セクシュアルハラスメントとは
セクシュアルハラスメント(セクシャルハラスメントやセクハラとも称される)とは、広義には、相手の望まない性的な行為のことです。
狭義には、権力的な関係性などを利用して行われる、相手方の望まない性的な行為のこと。
最狭義には、雇用上の関係を利用して行われる、相手方の望まなし性的な行為のことです。
厚生労働省は、セクシュアルハラスメントを、「「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること」と定義しています。
- 取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅、出張先、勤務後の飲み会の席等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所や職場内における上下関係・立場が継続する場所であれば「職場」に該当します
- 男性の女性に対する行為はもちろんのこと、女性の男性に対する、あるいは同性間での行為も該当します
- 受け手や周囲の者が「不快」と感じれば、それはセクハラになります
セクハラの行為類型
男性又は女性中心の発想で異性の立場を無視する
- 性に関する不快な言動(性的で下品な冗談、性的なからかい、性的な噂話等)
- 肌露出度の高いモデルが掲載されているポスターを人目につくところに掲示したり、そのような雑誌を持ち込んだり、PCディスプレイに表示する等
- 卑猥な絵や文章を見ることを強要
- 同僚の外見や性的魅力を比較してランキングを付けたり噂したりする
- 異性一般に対する蔑視的な発言をする
- 見聞きすると居心地の悪さを感じる人もいるであろう内容の話をしたり物を放置したりする
仕事上で性別による役割を求める(ジェンダーハラスメント)
- お茶くみ・コピー・電話応対・来客応対などの雑用、補助的仕事は女性担当とする
- 女性を「職場の華」として扱う
- 男性であるという理由で力仕事や残業、泥仕事、危険な仕事等を強要する
- 女性らしい(男性らしい)とされる服装や振る舞いを強要する
- 意見・主張するのは「女らしくない」として排斥する
- 逆に意見・主張しないのは「男らしくない」と揶揄したり非難したりする
- 婚姻歴の有無・年齢・容姿により扱いに差を設ける
性的な役割を求める
- 宴会などでお酌・デュエットなどの相手をするのを女性の役割とする
- 性的な噂・話題の対象とする
- 宴会などで上位者や取引先の隣にその者の異性を座らせる
- 宴会などで料理の取り分けを女性の役割とする
性的な関心を示す
- 性的関心を露骨に示す(身体を長時間眺める、スリーサイズを尋ねる等)
- 執拗な交際の誘い
- 恋愛経験や現在の交際状況を尋ねる
- 好みのタイプを執拗に尋ねる
- 身体(肩・背中・腰・頬・髪・手等)への不必要な接触
- 体温が伝わるほどの接近
- 性的関係の強要
セクハラの実態
働く人の10人に1人が、セクハラを経験しています。
女性だけでなく、男性の被害者も一定数います。
「うちは男性ばかりだから大丈夫」とは言えません。
被害経験者のうち、「性的な冗談やからかい」「不必要な身体への接触」が多くなっています。
性別では、女性は「性的な冗談やからかい」「不必要な身体への接触」が、男性は「性的な冗談やからかい」、次いで「性的な事実関係に関する質問」が多くなっています。
被害を受けた方は、強いストレスを感じ、そこから波及し仕事への意欲減退、コミュニケーション減少、不眠など、様々な影響を受けています。
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」によると、以下のような出来事があった場合に精神障害を発症しやすくなると考えられます。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf
心理的負荷「弱」の例
- 「○○ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに当たる発言をされた場合
- 職場内に水着姿の女性のポスター等を掲示された場合
心理的負荷「中」の例
- 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであっても、行為が継続しておらず、会社が適切かつ迅速に対応し発病前に解決した場合
- 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、発言が継続していない場合
- 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、複数回行われたものの、会社が適切かつ迅速に対応し発病前にそれが終了した場合
心理的負荷「強」の例
- 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、継続して行われた場合
- 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、行為は継続していないが、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合
- 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、発言の中に人格を否定するようなものを含み、かつ継続してなされた場合
- 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、性的な発言が継続してなされ、かつ会社がセクシュアルハラスメントであると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合
しかし、半数近くの方は、ハラスメントを受けた後、誰にも相談せずに泣き寝入りしたり、退職したりするに至っています。
その理由は・・・
実際、ハラスメントがあることや、あるかもしれないことを認識しても、勤務先は何もしてくれなかった、あるいは不利益な取扱いを受けたと回答している被害者が多くいます。
さらには、ハラスメントがあることを認定した後も、何もしてくれなかった企業が多いようです。
では、勤務先がハラスメントの予防・解決のための取組を行っている場合はどうでしょうか。
勤務先がハラスメント対策に「積極的に取り組んでいる」と評価した方は、パワハラを経験した割合が低くなっています。
さらに、ハラスメント対策に取り組むことで、コミュニケーションの活性化やエンゲージメントの向上など、副次的な効果も期待できます。
企業は、ハラスメント対策に積極的に取り組むべきです。
他社の取組を見てみましょう。
研修や就業規則、相談窓口の対策に取り組んでいるようです。
また、長時間労働の抑制や、コミュニケーションの活性化なども重視していることがわかります。
特に、下図のような特徴の職場で、ハラスメントの発生が多くなっています。
コミュニケーション不足がハラスメントを招き、ハラスメントがコミュニケーション不全を引き起こす、
長時間労働がハラスメントを招き、ハラスメントが長時間労働を引き起こす、
という悪循環に、多くの企業が陥っています。
ハラスメント対策を講じる際は、コミュニケーション活性化・円滑化や長時間労働是正の対策も不可欠です。
セクハラの原因と対策
女性から男性へのセクハラ、同性間のセクハラもありますが、ここでは最も発生事案の多い「男性から女性へのセクハラとジェンハラ」について解説します。
男女の感じ方の違い
「どのような行為がセクハラに該当するかわからない」「個人の感じ方次第だよね」と言う男性が多い一方で、「うちの男性上司の言動はほとんどがセクハラ」「個人的感情を除いて客観的に見ても明らかなセクハラ行為が横行している」と多くの女性が言う。
同じ行為についても、男性と女性では認識にギャップがあるものです。
対策
共通の認識を持つための周知を徹底しましょう。
- 就業規則に禁止行為例を掲載する
- 行為例を解説するルールブックを、絵や口語を用いたわかりやすい内容で作成し、配布する
- 研修を実施する
女性を対等な働き手として見ない
女性労働者を男性労働者より能力的に劣ると決めつけ、一人前の働き手として認めない文化が日本には残っています。
- 男性は営業職、管理職に配置し、女性は自動的に事務職、補助職に配置する
- 重要業務や重要な意思決定が行われる会議には男性のみ参加、宴会や取引先の接待には女性が強制参加
- 男性は年功序列で昇進するのに、女性は平均以上の能力や成果がなければ昇進できない(女性のみ能力主義)
- 女性上司の下で働くことを屈辱的に捉える
- 女性が成功したら「女のくせに」「女を使ったんだ」、女性が失敗したら「だから女はダメなんだ」と言う
- 「女性にもわかる」「女性でもできる」という言葉が多用される
- 男性は名字や役職で呼ぶのに、女性は「女の子」や「ちゃん付け」「下の名前」で呼ぶ
対策
評価や配置、研修訓練等あらゆる処遇について、男女差を設けず、客観的な能力主義を徹底しましょう。
- 主観の反映を最小限にする、客観的指標に基づく評価制度を構築する
- 評価者研修を実施する
- 配置、昇進等の決定権を有する者へのジェンダーハラスメント研修を実施する
- 職務の範囲を明確に定める(正式な職務分担ではなく「なし崩し的に」雑務が女性の担当になっている場合は改善する。雑務に費やした時間分、他業務に時間・能力・体力を費やせないことを考慮する)
女性を性的対象として見る見方が強い
女性を対等な働き手として見ないこととセットで、性的対象として見る、男性の鑑賞物として見る、そこから発展して結婚や出産を女性の役割と決めつけ、「親切のつもりで」「良かれと思って」不適切な助言をしたり評価したり讃えたりすることがあります。
仕事人としての誇りを踏みにじられ、女性にとっては屈辱以外のなにものでもありません。
- 女性を「職場の華」と呼ぶ、「女性がいると華やかでいいね」「空気が和らぐね」「良い香りがするね」「男ばかりでむさ苦しい」と言う
- 宴会や取引先の接待には女性を同席させる
- 既婚女性や子持ちの女性に冷たく又はきつく接する、「女じゃない」と言う
- 未婚女性に結婚を勧める、お見合いを勧める
- 容姿や服装、髪型についてコメントしたり噂したりする
対策
- 就業規則に禁止行為例を掲載する
- 行為例を解説するルールブックを、絵や口語を用いたわかりやすい内容で作成し、配布する
- 研修を実施する
職場での優越的地位の濫用
日本企業はいまだに男性が中心で、賃金格差も大きく、意思決定権を持つ地位に上れる女性は少数です。
この構造では、性について女性と異なる感覚を持つ男性が優位にある社会において、女性は不快感を抱いたとしても、拒絶したり注意したりすれば人事上不利益な取扱を受けると恐れ、愛想笑いで受け入れざるを得ません。
それどころか、気に入られようと積極的に性的サービスを提供することもあり得ます。
男性は「自分の性的行為を喜んでいる」「彼女に好かれている」「好意に応えよう」と、さらにエスカレートさせます。
そうして男女間に決定的な主従関係と男性側の支配的恋愛感情が完成し、ますます男性優位の構造が強固になる、という悪循環に陥ります。
事件後、「合意の上だった」「好意を持たれていた」と加害者側が言い訳し、被害者側が「上司から強要されたら拒めなかった」と主張するケースは少なくありません。
対策
- 数的優位性を解消する(女性の正社員採用・管理職を増やす。少数派が3割を超えると解消されると言われている)
- 「男性上司1人+女性部下1人」の構成は解消し、3人体制とする(3人目は兼務で良いが、男性上司より上位の者とし適時チェックする体制とする)
- 利用しやすい相談・通報窓口を整備する
縄張り意識
男性ばかりで構成されていた社会、職場に女性が入ってくると、「男の世界が壊される」「既得権益を侵される」「面倒なことになる」などと脅威的に捉え、防衛行動を取るようになります。
セクハラやジェンハラをすることで、女性は居心地が悪くなり、参加や活躍を諦めるようになります。
- あえて女性には事務的業務、補助的業務しかさせない
- あえて性的冗談を言ったり卑猥な掲示物をしたりして、女性が居心地の悪さを感じ出て行くよう仕向ける
- あえて男性が長時間残業したり、残業時間の長さを高評価するなどして、育児のため定時で帰る女性に肩身の狭い思いをさせたり、評価を下げたり、男性が時間で成果を稼げるようにする
- 「強い女は可愛くないよ」「女の子は弱いくらいが丁度良い」と言って女性の台頭を牽制する
- 男性ばかりで群れて女性を仲間外しにする
対策
- 「男の職場」ではセクハラが起こりやすいことを念頭に、指針で求められている「職場のハラスメント防止対策」を1から10まで徹底的に講じる
- 特に、利用しやすく、プライバシーが確実に保護される「相談・通報窓口」を社内にも社外にも整備する
性文化
先述の通り日本社会は長く男性多数・男性優位で成り立って来たため、男性にとって居心地の良い文化・都合の良い文化が、企業や団体単位ではいまだに残っています。
それは、「性におおらかな文化」、ひいては「性的言動に境界線を持たない文化」です。
文化は「当たり前の日常」として根付いてしまっているものであるため、不適切性を疑う余地もなく無秩序にセクハラ的言動が横行し、疑う者がいれば「心が狭い」「口うるさい」「変わっている」と非難し排除しようとするのです。
不快感を抱いても声を上げることはできず、我慢を強いられます。
- 宴会の二次会にはスナックや接待を伴う飲食店が自動的に使われる
- 宴会中は酔いの勢いで猥談が飛び交い、身体的なわいせつ行為が横行する
- 性的冗談に笑顔で返す女性を「ノリが良いね」と褒め、そうではない女性を「心が狭い」「空気が読めない」と非難する
- わいせつな写真や言葉が掲載された週刊誌が職場に持ち込まれる
- 挨拶と称して身体に接触する、そして「みんなやっていることだから」と悪びれない
- 面倒を見る、励ます、慰めるという名目で頭をなでたり背中をさすったりする
対策
- 就業規則に禁止行為例を掲載する
- 行為例を解説するルールブックを、絵や口語を用いたわかりやすい内容で作成し、配布する
- 研修を実施する
- 猥談や雑誌の持ち込みなどは「軽い気持ちで」なされやすいため、特に目を光らせ、見つけ次第即時に口頭注意する
(以上、参考)セクシュアル・ハラスメント法律相談ガイドブック(第二東京弁護士会編・2001年5月28日初版)から引用し当社にて編集
セクハラと人権デュー・ディリジェンス
企業が人権への影響を特定し、予防し、軽減し、そしてどのように対処するかについて説明するために、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方法に関する情報発信を実施する一連の流れを、「人権デュー・ディリジェンス」と言います。
セクハラについても、セクハラ発生の実態と、その人権への影響度を調査し、影響に対する対処方法を検討し実践すると同時に、以後どのように予防し、追跡調査し、対処するかという方針を外部に発信することは、企業に求められる社会的責任の一つです。







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