本稿は、フジテレビをめぐる一連の問題について、事後的な評価や責任追及を目的とするものではありません。
あくまで、同様のインシデントが他の組織で発生した場合に、どのような判断構造が求められるのかという観点から整理した「模範的な考え方」を示すものです。
結論の要旨
本件を組織統治の観点から整理した場合、中核的な問題は次の二点に集約されます。
- インシデント発生時のエスカレーション構造が制度として明確に設計されていなかったこと
- エスカレーション後に判断を行う意思決定主体が、同質的な属性(中高年男性)に著しく偏っていたこと
これらは個別企業に固有の問題ではなく、多くの日本企業が構造的に抱えうる課題です。
① インシデント時のエスカレーション構造は、どうあるべきだったか
ハラスメントや人権侵害が疑われるインシデントにおいて、最初に問われるべきは、
「誰が正しかったか」ではなく
「どの時点で、どこに判断が上がる構造だったか」
です。
模範的なエスカレーション構造には、少なくとも以下が必要です。
- どのレベルの事象が
「現場判断を超えるインシデント」として扱われるのか - その判断を行う権限と責任が、
個人ではなく構造として定義されているか - 「判断を先送りする」「様子を見る」という選択が、
無判断として扱われていないか
本件に照らすと、問題が報告・認識された時点で、判断を引き受ける明確な構造が存在していたかが最大の検討ポイントとなります。
② エスカレーション後の「判断主体」はどうあるべきだったか
仮にエスカレーションがなされていたとしても、次に問われるのは、
誰が、その判断を行っていたのか
です。
本件では、仮に意思決定が行われていたとしても、
- 同世代
- 同性別
- 同質的なキャリア背景
を持つ中高年男性のみで構成された判断主体であった場合、その判断は構造的に歪むリスクを内包します。
これは個々人の資質の問題ではありません。
問題は「構成」にあります
- ハラスメントや人権侵害の評価は、
経験や立場によって認識が大きく異なる - 判断主体が同質であれば、
見落としや過小評価が起きやすい - 結果として「問題ではない」という判断が
組織として固定化されやすい
したがって、模範的な構造では、
エスカレーション後の判断主体は、
あらかじめ多様性を前提に設計されている必要がある
と考えます。
③ 模範的に取るべきだった判断構造(整理)
当社の立場から見た場合、本件において組織が備えているべきだった構造は、次のとおりです。
1. エスカレーション基準の明確化
- 行為の重大性ではなく
「判断の困難性」を基準に上申される設計
2. 判断主体の事前設計
- インシデント発生後に人を集めるのではなく
平時から構成が定義されている意思決定体
3. 判断主体の多様性確保
- 性別・世代・立場の偏りを前提にしない
- 外部性(社外取締役・外部有識者等)を含める設計
4. 「判断しない」という選択の排除
- 先送りや黙認を
一つの判断として可視化・検証対象にする仕組み
④ この問題は「他人事」ではない
本件を見て、
「フジテレビだから起きた」
「特殊な業界だからだ」
と考えるのは、もっとも危険です。
同様の構造は、
- 規模の大小を問わず
- 業種を問わず
- 善意の組織であっても
容易に生じます。
最後に
本件から導かれる最も重要な教訓は、次の一点です。
問題が起きたかどうかではなく、
問題が起きたときに
誰が・どの構造で・判断することになっていたか
これが定義されていなければ、どれほど研修や規程を整備しても、再発防止は機能しません。
当社は、ハラスメント対応や不祥事対応を個別行為の是正ではなく、判断構造の設計問題として扱います。
それは、特定の企業を評価するためではなく、同じ誤りを繰り返さない組織を増やすためです。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
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