家庭内暴力(DV)対策

DVが起こる背景

(1)加害者の成育歴

生育環境において,子供が両親等からの暴力の経験又は両親間の暴力の目撃を通して,「暴力は容認された手段である」と学習すると,自分が大人になった時,同じような方法で,子供や配偶
者に接するとみられる。

(2)加害者の社会経済的問題

男性の社会経済的地位とDVの関係は,国により,または研究者により見解が分かれているが,日本では,内閣府調査によると,加害者はあらゆる職業に就き,社会的地位や経済力も様々であったという結果が見られている。

(3)加害者の被害者への支配欲・所有物的見解

暴力は人を支配するのに有効な手段であり,一般的に,パートナー間における暴力,特に心理的暴力は,「恐怖を植えつけ,依存症を増加させ,自己評価をそこなわせるという,三つの方法をとおしてなされている」と,専門家は述べている。

(4)加害者の固定的な性別役割分担意識

我が国の研究結果をみると,固定的な役割分担意識(例えば,「妻を働かせるのは,男らしくない」,「暴力を使っても家庭のリーダーであるべきである」,「感情をあらわすのは男らしくない」,「男は家事をやるべきではない」)と暴力の関連性を指摘する傾向にある。

(5)加害者のコミュニケーションの問題

韓国のカップルを検討した結果を具体的にみると,暴力のないカップルは暴力のあるカップルと比較して,「対話の中で相手と考えが違っても最後まで耳を傾ける」,「お互いに自分の意見を自由に話す」,「重要なことを決める前に十分相談する」,そして「個人的なことは他人よりも配偶者によく話す」という傾向があることが分かった。

(6)加害者の嫉妬・やきもち

日本の研究者によると、日本のドメスティック・バイオレンスに悩まされる家庭では,パートナーが他人とコミュニケーションを持つことを毛嫌いする男性も多く,中には,嫉妬妄想を病んでいる場合もあるとしている。

(7)加害者の精神障害

加害者の心理的問題,例えば,精神分裂病,うっ病,アルコール・薬物・ギャンブル依存症,人格障害等のような要因が暴力に関連していると考えられている。

(8)加害者の反社会的人格

家族・他人との不和の要因として,暴力,犯罪,非行,不法薬物等との関連性も見逃すことはできないと考えられている。
また,反社会性人格障害を患っていなくても,その傾向があるとされる人(反社会的人格を持つ人)は,配偶者に対して暴力を振るうだけでなく,他人にも暴力を振るう傾向があると見られている。

(9)加害者の暴力の合理化

加害者が自分の暴力を正当化し,自分の起こした被害を過小評価することの説明が可能である。
例えば,加害者は(1)酒を飲んでいた,(2)妻が自分を追い詰めた,(3)妻が思うとおりにならない等と自分の行動を正当化し,また,加害者は(1)ちょっとおどかしてやっただけだ,(2)妻はすぐにあざができる,(3)ちょっとつかんだだけだ等と妻の被害を過小評価する。
さらに,加害者はバートナーに暴力を振るった後,しばしば弁解がましく,もう暴力を振るわないと約束するため,被害者は暴力を受けたということに対して,「自分が悪い」と自分を責めるようになる。このように,加害者が被害者に責任を転化することにより,被害者は,自分に欠陥があるために暴力が起こったと思い込む。
また,被害を受けたにもかかわらず,多くの被害者は加害者と生活を共にしている場合が多い。加害者は常に暴力を振るうのではなく,暴力を振るう時とそうでない時が周期的に回ってくるので,被害者は加害者の暴力が減少すると,生活も向上するだろうという希望を持ち,それにより何年も生活を共にする場合が多いと考えられる。
夫が暴力を合理化すればするほど,妻に対する暴力の程度(軽度な暴力から深刻なものへと)が重くなると研究者は述べている。

我が国におけるDVの状況

  • 調査研究会の「ドメスティック・バイオレンス「夫(恋人)からの暴力」」によると,有効回答数の796件中,467件において,被害者は夫や恋人から「身体的暴力」を受け(例えば,85.2%の女性は平手や拳骨で殴られ,67.5%は足で蹴られたり,突きとばされたりした),50%以上は継続的に繰り返し暴力を受けた。
    さらに,473件においては,被害者は「性的暴力」を受け(例えば,気がすすまないのにセックスをさせられた81.4%,ほかの家族が気になるのに,セックスを強要された40.2%),そして523件においては,被害者は「精神的暴力」を受けた(例えば,馬鹿にされたり,罵られたり,命令するような口調でものを言われた74.2%,殴るそぶりや物を投げるそぶりをして脅された44.2%)。
    さらに,身体的暴力を受けた女性の中で,子どものいる女性の約3分の2は,子どもも暴力を受けた。
  • 東京都の「女性に対する暴力」の調査によると,アンケート参加者の回答のうち,「1,2度あった」と「何度もあった」を合わせると,「何を言っても無視する」が44.6%,「押したり,つかんだり,つねったり,こづいたりする」,「平手で打つ」,「蹴ったり,噛んだり,拳骨で殴る」,「避妊に協力しない」等が各10%前後であった。
    「立ち上がれなくなるまで,殴る,蹴るなどのひどい暴力をふるう」「首を絞めようとする」「脅しや暴力によって意に反して性的な行為を強要する」等は各5%未満であった。
  • 内閣府の「配偶者等からの暴力に関する事例調査:夫・パートナーからの暴力被害についての実態調査」によると,62人中50人が「足で蹴る」「物を投げっける」「平手で打つ」「拳骨で殴る」という「身体的暴力」を受け,「髪を引っ張る」「引きずりまわす」という暴力も,62人中40人以上が経験していた。
    「精神的暴力」に関しては,「大声で怒鳴る」が62人中59人,「誰のおかげで生活できるのだ」「人の前で馬鹿にしたり,命令するような口調でものを言ったりする」ということも,62人中40人以上が経験していた。
    さらに,「性的虐待」においては,62人中48人が「嫌がっているのに性行為を強要する」を経験していた。
  • また,内閣府の「配偶者等からの暴力に関する調査」によると,男性回答者の16%と女性回答者の8%は,過去において配偶者・恋人に対して「平手で打っ」,男性の15%と女性の5%は「殴るふりをして脅す」,男性の14%と女性の5%は「ドアを蹴ったり,壁に物を投げつけたりして脅す」,男性の33%と女性の17%は「大声で怒鳴る」という行為を「1,2度」したことがあると回答した。
    しかし,男性のほうが女性より,このような行為を配偶者等に対して行った比率は高かった。
    被害者の語る暴力の理由に関して,「ドメスティック・バイオレンス「夫(恋人)からの暴力」」の調査結果をみると,被害者の女性が語る暴力の第一の理由は,「妻のしたことや言ったことが気に入らないから」(約84%),次いで「相手がいらいらしていた・仕事などで疲れていた」(約48%),「夫としての権威は傷つけられた」(約45%),「酔っていたから」(約31%),「セックスを拒否したから」(約28%),「妻が他の男に好意をもったり,つきあったりしたから,またそうではないかと疑った」(約20%),そして「愛情表現が不器用なため」(約11%)である。
  • 内閣府による「配偶者等からの暴力に関する事例調査:夫・パートナーからの暴力被害についての実態調査」の調査結果をみると,夫・パートナーは暴力を自分の感情を表現する手段及び他人を支配する道具であると述べている。
    また,この調査結果からは,配偶者からの暴力について次のことが分かった。
    (1)暴力を振るう夫・パートナーが育った環境において暴力があったこと,
    (2)配偶者からの暴力は,「女性は男性に従うべきだ」及び「暴力を振るうことは男らしさで,ある程度は許される」という我が国の価値観に関連があることの2つである。
  • 最後に,東京都が平成9年7月から同年8月までに行ったアンケート調査によると,被害者の語る暴力の理由は,加害者の生育歴に加えて,「気に入らないことがあると,暴力で解決しようとする」(約40%),「夫が自分勝手,自己中心的」(約31%),「仕事などのストレスのはけ口」(25%),「アルコール中毒」(約17%),「夫自身の劣等感や競争意識の裏返し」(約15%),「精神疾患」(約15%),「家事は女がやるものだという思い込みを持っている」(約14%),「私が甘くみられている」(約12%),「私に対する甘え」(約10%),「私に愛情がないから」(約10%),「女・子どもは暴力で言うことをきかせるという考え方がある」(約8%),「夫が自分の思いを言葉でうまく表現できないから」(約4%)等である。
    上記に挙げられた理由は多様の社会的要因を反映していると思われ,要約すると,加害者(過去の研究は主に男性加害者を対象とした)はパートナーへの配慮がなく自己中心的であり,男性のプライドや男らしさにこだわり,支配力・コントロールを追求し,コミュニケーションに欠け,自分の行動を生育歴や酒等の理由により正当化し,女性を所有物として扱う傾向があるとみられた。

(出典)法務省『ドメスティック・バイオレンス(DV)の加害者に関する研究』
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00031.html
※それぞれの詳細なデータ元は、総務省資料をご参照ください。

内閣府調査『配偶者からの暴力に関するデータ』

  • 配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数は年々増加傾向にあり、平成30年度は114,481件にのぼっている。
  • 警察における配偶者からの暴力事案等の相談等件数も増加の一途をたどっており、平成30年は77,482件にのぼっている。
  • 配偶者(事実婚や別居中の夫婦、元配偶者も含む)から「身体的暴行」「心理的攻撃」「経済的圧迫」「性的強要」のいずれかを1つでも受けたことがあると回答した人は、女性は3割超、男性は約2割となっている。

(出典)内閣府男女共同参画局『配偶者からの暴力に関するデータ』
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/data/pdf/dv_data.pdf

企業もアクションを

情報提供

従業員の家庭内の事情について会社が干渉することは控えるべきですが、従業員も一人ひとりは家に帰れば家庭人であり、誰かの配偶者だったりパートナーだったり家族だったりするわけで、DV防止の啓蒙活動を企業が行い、従業員にDVに関する情報を提供することは、企業がなすべき社会貢献の一環であると考えます。

相談窓口

プライベートを完全に守ることのできる人、場所に、相談窓口を設置することも有効でしょう。
公的なシェルターだけでなく、日々身を寄せている職場内にシェルターの役割を担う窓口があれば、助けを求めやすいかもしれません。