保護と「配慮を判断するための情報」の両立

センシティブな事情を会社・上司はどこまで知る必要があるのか。

  • 過去のハラスメントや被害経験、疾病、障害、家庭事情等のセンシティブな事情について、社員から「詳しい事情は話せないが、配慮してほしい」と相談されたとき、会社がどこまで背景を確認すべきかについて、一律の基準を作ることには限界があります。軽微な勤務調整であれば、背景情報が多く共有されなくても対応できる可能性があります。一方、安全管理や大幅な職務変更を伴う場合には、会社が判断するために、より多くの情報が必要になることがあります。会社から信頼された第三者・専門家が間に入り、センシティブな背景情報、会社の判断に必要な情報、現場の運用に必要な情報を整理したうえで、必要性を見極め、どのような配慮が適切かを会社に共有し、会社が判断することが望ましいを考えます。
  • 重要なのは、誰が、何を、どこまで知る必要があるのかを設計すること。センシティブな個別事情への対応には、この「情報の設計」が不可欠です。

社員から、「詳しい事情は話せないのですが、配慮してほしい」と相談された。
本人のプライバシーは尊重したい。
一方で、背景がほとんど分からなければ、本当に配慮が必要なのか、どの程度の配慮が適切なのか、会社として判断できません。

必要なのは、誰が、何を、どこまで知る必要があるのかを設計することです。
センシティブな個別事情への対応には、この「情報の設計」が不可欠です。

配慮のために「すべてを知る」必要はない

例えば、ある社員が、「特定の状況に強い心理的負担を感じるため、その業務について配慮してほしい」と申し出たとします。
その背景には、過去のハラスメントや被害経験、疾病、障害、家庭事情などがあるかもしれません。
直属の上司や同僚が、その出来事の詳細まで知る必要があるとは限りません。
業務上必要なのが、「突然の身体接触を避ける」「特定の状況では一人で対応させない」「一定期間、特定業務から外す」ということであれば、その情報だけで現場を運用できる場合があります。
「なぜそうなったのか」という背景情報と、「何をすれば安全に業務を遂行できるのか」という配慮情報は分けて考えることができます。

しかし、会社には「判断する責任」がある

一方で、情報を最小化すればよいという単純な話でもありません。
例えば社員から、「週5日在宅勤務にしてほしい」「この業務から外してほしい」「特定の社員とは一緒に仕事をしないようにしてほしい」という申し出があったとします。
会社が理由を一切確認せず、すべて受け入れることは現実的ではありません。

その対応によって、

  • 他の社員の業務量が増える
  • 人員配置を変更する
  • 顧客対応に影響する
  • コストが発生する
  • 他の社員との公平性が問題になる

こともあります。

会社には、本人の尊厳を守る責任と同時に、組織全体を適切に運営する責任があります。
したがって会社には、「一定の配慮が必要であることを合理的に判断できるだけの情報」が必要です。

「誰がその情報を持つのか」

「情報を持つ人」を定めることが重要です。
本人のセンシティブな事情について、会社の全員が同じ情報を知る必要はありません。

例えば、情報を次の3層に分けることができます。

Level 1|センシティブな背景情報

疾病、障害、過去の被害経験、トラウマ、家庭事情、宗教上の事情など。
必要性を評価する限られた担当者・専門家だけが取り扱います。

Level 2|判断に必要な情報

「一定の配慮を必要とする事情が確認されている」
「一定期間の勤務上の調整が必要と考えられる」
「特定行為を避けることについて合理的な理由がある」など、会社が配慮の可否や程度を判断するための情報です。

Level 3|現場運用に必要な情報

直属の上司や関係者には、
「水曜日は在宅勤務」
「当面、この業務は担当させない」
「身体接触を伴う業務については事前確認する」
など、実際の業務遂行に必要な情報だけを共有します。
このように設計すれば、センシティブ情報を必要以上に拡散することなく、会社として必要な判断と現場運用を行うことができます。

第三者が「情報の翻訳者」になる

本人が、「会社の人には詳しく話したくない」と考えている場合、社内だけでこの情報管理を行うことは困難です。

特に、

  • 過去のハラスメント・性被害
  • トラウマ
  • 精神的な問題
  • 家族に関する事情
  • 宗教・文化
  • 身体的・性的な問題

などは、直属の上司や人事担当者であっても話しにくいことがあります。
そこで、組織から一定の独立性を持つ第三者・専門家を介在させることで対応します。
本人はその第三者に必要な事情を説明する。
第三者は、その内容をそのまま会社へ伝えるのではなく、「会社が判断するために何を知る必要があるか」を整理します。
本人とも共有範囲を確認しながら、「詳細な背景情報」から、「配慮の必要性を判断する情報」へ変換する。
さらに現場には、「具体的な運用情報」だけを渡す。
第三者が、本人と組織の間の情報の翻訳者として機能する仕組みです。

第三者は「本人の代理人」ではなく、「中立的」立場

重要なのは、第三者の中立性です。
第三者に求められるのは、本人の希望と、配慮を必要とする事情を分けて整理することです。

例えば本人が、「完全在宅勤務にしてほしい」と希望していても、第三者が事情を確認した結果、「通勤負荷を一定期間軽減する必要性は認められるが、完全在宅勤務でなければならないとは限らない」と整理されることもあります。
そこから会社と、「週何日の在宅勤務なら可能か」「勤務時間の変更で代替できないか」「一定期間試行して再評価するか」を検討します。

本人の希望を通すのではなく、本人が守られるべき利益と、会社が負う業務上の制約を整理して考える。
この中立性が第三者介入の価値です。

「信頼された見極め役」がいることの意味

この仕組みを機能させるには、第三者が、従業員本人だけでなく、会社からも信頼されている必要があります。
会社が、「この専門家が必要性を確認したのであれば、少なくとも何らかの配慮を検討すべき事情がある」と判断できれば、センシティブな詳細情報を会社がすべて取得しなくても、検討を開始できます。
これは、第三者が医学的診断や法的判断を代替するという意味ではありません。
医療上の判断が必要なら医師、法的判断が必要なら弁護士等、それぞれの専門家につなぐ必要があります。

第三者が担うのは、本人の事情と業務との関係を整理し、「どの情報が誰の判断に必要なのか」を見極める役割です。
必要に応じて、「この判断には医師の意見が必要」「ここから先は人事だけでなく法務の確認が必要」と専門領域へ接続することも含まれます。

情報量は、ケースごとに変わる

センシティブな個別事情への対応について、「会社にはここまで伝える」という一律の基準を作ることには限界があります。
軽微な勤務調整であれば、背景情報をほとんど共有せず対応できるかもしれません。
一方、安全管理や大幅な職務変更を伴う場合には、会社が判断するために、より多くの情報が必要になることがあります。

最小限の情報しか共有しないことではなく、目的に照らして必要十分な情報を共有することが重要です。

  • 誰が知るのか。
  • 何を知るのか。
  • 何のために知るのか。
  • いつまで保持するのか。
  • 状況が変化したら、どのように見直すのか。

これらをケースごとに設計する必要があります。

センシティブ情報を「情報ガバナンス」の問題として考える

個別配慮というと、企業は「本人に何をしてあげるか」に意識を向けがちです。
しかしその前段階には、本人について何を知り、何を知らないままにし、誰に何を伝えるのかという重要なガバナンスがあります。

情報が少なすぎれば、会社は適切に判断できません。
情報が多すぎれば、本人のプライバシーを不必要に侵害します。

当社が提唱するセンシティブ・ガバナンスでは、本人と組織の間に第三者が入り、センシティブな事情を必要な配慮要件へ変換するとともに、会社が合理的な判断を行うための情報量・共有範囲を設計します。
個人の秘密を守ることと、会社が責任ある判断をすることは、必ずしも対立するものではありません。
誰が、何を、どこまで知るべきか。
その境界線そのものを設計することが、これからの組織に求められる「情報のガバナンス」です。

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仕事と職場のセンシティビティ・コーディネーション(個人面談・センシティブ情報整理・個別配慮設計)

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株式会社 ケンズプロ
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ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。