教授一人に依存しない研究室運営とは―研究の自由を守るための〈分散設計〉

前回までの記事では、大学における不正が、個人の倫理ではなく、権限集中と是正不能な構造から生じていることを整理しました。

では、研究の自由を損なうことなく、どのように研究室運営を設計し直せばよいのでしょうか。

本稿では、「理想的な教授像」ではなく、特定の個人に依存しなくても機能する研究室運営モデルを、構造の観点から考えます。

1. 問題は「教授が強い」ことではない

まず確認すべき前提があります。

問題は、教授に権限や裁量があること自体ではありません。

研究の方向性を定め、外部資金を獲得し、研究室を牽引する役割は、教授にしか担えない部分も多い。

問題となるのは、

  • 判断が一人に集中している
  • 牽制や補正が効かない
  • 問題が起きても、止める回路がない

という「構造的な孤立」です。

つまり、属人化が問題なのであって、リーダーシップそのものが問題なのではありません。

2. 研究室運営を「役割」で分解する

教授一人に依存しないための第一歩は、研究室運営を「教授の仕事」として一括りにしないことです。

たとえば、研究室運営には次のような機能があります。

  • 研究方針・学術的判断
  • 研究費・資源管理
  • 人的配置・役割分担
  • 学生・若手研究者の育成・評価
  • 外部との契約・連携

これらをすべて教授一人が担う前提では、どれほど誠実な人物であっても、限界が生じます。

重要なのは、判断の種類ごとに、関与する人を分ける設計です。

3. 「副線」を持つ研究室運営モデル

属人化を避ける研究室では、必ず副線(サブの判断経路)が存在します。

たとえば、

  • 研究費や契約については、教授+事務部門での共同確認
  • 人的配置や役割分担については、複数教員での共有
  • 学生・若手研究者の相談は、研究室外の教員にもアクセス可能

といったように、一本の線が詰まっても、別の線で補正できる構造を持っています。

これは教授の権限を奪うものではなく、むしろ、教授自身をリスクから守る設計でもあります。

4. 「暗黙の了解」を前提にしない

不正や不適切運用が起きやすい研究室では、

  • 「この研究室では、こういうものだ」
  • 「これまで問題になっていない」
  • 「信頼関係があるから大丈夫」

といった、言語化されていない了解事項が多く見られます。

教授一人に依存しない研究室では、逆に、

  • 判断基準
  • 相談ルート
  • 役割分担
  • 例外時の対応

が、簡潔でもよいので明文化されています。

ルールで縛るのではなく、判断の前提を共有することが目的です。

5. 若手が「逃げ道」を持っているか

研究室運営の健全性を測る一つの指標は、

若手研究者や学生が、教授以外の選択肢を持っているか

です。

  • 相談先が教授一人しかいない
  • 評価者が実質的に一人
  • 研究室を離れることが事実上不可能

こうした状態では、小さな違和感が、構造的な沈黙へと変わります。

逆に、

  • 研究科内の複数教員
  • 学内の独立した相談ルート
  • 研究室外のメンター

といった複数の接点があるだけで、不正や逸脱は起きにくくなります。

6. 教授を「孤立させない」ことが最大の予防策

不正防止の観点から最も重要なのは、教授を孤立させないことです。

  • 成果を出しているから任せきり
  • 忙しそうだから口を出さない
  • 権威があるから踏み込まない

こうした配慮の積み重ねが、結果としてブラックボックスを生みます。

定期的な対話、共有、確認――
それらは管理ではなく、健全な関与です。

7. 分散設計は、研究の自由を強くする

教授一人に依存しない研究室運営は、研究の自由を制限するためのものではありません。

むしろ、

  • 判断の正当性が高まり
  • 問題が早期に是正され
  • 研究室全体の持続性が高まる

ことで、自由に研究できる環境が長く保たれるのです。

自由は、無秩序の上には成り立ちません。
自由を守るためにこそ、構造が必要です。

おわりに ― 設計を変えれば、文化は変わる

研究室の文化は、理念や研修だけでは変わりません。

判断の流れ、役割の配置、相談の経路――
設計を変えれば、行動が変わり、文化が変わる。

教授個人の善意に依存しないこと。
それは、大学にとっても、研究者にとっても、最も誠実なガバナンスの形なのかもしれません。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。