スポハラ発生後、「指導者を処分して終了」でよいのか。
- 処分して終わり、ではありません。再発防止には、組織構造の検証と行為者本人への是正指導、継続的なモニタリングが必要です。
- スポーツハラスメント発生後は、「なぜ発生し、なぜ止まらなかったのか」という組織構造の検証が必要です。行為者本人の是正に加え、被害を受けた選手へのフォロー、指導者への権限集中、相談・情報経路、指導者評価、周囲が異論を言える環境などを点検し、構造を修正することが必要です。
- スポハラを組織のシグナルとして捉え、「行為者是正+組織是正+モニタリング」まで一体化した対策が、スポハラ再発防止の重要な要素と考えます。
スポーツハラスメントが発覚すると、組織は、研修や処分等、行為者に対する対応を迫られます。
これとは別に、問題を生み出した組織への対応も必要です。
処分は「過去の行為」への対応
暴力、暴言、セクシュアルハラスメントなどが確認された場合、その内容に応じた処分や是正措置が必要です。
行為の重大性によっては、指導者としての活動を停止させる必要もあるでしょう。
処分が主として扱っているのは、「何が行われたのか」という過去の問題です。
過去を踏まえて、再発防止が扱うべきは、「なぜそれが起き、なぜ止まらず、どうすれば次に起きにくくできるのか」という未来の問題です。
「問題のある指導者だった」で終わらせない
例えば、あるコーチが選手に対して長期間、人格を否定するような暴言を繰り返していたとします。
調査の結果、ハラスメントと判断され、コーチは処分されました。
これで一件落着。
ーー本当にそうでしょうか。
組織としては、さらに確認すべきことがあります。
- なぜ長期間続いたのか
- 周囲の指導者は知らなかったのか
- 知っていたなら、なぜ止められなかったのか
- 選手はなぜ相談できなかったのか
- 保護者やスタッフから情報は上がっていなかったのか
- 過去にも類似した兆候はなかったのか
これらの問いから、個人とは別の、「組織構造の問題」が見えてくることがあります。
スポハラは「組織のシグナル」でもある
スポーツハラスメントをガバナンスの観点から見ると、ハラスメントは、その組織の仕組みに何らかの機能不全があることを知らせるシグナルです。
例えば、暴言が長期間続いていた背景を調べると、
・監督に強い権限が集中していた
・指導方法について他のコーチが意見できなかった
・選手の相談先が監督しかなかった
・指導者評価が競技成績だけだった
・問題を外部に出さない文化があった
といった構造が見つかることがあります。
この場合、指導者一人を交代させても、構造が同じであれば、別の人物によって似た問題が起きる可能性があります。
再発防止策の提案
再発防止① 行為者本人を是正する
構造を見ることは、行為者本人の責任を曖昧にすることではありません。
まず必要なのは、問題となった行為そのものへの是正です。
ただし、「ハラスメントはいけません」「今後気をつけてください」という一般的な研修だけでは、十分な行動変容につながらないことがあります。
必要なのは、
・何をしたのか
・何が問題だったのか
・なぜその行動を選択したのか
・本来どう行動すべきだったのか
・同じ状況が起きたとき次はどうするのか
まで具体化することです。
例えば、「選手の態度に腹が立って怒鳴った」のであれば、「怒鳴らないようにする」だけではなく、その場で達成したかった指導目的は何だったのかを確認します。
目的が「集中させること」だったなら、人格否定ではなく、集中を回復させる別の指導行動を設計します。
再発防止とは、禁止事項を増やすことだけではありません。
問題行動に代わる適切な行動を実装することです。
再発防止② 被害を受けた選手・周囲へのフォロー
当事者及び周囲の選手へのフォローも必須です。
問題が認定された後でも、「今後チームでどう扱われるのか」「相談したことを周囲にどう思われるのか」「試合や選考に影響しないのか」という不安は残ります。
問題を目撃していたチームメイトやスタッフにも影響が生じている場合があります。
ゆえに、必要に応じて、
- 相談者本人への説明
- 競技継続に関する配慮
- 相談後の不利益の有無の確認
- 周囲の選手へのフォロー
- 一定期間後の再確認
などを行う必要があります。
「相談を受けた瞬間」ではなく、「相談後に安全に競技を続けられるところまで」が相談対応です。
再発防止③ 権限配置を確認する
スポーツ組織では指導者に複数の権限が集中することがあります。
例えば、指導+評価+選抜+出場決定+推薦+相談対応を、一人の監督が担っているという構造。
組織運営としては効率的ですが、権限濫用が起きた場合には、誰も止められない構造にもなります。
すべての権限を分散することではなく、重要なのは、「この権限配置には、適切なチェック機能が存在するか」です。
- 重要な選考に複数者が関与する
- 一定の判断について説明可能性を持たせる
- 監督以外の相談経路を設ける
- 重大な問題では外部の視点を入れる
こうした方法によって、指導者の必要な裁量を残しながら、ガバナンスを機能させることができます。
再発防止④ 「情報がどこで止まったか」を確認する
重大なハラスメント事案は、後から、「実は以前から噂があった」「他の選手も知っていた」「保護者の間では問題になっていた」ということがあります。
情報そのものが存在しなかったのではなく、組織のどこかで情報が止まっていた可能性があります。
再発防止では、
・誰が知っていたのか
・誰に伝えられたのか
・どこから先に上がらなかったのか
・なぜ上がらなかったのか
を確認する必要があります。
「相談窓口を設置する」という対策よりも、情報が経営・競技団体・責任者まで届く経路が本当に機能しているかを見ることが重要です。
再発防止⑤ 指導者を何で評価していたか
例えば、
・大会成績
・勝率
・代表選手の輩出
・昇格実績
ーーこうした競技成果だけで指導者を評価している組織では、結果を出す指導者の不適切な行為が見過ごされる可能性があります。
「多少問題はあるが、勝たせてくれる」という判断が起こりやすくなるからです。
そこで、競技成績だけでなく、
- 選手育成
- 指導行動
- チームマネジメント
- 選手・スタッフとのコミュニケーション
- 人権・安全への配慮
なども指導者評価に組み込むことが考えられます。
組織が何を評価するかは、「この組織では何が重要なのか」という強いメッセージになります。
再発防止⑥ 周囲が止められる組織にする
スポハラを「加害者と被害者」の二者関係だけで考えません。
実際のスポーツ現場には、他のコーチ、トレーナー、チームスタッフ、選手、保護者、競技団体関係者など、多くの人がいます。
問題行為を目撃した人が、「監督には言えない」「自分の立場では止められない」「昔からこうだから仕方ない」と考える組織では、問題が長期化します。
「被害を受けた本人が相談する」以外の情報経路をつくることが重要です。
本人が声を上げられなくても、周囲が異常を検知し、適切な場所へ情報を上げられる組織を目指します。
再発防止⑦ 是正後をモニタリングする
再発防止策を決定した時点で、対応を終了してしまうことがあります。
制度を作ったことと、機能していることは別です。
・選手は相談先を知っているか
・相談しても大丈夫だと思っているか
・指導者の行動は変わったか
・チーム内のコミュニケーションは変化したか
・同様の兆候は出ていないか–
–再発防止には、Design(設計)だけでなく、Monitor(確認)が必要です。
「処分 → 研修」から「是正プロトコル」へ
スポハラ発生後の対応を整理すると、次のようになります。
- 事実確認・安全確保:まず被害拡大を防ぎ、必要な事実確認を行う
- 行為への対応:行為の内容・重大性に応じた処分その他の措置を行う
- 行為者是正:問題行動の原因を分析し、代替となる適切な指導行動を設計する
- 選手・周囲へのフォロー:相談後の安全性、競技継続、不利益の有無などを確認する
- 構造分析:権限、評価、情報、相談経路、組織文化など、問題を継続させた要因を確認する
- 組織是正:必要な制度・運用・権限配置等を修正する
- モニタリング:一定期間後、行為者と組織の双方について再発防止策が機能しているか確認する
これが、単なる「処分」から再発防止・標準是正プロトコルへの転換です。
処分は終点ではなく、ガバナンス改善の起点
- 行為者是正と組織是正を、混同しない:個人の問題か、組織の問題かという二者択一にしません。行為者是正 + 組織是正の両方が必要です。
- 「二度と起こさない」を、精神論にしない:再発防止とは、反省の強さではなく、組織の仕組みを変えることです。「徹底する」「意識を高める」「気をつける」だけでは、組織は変わりません。
重要なのは、この事案から、組織として何を学ぶのか。という問いです。
ハラスメントという事象を、単なる不祥事ではなく、組織の構造を点検するためのシグナルとして扱います。
処分は過去に対する責任を明確にするもの。
再発防止は未来の組織を設計するもの。
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投稿者
- ケンズプロは、ハラスメント等心理社会的リスクを管理し、健康的な心理社会的職場環境を実現するための組織ガバナンス設計・実装支援ファームです。
