スター社員のハラスメント行為は、見逃されるべきか?

スター社員によるハラスメント行為は、「成果を出しているから」「代替が効かないから」と見過ごされがちです。しかし、その例外扱いは、組織の行動基準を実質的に空洞化させ、周囲の社員に沈黙と諦めを学習させます。ハラスメントは個人の資質の問題に見えますが、実務の現場では、逸脱行動を許容する組織構造がエスカレートを生みます。才能の評価と行動の許容は切り分けるべきであり、優秀であっても組織のルールと責任から免れる理由にはなりません。スター社員の問題行動にどう線を引くかは、企業が「個人依存型経営」から「組織で強くなる経営」へ転換できるかを測る、ガバナンスの試金石です。

「彼(彼女)がいなければ、この事業は回らない」
「実績を出している人だから、多少の問題行動は仕方がない」

ハラスメント事案に関与する“スター社員”を前に、経営や人事がこうした判断に傾く場面は、決して珍しくありません。
しかし、その判断は本当に組織にとって合理的でしょうか。
結論から言えば、スター社員のハラスメント行為を見逃すことは、短期的には便益があるように見えても、長期的には企業価値と組織の格を確実に毀損します。

本稿では、スター社員の問題行動を「個人の資質」ではなく、「組織ガバナンスの課題」として整理します。

1.スター社員の“例外扱い”が組織にもたらす歪み

スター社員の逸脱行動が見過ごされる組織では、次のような構造的歪みが生じます。

  • 行動基準の実質的な無効化
  • ルールの恣意的運用(人によって適用が変わる)
  • 周囲の社員の不信感・諦め・沈黙
  • 「声を上げる方が損をする」という学習

これは単なる職場風土の問題ではありません。
組織の統治構造が、“成果を出せば何をしても許される”設計に変質している状態です。

ハラスメントは、個人の資質の問題として語られがちですが、実務の現場では、

逸脱行動を“許容する構造”があるからこそ、行為がエスカレートするというケースが少なくありません。

2.「才能の評価」と「行動の許容」は切り分ける

スター社員が組織にもたらす価値を正当に評価することと、その人物の行動を無条件に許容することは、まったく別の問題です。

  • 業績・専門性・成果 → 正当に評価されるべき
  • 組織のルール・行動基準への適合 → 例外なく求められるべき

この二つを切り分けられない組織では、“才能が高いほど統治が効かなくなる”という逆転現象が起きます。
結果として、組織は特定の個人に依存し、再現性のない経営構造へと傾いていきます。

3.見逃しのコストは、後から必ず回収される

スター社員のハラスメント行為を見逃すことによるコストは、当初は見えにくい形で蓄積します。

  • 被害者の離職・メンタル不調
  • 周囲の優秀層のモチベーション低下
  • 組織に対する信頼の低下
  • 「問題が起きても守られない」という学習

これらは数値化されにくいため、経営判断の俎上に載りにくいものです。
しかし、中長期的には、人材流出・エンゲージメント低下・ガバナンス不全として顕在化します。

ハラスメントを「個別事案」として処理し続ける企業ほど、同種の問題を繰り返す構造に陥ります。

4.組織として線を引くための実務原則

スター社員の問題行動に対し、感情論でもゼロか百かでもなく、組織として線を引くためには、次の原則が重要です。

① 事前に基準を明示する
役職に求められる責任・行動基準・逸脱時の取り扱いを、あらかじめ言語化し、共有しておく。

② 逸脱行動は“構造的に”是正する
何が基準から逸脱しているのか、組織にどのような影響を与えているのかを明確にし、修正の機会を設計する。

③ 是正に応じない場合は、決断する
改善機会を提示したにもかかわらず、行動が変わらない場合は、配置転換や雇用継続の可否を含め、組織として判断する。

④ 個人依存型の経営構造を見直す
「この人がいないと回らない」という状態自体が、ガバナンス上のリスクであると認識する。

5.スター社員の問題行動は、組織の成熟度を測る試金石

スター社員のハラスメント行為にどう向き合うかは、その組織がどのレベルのガバナンスを志向しているかを映し出します。

  • 問題行動を黙認する組織:
    短期成果を優先し、統治の一貫性を犠牲にする段階
  • 基準を明示し、是正を求める組織:
    組織としての判断の質を高めようとする段階

ハラスメント対策は、単なるリスク管理ではありません。
「組織として、どのような価値観と判断基準で人を扱うのか」という経営の姿勢そのものです。

まとめ

スター社員のハラスメント行為を見逃すことは、短期的には業績やプロジェクトを守るように見えても、長期的には組織の公正性・再現性・持続性を損ないます。

才能は尊重する。
しかし、例外はつくらない。
組織で強くなる経営へ転換できるかどうかが、企業の格を分ける。

この問いにどう答えるかが、組織ガバナンスの成熟度そのものを示します。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。