知的資産経営の開示〜知的資産経営報告書

見えない価値を見える化する

人材募集、事業承継、営業、資金調達等の際には、自社にどのような強みが有り、関与することで相手方にどのようなメリットがもたらされるのかを、示し説得する資料が必要です。
企業の将来の利益がどのようなもので、それがどのような経営によって生まれるのかという点につき、企業・ステークホルダー双方の認識や理解が深まり、さらに知的資産経営を進化させ、企業価値を向上させることを目的に、知的資産経営報告を企業が作成し、評価者が評価することが期待されます。
ただし、重要なことは、知的資産経営が実践されることであって、開示は、それをより意義の深いものとするための手段であるため、企業の自主的な取組が特に重要です。
また、開示を行うこと自体よりも、まずは企業において知的資産経営が実践され、そうした実践を反映した開示が行われることが重要です。

知的資産経営報告の目的

  1. 企業が将来に向けて持続的に利益を生み、企業価値を向上させるための活動を経営者がステークホルダーにわかりやすいストーリーで伝え、
  2. 企業とステークホルダーとの間での認識を共有すること。

知的資産経営報告の基本的な原則

  1. 経営者の目から見た経営の全体像をストーリーとして示す。
  2. 企業の価値に影響を与える将来的な価値創造に焦点を当てる。
  3. 将来の価値創造の前提として、今後の不確実性(リスク・チャンス)を中立的に評価し、それへの対応につき説明する。
  4. 株主のみではなく自らが重要と認識するステークホルダー(従業員、取引先、債権者、地域社会等)にとって理解しやすいものとする。
  5. 財務情報を補足し、かつ、それとの矛盾はないものとする。
  6. 信憑性を高めるため、ストーリーのポイントとなる部分に関し、裏付けとなる重要な指標(KPI)などを示す。また、内部管理の状況についても説明することが望ましい。
  7. 時系列的な比較可能性を持つものとする。(例えばKPIは過去2年分についても示す。)
  8. 事業活動の実態に合わせ、原則として連結ベースで説明する。

知的資産経営報告の要素

知的資産経営報告が、上記の基本的な原則を満たしつつ、ステークホルダーとの間での認識を共有することを容易にするためには、その内容として、以下の要素を含むことが望ましいでしょう。

  1. 事業の性格と経営の方向性
  2. 将来見通しを含む業績
  3. 過去及び将来の業績の基盤となる知的資産とその組み合わせによる価値創造のやり方
  4. 将来の不確実性の認識とそれへの対処の方法
  5. 上記を裏付ける KPI としての知的資産指標

留意点

  • 将来の業績に関する部分については、現時点での認識に基づくものであることを記載する。
  • 開示は必ずしも「年度」という単位にとらわれる必要はないが、継続的に行われることが望ましい。

具体的な記載の方法と留意点

知的資産経営報告は、①知的資産やそれを活用した企業価値の創造のやり方、将来の利益及びその持続性につきストーリー立てて説明する「本体」と、②典型的な知的資産指標の例を参考に、一般的に知的資産と関連すると考えられるものにつき任意に記載する「別添」からなります。

(1)知的資産経営報告の本体

  • 「全般」(基本的な経営哲学など)、「過去~現在」(企業に蓄積された資産等、利益等の実績など)、「現在~将来」(将来の利益やキャッシュフローなど)に
    ついて記載する。
  • ストーリー中に裏付けとなる、いくつかの知的資産指標(定量的情報)を盛り込む。典型的な知的資産指標の例が経産省ガイドラインの別紙1に示されているが、それぞれの企業において重要と考えられる指標をこの中から選択することも、独自のものを使うことも可能である。

全般

①基本的な経営哲学

日頃経営者が対社内外に語っている、基本的な方針・目標を、わかりやすく示すものです。
特に経営者が自分の言葉でステークホルダーに訴え、理解増進、ファン増大を目指します。
大きな経営判断の際に立ち返るべき基本であり、ステークホルダー側からすれば、企業の行動の予見可能性を高めるものです。

②事業の概要の概要

主要事業について、供給している製品・サービス、顧客、取引先、物流を含むサプライチェーンの状況などについて簡潔に説明します。
また、主要事業をめぐる外部環境として、主要な市場の状況、他社との競合の状況、関連する制度の状況などについて完結に説明します。

過去〜現在

過去の経営方針・ビジョン

過去における経営方針やビジョンとして、現に一部公開していたものを示します。

過去の投資実績

過去における投資(選択と集中)の方針、実績、前項の経営方針全般との整合性について記述します。

企業に蓄積された資産等

企業の強みや固有の価値創造のやり方(バリューチェーン)及びそれのコアとなっている知的資産及び有形資産について記述し、数値的な裏付けを示すことにより、それらの存在を説得的に示します。

利益等の実績

前項で述べたバリューチェーンに特に関連の深い分野を意識しつつ、利益額など財務指標から抽出する形で説明します。
過去に反省点が有り、実績が不十分と考える場合には、それについても説明し、現在〜将来の項目で対応策を説明します。

現在〜将来

企業に定着した知的資産及び価値創造のやり方

上述の「企業に蓄積された資産等」の内容を踏まえ、今後の収益の源泉として期待できるものについて説明します。
過去の取組による成果が不十分な場合には、過去〜現在の記述を踏まえ、本来自らが適切と考える(修正後の)価値創造のやり方を、具体的な修正方策の説明を添えて、記述します。

リスク認識をベースとした今後の経営方針

将来の収益にとってプラス、マイナスともに不確実性となる要素の認識、リスクマネジメントの手法や体制(それをどのように管理、対応していくのか)を示した上で、「企業に定着した知的資産及び価値創造のやり方」を踏まえた将来の収益実現の方法となる将来のバリューチェーン、それに活用する知的資産について記述します。

知的資産の持続、強化のための投資

「リスク認識をベースとした今後の経営方針」の内容を踏まえ、引き続き有効な知的資産をどのように維持・強化していくか、経営上活用する予定であるが不足している、又は活用できない知的資産をどのように補っていくか、そのためにどのような投資をしていくかについて記述します。

将来の利益やキャッシュフロー

ここまでの記述を踏まえ、予測される、又は今後の目標とする将来の利益やキャッシュフローを示します。
ステークホルダーの関心を踏まえ、短期、中期、長期といった時間軸を示しつつ説明をすることが望ましいです。

(2)知的資産経営報告の別添

  • 典型的な知的資産指標の例を参考に、本文中に引用しなかったものについて、示せるものがあれば自主的に別添の形で記載する。
  • 秘密にする必要があるものや、そもそも指標として管理していないもの、算出しようと思えば算出することが可能であるが、算出コストが高いもの、などは、そうした理由のみ示すという形で情報提供することも可能。

評価する側の留意点

  • 中期的な企業価値、持続的な利益の可能性に重きを置く必要がある。
  • それぞれの指標の水準(高い、低い)は、ストーリーとの関係によってその意味が変わるものであり、ストーリーの違う他社との間で指標の数値を単純に比較することには意味がない。指標の水準が、その企業のストーリーに照らして、十分な補強材料、説明材料となっているか否かを(見る側)は評価すべきである。

その他

  • 「知的資産経営報告」が経営全体の基本的な指針を示すものとして他の報告書との関係で横串を通すようなものとなれば、「知的資産経営報告」が信頼されるものとなり、また、他の報告書も位置づけが明確になって、その信頼性も向上する。
  • 財務情報の開示に関する国際的な動向、大企業のみでなくベンチャー企業、中小企業など幅広い企業における知的資産経営に関する実際の開示の内容、開示の内容を評価するステークホルダーからの反応などを考慮しつつ、このガイドライン自体も必要に応じてさらに発展していくものである。

このページは、経済産業省『知的資産経営の開示ガイドライン』に基づき作成しています。