カスハラ対策義務化、企業は何をすればいい?―法改正対応の実務ポイント

結論:従業員の尊厳を最優先とする方針を明確にし、不当要求に組織として線を引く体制を整備することで、従業員を守る判断を個人ではなく統治構造が担う状態を実装すること。

カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化とは、顧客や取引先による暴言・威圧・過剰要求などから従業員を守るため、企業に具体的な防止措置を講じることが求められる法的枠組みを指します。近年、労働施策総合推進法の改正議論を背景に、企業の安全配慮義務および職場環境配慮義務の一環として、相談体制整備・方針明確化・対応手順策定などの実務対応が強く求められる局面に入っています。これは単なる接客マナーの問題ではなく、企業の統治責任とリスク管理の問題です。

カスタマーハラスメント(いわゆる「カスハラ」)への対応は、これまで各社の努力義務や現場対応に委ねられてきました。
しかし、法改正の流れにより、企業には「従業員を守るための体制整備」が明確に求められる局面に入っています。

本稿では、過度に危機感を煽ることなく、経営・人事・コンプライアンスの視点から、企業が“何を整備すべきか”を構造的に整理します。

1.カスハラ対策義務化の本質は「現場対応」ではなく「統治の設計」

カスハラという言葉が広まると、議論は往々にして次の方向に流れます。

  • 現場に我慢をさせない
  • クレーム対応を強化する
  • マニュアルを作る

しかし、法改正の趣旨は、個々の対応力の問題ではありません。
問われているのは、企業として「従業員を守る意思決定構造を持っているか」です。

  • 不当要求に「NO」と言える組織か
  • 現場に判断を丸投げしていないか
  • 売上や顧客満足を優先するあまり、従業員の安全を後回しにしていないか

カスハラ対策義務化は、現場オペレーションではなく、企業ガバナンスの問題として捉える必要があります。

2.実務対応の全体像:4つの設計ポイント

企業対応は、大きく次の4層で設計されます。

① 方針(ポリシー)の明確化

まず必要なのは、会社としての公式なスタンスです。

  • カスハラを許容しないという明確な宣言
  • 従業員の安全・尊厳を守ることを優先する原則
  • 不当要求への対応方針(対応しない、打ち切る等)

ここが曖昧なままだと、現場は常に、「顧客を優先すべきか」「従業員を守るべきか」の板挟みに遭います。

② 定義と判断基準の設計

次に重要なのは、「どこからがカスハラか」を組織として定義することです。

  • 正当なクレームとの線引き
  • 言動・要求内容・頻度・態様の観点
  • 対応継続可否の判断基準

個人の感覚に委ねると、対応のばらつきや過剰対応が生じます。
判断基準を組織知として形式化することが、ガバナンスの要点です。

③ 対応プロセスとエスカレーション設計

現場に「断る勇気」だけを求めるのは現実的ではありません。

  • 一次対応での標準対応フロー
  • 上長・専門部署へのエスカレーション経路
  • 対応中止・出禁・法的対応の判断ルート

重要なのは、現場が“孤立しない構造”を用意することです。
個人対応の限界を前提に、組織対応へ移行する設計が求められます。

④ 記録・再発防止・経営へのフィードバック

カスハラ対策は、一度整備して終わりではありません。

  • 事案の記録・蓄積
  • 類型化によるリスク把握
  • 経営層への定期的な報告
  • 業務設計や顧客対応方針の見直し

これは「現場の苦情管理」ではなく、経営リスク管理の一部として位置づけるべき領域です。

3.パワハラ対策との構造的な共通点

カスハラ対策義務化は、パワハラ対策と同じ構造を持ちます。

  • 個別事案への対応ではなく
  • 組織としての「防止措置義務」
  • 体制・方針・教育・相談・対応プロセスの整備

つまり、カスハラ対策は新しいテーマでありながら、ハラスメント対策ガバナンスの延長線上にあると整理できます。

パワハラ対策が「人格の侵害」への対応だとすれば、カスハラ対策は「顧客という外部からの侵害」への対応です。
いずれも、個人を守る仕組みを組織として実装できているかが問われています。

4.よくある失敗パターン

実務で多いのは、次のような対応です。

  • マニュアルを作ったが、使われていない
  • 「現場で判断して」と丸投げしている
  • クレーム抑止を優先し、従業員の負担が増えている
  • 相談窓口はあるが、実際に頼ると評価に影響する雰囲気がある

これらはすべて、制度はあるが、統治として機能していない状態です。

5.経営にとっての意味:カスハラは「人材リスク」

カスハラ対策は、単なるコンプライアンス対応ではありません。

  • 離職率
  • メンタル不調
  • 現場の疲弊
  • サービス品質の低下

これらはすべて、経営上の人材リスクに直結します。

「顧客第一」の名の下に、従業員の安全や尊厳が犠牲になっている組織は、中長期的には競争力を失います。

まとめ

カスハラ対策義務化に対して、企業が問われているのは、

  • クレーム対応力の強化ではなく
  • 従業員を守る意思決定構造を持っているか
  • 不当要求に組織として線を引けるか

という統治の成熟度です。

対応の巧拙は、現場のスキルではなく、経営としてどのような設計をしているかで決まります。

カスハラ対策は、ハラスメント対策・働き方改革・人材戦略と連動する、経営課題の一部として位置づけるべきフェーズに入っています。

「カスハラ対策義務化」に関するQ&A-よくある質問

法改正の動向により、企業に防止措置を講じることが明確に求められる方向で整理が進んでいます。既に安全配慮義務や職場環境配慮義務の観点から、実質的な対応は不可避と考えられます。

改正法の施行時期は今後の国会審議等により確定しますが、準備期間を考慮すると、企業は早期に体制整備に着手することが望ましい状況です。

一般に求められるのは以下の措置です。

  • カスハラ防止方針の明文化
  • 相談窓口の設置
  • 対応マニュアル整備
  • 管理職・従業員への教育
  • 発生時の記録・再発防止策の実施

重要なのは「個別対応」ではなく、組織としての判断基準を設計することです。

原則として企業規模を問わず対象となります。むしろ体制が未整備な企業ほど、現場任せの対応によりリスクが顕在化しやすい傾向があります。

行政指導や勧告の対象となる可能性があります。また、適切な対応を怠った場合、労災認定や安全配慮義務違反として民事責任を問われるリスクもあります。

業務の範囲内で合理的に行われる苦情は正当なクレームですが、暴言・威圧・人格否定・過度な要求など、社会通念上相当性を欠く行為はカスハラに該当します。線引きには明確な基準設計が必要です。

従業員の離職、メンタル不調、労災申請、レピュテーション毀損など、経営リスクに直結します。属人的判断に依存すると問題が拡大しやすいのが特徴です。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。