アカデミックハラスメント

アカデミックハラスメントとは、「大学などの学術機関において、教職員が教育・研究上の権力を濫用し、ほかの構成員に対して不適切で不当な言動を行うことにより、その者に対して修学・教育・研究ないし職務遂行上の不利益を与え、あるいはその修学・教育・研究ないし職務遂行に差し支えるような精神的・身体的損害を与えることを内容とする人格権侵害のこと」です。

特定非営利活動法人(NPO)アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)は、研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為 “と定義しています。

パワハラとの違い

明白な主従関係

基本はパワハラと同じ。パワハラの大学版だが、大学は自分の専門や将来に関わる学問の場ゆえに、仕事と異なり「嫌なら辞めればいい」という逃げ道がないため上位者による強制力・拘束力が強く、下位者は拒絶・抵抗の自由がないという点でパワハラよりも深刻です。

一般化しにくい

明白な主従関係を背景として、特に被害者が学生の場合は職場のように労働者の権利や労働基準法による保護が及ばないため、学問の自由や人権等という壮大なテーマを盾にすることとなり、被害者の泣き寝入りに終わってしまうケースが多いです。
また国民の多くが経験しているパワハラやセクハラと異なり、問題を見聞きした者の多くにとって未経験のハラスメントであるため、自分ごととして捉えられないことから、一般的な議論になりにくいのが特徴です。

正当性の基準がわかりにくい

パワハラと指導の境界線も曖昧ですが、アカハラはさらにわかりにくいのが特徴です。
多くの企業には評価基準があるため、上司個人の裁量により差別的評価をしたり厳しく指導したりすることが一定程度制限されていますが、学校では教職員個人の裁量に委ねられているところが大きく、個人的感情や利権などが絡みやすくなります。
また教職員はそれぞれその分野の専門家であるため、「育てるため」とされれば周囲が一般常識を用いて反論することが心理的に難しくなります。

事例

学習・研究活動への妨害

研究教育機関における正当な活動を直接的・間接的に妨害すること。

  • 文献・図書や機器類を使わせない。
  • 実験機器や試薬などを勝手に廃棄する。
  • 研究に必要な物品の購入や出張を、必要な書類に押印しないという手段で妨害する。
  • 机を与えない。また机を廊下に出したり、条件の悪い部屋や他の研究室員とは別の部屋に隔離したりする。
  • 正当な理由がないのに研究室への立ち入りを禁止する。
  • 研究費の応募申請を妨害する。
  • 学会等への参加を正当な理由なく許可しない。

卒業、単位、進級の妨害

学生の進級・卒業・修了を正当な理由無く認めないこと。
また正当な理由無く単位を与えないこと。

  • 卒業研究を開始して間もないのに、早々に留年を言い渡す。
  • 理由を示さずに単位を与えない。
  • 卒業・修了の判定基準を恣意的に変更して留年させる。
  • 「不真面目だ」、「就職活動をした奴は留年だ」といって留年を宣告する。
  • 卒業研究は完了しているのに “お礼奉公”としての実験を強要し、それを行わなければ卒業させない。

選択権の侵害

就職・進学の妨害、望まない異動の強要など。

  • (指導教員を変更したいと申し出た学生に)「俺の指導が気に入らないなら退学しろ」
  • 指導教員を途中で変更したら自動的に留年。
  • 本人の希望に反する学習・研究計画や研究テーマを押しつける。
  • 就職や他大学進学に必要な推薦書を書かない。
  • 就職活動を禁止する。
  • 会社に圧力をかけて内定を取り消させる。
  • 他の研究教育組織への異動を強要する。
  • 「結婚したら研究者としてやってはいけない」などと言って、結婚と学問の二者択一を迫る。

指導義務の放棄、指導上の差別

教員の職務上の義務である研究指導や教育を怠ること。
また指導下にある学生・部下を差別的に扱うこと。

  • 「放任主義だ」と言ってセミナーを開かず、研究指導やアドバイスもしない。
  • 研究成果が出ない責任を一方的に学生に押しつける。
  • 論文原稿を渡されてから何週間経っても添削指導をしない。
  • 測定を言いつけるが、その試料がどんな物で何が目的なのか尋ねられても説明しない。
  • 嫌いなタイプの学生に対して指導を拒否したり侮蔑的言辞を言ったりする。

不当な経済的負担の強制

本来研究費から支出すべきものを、学生・部下に負担させる。

  • 実験に失敗した場合、それまでにかかった費用を弁償させる。
  • 研究費に余裕があるにもかかわらず試薬を買い与えない。
  • 学生の卒業論文に必要な実験の試薬等を自費で購入させる。

研究成果の収奪

研究論文の著者を決める国際的なルールを破ること、アイデアの盗用など。

  • 加筆訂正したというだけなのに、指導教員が第一著者となる。
  • 実験を行う・アイデアを出すなど研究を主体的に行って、その研究に最も大きな貢献をした者を第一著者にしない。
  • 第一著者となるべき研究者に、「第一著者を要求しません」という念書を書かせる。
  • 著者の順番を教授が勝手に決める。
  • その研究に全くあるいは少ししか関わっていない者を共著者に入れることを強要する。
  • 「俺の名前を共著者に入れろ。場所代だ。」
  • 学生が出したアイデアを使って、こっそり論文を書く。

暴言、過度の叱責

本人がその場に居るか否かにかかわらず、学生や部下を傷つけるネガティブな言動を行うこと。
発奮させる手段としても不適切。

  • 「お前は馬鹿だ」
  • 「(論文を指して)幼稚園児の作文だ」
  • 「(研究を指して)子供の遊びだ」
  • 「こんなものを見るのは時間の無駄だ」
  • 「セミナーに出る資格がない。出て行け」「死んでしまえ」
  • 「お前は実験はやらなくていい。掃除だけやっておけばいい」と言って、大学院生に研究テーマを与えない。
  • 「君は(出来が悪いから)皆の笑い者だ」
  • 学生や部下が持ってきた論文原稿をゴミ箱につっこむ、破り捨てる、受け取らない、きちんと読まない。
  • 学生や部下が出したアイデアに全く検討を加えず、それを頭から否定する。
  • ささいなミスを大声で叱責する。

不適切な環境下での指導の強制

  • 午後11時からなど深夜に指導を行う。
  • 指導するからと言ってホテルの一室に呼びつける。
  • 他人の目が行き届かない状況で個人指導を行う。
  • 演習・セミナーの時間が他研究室と比べて異様に長く、くどくどと叱責を行う。

権力の濫用

(1)不当な規則の強制

  • 他の人や先輩に実験手法を教えてもらってはいけない。
  • 研究に関して人と相談することを一切禁止する。
  • 先輩のデータ作りは手伝わなくてはいけない。しかし、自分の実験はどんなに時間がかかっても一人でやるべきである。
  • 日曜日に研究室に来ないと留年。
  • 夏休みは指定された3日だけ。それ以外に休んだら留年。
  • スキー禁止。テニス禁止。アルバイト禁止。
  • 「○○とは一切口をきくな」

(2)不正・不法行為の強要

  • 空バイト・空謝金(アルバイトをしたという架空の書類を学生に作成させ、不正に研究費を引き出すこと)などの金銭的不正行為の強要。
  • 研究データの捏造・改ざんの強要。

(3)権力の濫用(その他)

  • プライベートな行動に付き合うことの強制。
  • 送り迎えの強要。
  • 教授が行う学会発表のデータ作りを、共著者でない学生に徹夜で仕上げることを強要。
  • 会議や行事など、必要な情報を故意に教えない。
  • 物品等の管理を過剰なまでに厳格に行う。試験管1本まで厳密に管理して、不足する度にいちいち取りに来させる。

プライバシー侵害

プライベートを必要以上に知ろうとしたり、プライベートなことに介入しようとしたりすること。

  • 家族関係・友人・恋人のことなど、プライベートについて根掘り葉掘り聞く。
  • 交際相手のことをしつこく聞き、「そういう人はやめたほうがいい」などと勝手なアドバイスをする。

他大学の学生、留学生、聴講生、ゲストなどへの排斥行為

  • (担当者の了解をとり、ゼミに参加した他大学の学生に向かって)「外部の人間は出て行け」「ここはあなたのようなレベルの低い人がくるところではない」「自分のゼミに帰れ」
  • 属性や身分(留学生、社会人学生、聴講生、科目等履修生、研究生、研修生など)によって差別的な待遇をしたり、それを正当化しようとしたりする。(例:「聴講生は発言を控えてほしい。」)

(出典)特定非営利活動法人(NPO)アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)ホームページより
http://www.naah.jp/harassment.html

アカハラを防ぐために教職員が心がけるべきこと

大学教職員の使命は、専門分野を通して学問の発展に寄与すること、学生が学習・研究する文化的環境を整え支援、応援することです。
教職員自身の個人的感情や権益保護、保身を第一に考え、学生を奴隷のように扱うことは、教職員の務めではありません。

指導の目的を明確に

NG

  • 人格否定
  • 非難
  • 感情的
  • 個人的感情や欲求の発散

OK(場合によってはNGにもなり得る)

  • 問題となる具体的行動・内容に焦点を絞り、明確に伝える
  • 感情を入れず、事実のみを伝える
  • 改善しないとどのような危険や不利益があるのか等、常に指導の理由を意識し明確に伝える

指導の仕方

NG

  • 大声で怒鳴る
  • 乱暴な言葉
  • 長時間叱責する
  • 過去を持ち出す
  • 何度も持ち出す
  • 弁明を禁じる
  • 先入観
  • 人前で叱る

OK(場合によってはNGにもなり得る)

  • 冷静に
  • 短時間で
  • タイムリーに
  • 1回1用件
  • 言い分に傾聴する
  • 相手が受け入れやすいタイミングと場所を選ぶ

指導の締めくくりに

  • どのように伝わったかを確認する
  • アフターフォロー
  • 指導記録を付ける

NGワード

お前は/あなたは(二人称)

相手の人格に言及するのはNG

他の人は/他の人より

他者や動物との比較で非難するのはNG

いつも/あのとき

過去を持ち出したり過去の失敗を理由に決めつけたりするのはNG

普通

普通の基準は曖昧。自分の常識は他人の非常識

男は・男なんだから/女は・女なんだから

性別で括るのはジェンダーハラスメント

なぜ

「なぜ」ではなく「何が」で問う

ちゃんと/きちんと/しっかり

曖昧な表現は控えめに

大学の対策

相談・苦情・通報窓口の整備・周知

アカハラ防止マニュアルの策定

教職員間で情報共有

  • ニュースや窓口に寄せられた事例を共有
  • インシデントレポートを教職員から日々収集し共有
  • 承認・伝え方・指導方法等の勉強会