前回の記事では、大学における不正が「個人の倫理」ではなく、意思決定構造・統治設計の問題として繰り返されていることを整理しました。
では、自大学のガバナンスは実際に機能しているのでしょうか。
本稿では、大学・研究機関が平時に確認すべきポイントを、チェックリスト形式で整理します。
該当しない項目があったとしても、それ自体が問題なのではありません。
重要なのは、どこに構造上のリスクが潜んでいるかを把握しているかです。
Ⅰ.権限と意思決定の分散に関するチェック
- 研究費の使途や配分について、教授個人以外が関与する確認プロセスがある
- 研究室運営における重要事項(予算・人員・外部委託等)について、複数名での判断が前提となっている
- 特定の教授一人に、研究・人事・評価が過度に集中していない
- 「慣例だから」「これまで問題なかったから」という理由で、権限集中が黙認されていない
チェックが少ない場合のリスク:裁量の集中がブラックボックス化し、不正や不適切運用が長期化しやすい。
Ⅱ.研究費・資源管理の透明性に関するチェック
- 研究費の執行ルールが、研究者本人以外にも理解できる形で整理されている
- 形式的な事後チェックではなく、運用段階での相談・確認ルートが存在する
- 事務部門が「チェック役」ではなく「牽制役」として機能している
- 外部資金・共同研究においても、学内ルールが明確に適用されている
チェックが少ない場合のリスク:「悪意がなくても不正になる」状態が生じ、個人と組織の双方が損失を被る。
Ⅲ.異議・違和感が表に出る構造かどうか
- 学生・若手研究者・職員が、立場を理由に発言を控えなくてよい仕組みがある
- 研究室内での違和感や問題を、研究室外に相談できるルートが明確である
- 「波風を立てない方が良い」という無言の圧力が放置されていない
- 問題提起をした人が、不利益を受けない設計になっている
チェックが少ない場合のリスク:問題は存在していても、表に出た時点で既に深刻化している。
Ⅳ.内部通報・相談制度の実効性チェック
- 内部通報制度が「形式上の設置」で終わっていない
- 通報先が、教授・部局の影響を受けにくい独立性を有している
- 匿名性・守秘性について、具体的な説明と運用実績がある
- 通報後の対応プロセス(調査・是正・フィードバック)が明文化されている
チェックが少ない場合のリスク:制度は存在するが、誰も使わない「飾り」になっている。
Ⅴ.成果とガバナンスの関係性に関するチェック
- 研究成果が出ている間も、運営面の点検が継続されている
- 「成果を出しているから任せる」という判断が無条件になっていない
- 研究評価と統治評価が切り分けて考えられている
- 問題の兆候があった場合、成果とは別に是正できる判断軸がある
チェックが少ない場合のリスク:成果が止まった瞬間に、組織全体が信用失墜に直面する。
Ⅵ.不正発生時の「次の一手」が決まっているか
- 不正や不適切行為が疑われた場合の初動対応が定められている
- 誰が判断し、誰が関与せず、どこまでを調査対象とするか整理されている
- 個人の断罪だけで終わらず、構造を見直す前提がある
- 再発防止が「研修の実施」だけに矮小化されていない
チェックが少ない場合のリスク:同種の問題が、別の研究室・別の教授のもとで再発する。
チェック結果をどう活かすか
このチェックリストは、「○が何個あるか」を競うためのものではありません。
重要なのは、
- どの領域に偏りがあるのか
- どこが属人的になっているのか
- どこが制度はあるが運用されていないのか
を把握し、構造として手当てすることです。
不正を防ぐとは、人を疑うことではなく、人に過度な負荷と裁量を背負わせない設計を行うこと。
それが、研究の自由を守り、大学の信頼を守る最短ルートです。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
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