カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化とは、顧客や取引先による暴言・威圧・過剰要求などから従業員を守るため、企業に具体的な防止措置を講じることが求められる法的枠組みを指します。近年、労働施策総合推進法の改正議論を背景に、企業の安全配慮義務および職場環境配慮義務の一環として、相談体制整備・方針明確化・対応手順策定などの実務対応が強く求められる局面に入っています。これは単なる接客マナーの問題ではなく、企業の統治責任とリスク管理の問題です。
カスタマーハラスメント対策の義務化は、「クレーム対応を強化すること」を求めているのではありません。
問われているのは、従業員を守る判断を、個人ではなく組織が担える構造になっているかです。
本チェックリストは、カスハラ対策が“現場対応”に留まっていないか、統治構造として実装されているかを点検するためのものです。
Ⅰ.方針・基本姿勢
- カスハラを許容しないという基本方針が明文化されている
- 従業員の安全・尊厳を優先する旨が経営として表明されている
- 正当なクレームと不当要求の違いが整理されている
- 不当要求には対応を中止することがあり得ると明示している
- 顧客優先原則が無条件のものになっていない
Ⅱ.定義・判断基準
- カスハラの具体的類型が定義されている
(暴言、威圧、長時間拘束、過度な要求、人格否定など) - 要求内容・態様・頻度の観点で判断基準が整理されている
- 判断を現場の感覚に委ねていない
- 「どの段階で組織対応に切り替えるか」が定義されている
- グレー事案の検討フローがある
Ⅲ.対応プロセス・体制
- 一次対応の標準フローが整備されている
- 上長・専門部署へのエスカレーション経路が明確
- 対応中止・出入禁止・法的対応の判断権限が定義されている
- 現場が単独で最終判断を迫られない設計になっている
- 事案記録の様式が統一されている
Ⅳ.従業員保護・フォロー体制
- 被害従業員への心理的ケア・フォローが用意されている
- 相談しても評価に影響しない仕組みが担保されている
- 被害申告をためらわせる文化がない
- 繰り返し事案に対する組織的対応方針がある
- 再発防止の振り返りが行われている
Ⅴ.経営レベルでの統治
- カスハラ発生状況が経営層に報告されている
- 顧客維持より従業員保護を優先する判断が可能な構造になっている
- 対応方針が売上目標と矛盾していない
- 管理職に対する教育が実施されている
- 定期的な制度見直しが予定されている
判定の目安
- 20項目以上にチェック
組織としての体制整備は概ね実装されている状態です。 - 12〜19項目にチェック
体制はあるが、現場依存の要素が残っている可能性があります。 - 11項目以下
カスハラ対策が個人対応レベルに留まっています。
組織設計の見直しが必要です。
重要なのは「線を引ける構造」かどうか
カスハラ対策の核心は、不当要求に“組織として線を引けるか”にあります。
マニュアルがあっても、最終的に現場が「対応せざるを得ない」状況に置かれていれば、それは統治として機能していません。
法改正の流れは、企業に次の問いを突きつけています。
- 従業員を守る判断は誰がするのか
- その判断は制度として再現可能か
- 経営は本当に従業員保護を優先できるか
まとめ
カスハラ対策とは、
- 顧客対応の問題ではなく
- 現場教育の問題でもなく
従業員を守る判断を統治構造として実装することです。
チェックリストは入口にすぎません。
本質は、“守ると決めた判断”を構造に落とし込めているかにあります。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
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