介護現場のカスタマーハラスメント(介護カスハラ)

介護現場のカスタマーハラスメント(介護カスハラ)

介護カスハラとは、「介護従事者が、利用者やその家族等から受けるクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、介護従事者の就業環境が害されるもの」のことです。
ハラスメントとは、不快感や不利益、脅威を与えたり、身体や精神、尊厳を侵害したりするような言動のことです。

厚生労働省が公表した令和3年度の「過労死等の労災補償状況」では、精神障害に関する事案の労災補償について、請求件数、支給決定件数ともに、「医療、福祉」が最も多くなっています。

また、厚生労働省が2019年に公表した『介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書』によると、「これまでに」利用者本人からハラスメントを受けたことのある従事者は、サービスにより差はあるものの、平均すると5割超。利用者の家族等からハラスメントを受けたことのある従事者の割合は、訪問系では2〜3割、その他も1〜2割となっています。

当社で把握している事案の一例

  • 職員に対しコップや食器を投げつける
  • 職員の手を払いのける
  • 職員の頭や背中を叩く
  • 些細なミスに対し、土下座や慰謝料を要求する
  • あの利用者より自分を優先しろと特別扱いを要求する
  • 施設全体に響き渡るほどの大声を発する
  • 身体の向きを変えたり腕を曲げたりしてほしいのに、協力してくれない
  • 担当替え要求を繰り返す
  • 不必要に身体に接触する
  • 卑猥な言動を繰り返す
  • 入浴介助時に抱きつく、等

介護現場のカスタマーハラスメント(介護カスハラ)予防・対応研修

介護施設等における利用者・家族等からの迷惑行為を、どのように予防し、万が一発生した際はどのように対応するか、を学ぶ研修をご提供しています。

介護現場のカスタマーハラスメント予防・対応研修の詳細

『季刊誌・認知症ケア』特集ページ「利用者・患者からのセクハラ予防の具体策」
【寄稿】『季刊誌・認知症ケア』(株式会社日総研出版様)特集ページ「利用者・患者からのセクハラ予防の具体策」
>詳しくはこちら

介護カスハラの要因

加害者(利用者等)に要因がある場合と、ハラスメント自体は容認されないとしても、施設・職員側にもハラスメントを引き起こす要因がある場合とがあります。

加害者(利用者等)に要因がある場合

  • 利用者等の性格又は生活歴
  • 利用者等がサービスの範囲を理解していないこと
  • 利用者等に認知症等の病気又は障害によるもの
  • 利用者等がサービスへの過剰な期待をしていること
  • 診療方針や心身の健康状態等への不安、等

施設・職員等側にも要因がある場合

  • 介護方針等の説明不足
  • 対話不足(不安や質問を聞かなかった)
  • 職員による礼を失した対応
  • 待ち時間の長さや待合室の環境
  • 施設や設備の不備(温度・照度・段差・散乱・案内や経路のわかりづらさ等、等)

施設・職員等側にも要因がある場合は、対策より予防できる可能性があります。
すべての迷惑行為を一律に「利用者等が悪い」と決め付けるのではなく、利用者等の行為が過剰であったとしても、サービス提供側にも原因・落ち度はなかったか、必ず検証するべきです。

介護カスハラがもたらす影響

介護カスハラは、職員の生命、健康、尊厳を傷つけ、働く意欲を阻害し、仕事への誇りを奪い、ひいては提供する介護サービスの質を低下させ、福祉への信頼を失う結果を招きます。
職員の犠牲のもとには、健全なサービス提供はなし得ません。
介護従事者が安心して安全に働ける職場環境を整えることが、持続可能な福祉の実現につながります。

ペイシェントハラスメントの影響

介護現場におけるカスタマーハラスメント対策

事件発生リスクを低減する予防策

基本の心構え

  • 組織的・総合的にハラスメント対策を行うこと
  • ハラスメントは初期対応が重要と認識すること
  • ハラスメントが起こった要因の分析が大切であること
  • 介護サービスの質の向上に向けた取組が重要であること
  • 問題が起こった際には施設・事業所内で共有し、誰もが一人で抱え込まないようにすること
  • 施設・事業所ですべてを抱え込まないこと
  • ハラスメントを理由とする契約解除は「正当な理由」が必要であることを認識すること

施設・事業所として取り組むべきこと

  • ハラスメントに対する施設・事業所としての基本方針の策定及び周知
  • マニュアル等の作成・共有・教育
  • 相談しやすい職場環境づくり、相談窓口の周知
  • 介護サービスの目的及び範囲等へのしっかりとした理解と統一
  • 利用者・家族等に対する、ハラスメントに関する方針や、職員の安全確保、トラブル防止のためにご協力いただきたい事項等の周知(★)
  • 利用者や家族等に関する情報の収集とそれを踏まえた担当職員の配置・申送り
  • サービス種別や介護現場の状況を踏まえた対策の実施
  • 利用者や家族等からの苦情に対する適切な対応との連携
  • 発生した場合の対応
  • 管理者等への過度な負担の回避
  • 対策等の更新、再発防止策の検討

★患者・利用者等への方針周知

患者・利用者等に向け、ハラスメントを禁ずること、ハラスメントをした場合の対応などを、ポスターや配布文書等により周知します。

<入居・入所型介護施設における利用者等からのハラスメント防止文書(見本)>
【ダウンロード】介護ハラスメント・迷惑行為防止文書(利用者等へのお願い・説明文見本)※入居・入所型

環境を整える

  • 家具、備品、調度品は武器として使用できないようなものを選ぶ
  • 整理整頓、掃除を心がけスッキリ清潔に
  • プライバシーが守られる範囲で、施設内に死角を作らない
  • 出入り口に脱出の妨げになる家具や物を置かない
  • 常に出入り口側に位置し、避難路を確保する
  • 個室に一人で入る場合は扉を閉めないようにする
  • 扉を閉める場合は二人以上で入る
  • はさみなどの鋭利なものは利用者等と反対側に置く
  • 防犯設備・システムの拡充を可能な範囲で行う

人員・体制を整える

  • 業務量に応じた適切な人員を配置する
  • 特に懸念ある利用者等のケアや、密接な身体接触を要するケアは同性が、または複数名で行う
  • 安全な通勤経路を提供する
  • 通勤が真夜中とならないようなシフトにする
  • 長時間勤務を防ぐ(長時間勤務時は十分な休憩を確保する)
  • 警備員の配置の充実を図る
  • 職員間の緊急の連絡体制を周知する

各職員の心がけ

大前提

  • すべて利用者等が迷惑行為をするわけではないこと
  • 介護・医療側が、質の高いサービスを提供すること

基本の心がけ

  • 業務に関する知識を深め、技能を磨き、技術向上とミスを減らすことに努める
  • それにより、自信に満ちたプロの表情とテキパキした身のこなし、高い技術と豊富な知識・経験を、醸し出す。「プロとして信頼」されると、被害にあいづらくなる
  • 疾病や障害、家族の介護負担(ストレス)等に関する学習
  • 個別ケースのケアや対応の検証
  • 質問や不安を聞き、丁寧に答える
  • 傾聴と共感、敬意を持ち、礼儀正しく丁寧で明るいコミュニケーション
  • 身だしなみを整える。だらしないと軽んじられ、きちんとしていれば尊重される

発生時の対応

まずは、安全確保行動をとります。その後、以下の対応を、状況により順序を調整しながらとっていきます。

  • 上司に報告
  • 現場保存・証拠押さえ
  • 証拠収集・記録化
  • 迅速な受診・治療
  • 警察へ通報

状況が落ち着いたら、あるいは状況により、被害者(職員)及び行為者(利用者等)から話を聞き、両者への対応を行います。

被害者(職員)への対応

  • 被害者から、事案発生の経緯や状況を聞く
  • 被害者の心身の状況を確認し、受診の必要性を判断する
  • 被害者に受診が必要な場合は手配する
  • 被害者の家族に連絡する
  • 安全管理者(リスクマネジャー)、精神看護専門看護師等を活用し、被害者が安心を得られるようにする
  • 被害者の意思を確認し、早退・休暇等も含め、業務調整を行う
  • 被害者を帰宅させる場合は次の連絡、勤務について確認する

行為者(利用者等)への対応

  • 行為者への初期対応を行う
  • 通告等の対応は、現場の関係者ではなく、管理者と総務課の職員などで対応し、組織的に対応していることを示す
  • 行為者の家族に連絡する

組織としての対応

  • 組織全体に事件が発生したことを知らせる
  • 事件発生現場に職員を集める、あるいは避難を促す全館放送を行う
  • 緊急時に応援に行く職員、待機する職員を決定し指示する
  • 外部資源(契約している警備会社・最寄の警察)への連絡・調整を行う
  • 行為者が入所・入院している場合は、入所または入院の継続について検討する
  • 事件発生後の対応責任者を決定する

発生後の対応・再発防止策

  • 事案発生直後は、行政、保健所、近隣の施設・医療機関等各所へ連絡、マスコミ対応、施設の機能回復などに当たります。
  • 同時又はその後、被害を受けた職員はもちろん、目撃した職員、対応している職員のメンタルケア体制を整えます。
  • 被害者からは話を聞き、影響を把握するとともに、傾聴によるケアを行います。十分な休養と刺激やストレス要因からの保護、専門家によるカウンセリングを受けられるよう手配します。警察への被害届や法定措置を講じる場合の支援も行います。
  • 行為者からも話を聞き、口頭による説明と警告、書面による警告を行います。行為者に接するケア業務の中断、告訴も検討します。行為が症状や病状に起因する場合は、症状や病状の治療を施すなど、医師に相談の上対策を検討します。

再発防止策の検討

委員会等により以下を実施し、再発防止策を検討します。

  • 組織全体への影響の把握と支援
  • 暴力等のリスク要因の検討
  • 記録
  • 対応の評価
  • リスクの再アセスメント
  • 体制整備、マニュアルの改訂
  • 情報の共有

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