企業不祥事や意思決定の失敗が起きた後、「結果的には止められた」「大事には至らなかった」という説明がなされることがあります。
一見すると、適切な判断がなされたようにも見えます。
しかし、その判断が偶然に支えられていた場合、それはガバナンスが機能したとは言えません。
ガバナンスとは、ラッキーを引き当てることではありません。
正しい判断が、特定の人の勘や勇気に依存せず、必然として生まれる状態をつくることです。
「うまくいった組織」が見落としがちな前提
問題が表面化しなかったとき、組織は次のように捉えがちです。
- 今回は適切に対応できた
- 危機管理は機能している
- 判断力のある人材がいる
しかし、その判断が、
- 誰かが気づいたから
- たまたま発言力のある人がいたから
- 時間的に間に合ったから
という条件に依存していた場合、それは再現可能な判断ではありません。
結果が良かったことと、構造が正しかったことは、まったく別です。
ラッキーに依存する判断構造の特徴
正しい判断が「たまたま」生まれる組織には、共通する構造があります。
- 判断基準が明文化されていない
- 止まる条件が共有されていない
- 判断のタイミングが定まっていない
- 誰が判断するのかが曖昧
その結果、
- 進める判断は惰性でなされ
- 止める判断だけが特別な決断になる
という非対称な状態が生じます。
この構造では、「止められたこと」が成功体験として記憶され、なぜ止まれたのかは検証されないまま残ります。
ガバナンスとは「止める判断」を日常にすること
ガバナンスが機能している組織では、止める判断は、勇気や英断ではありません。
- あらかじめ基準があり
- 立ち止まる条件が共有され
- 手続きとして止まる
という状態が整っています。
つまり、止める判断が例外ではなく、日常の選択肢として存在しているのです。
ここでは、
- 勘の良さ
- 個人の倫理観
- その場の空気
は、前提条件になりません。
正しい判断が「必然」になる状態とは何か
正しい判断が必然になる組織には、次の要素があります。
- 判断基準が言語化されている
- その基準が現場まで共有されている
- 判断プロセスが定義されている
- 責任の所在が明確である
このとき、正解は、
- 誰がそこにいたか
- 誰が気づいたか
によって左右されません。
構造を通過すれば、誰が判断しても、同じ結論に至る状態になります。
ラッキーが続く組織ほど、リスクは蓄積する
ラッキーに依存した判断は、次の性質を持ちます。
- 再現できない
- 引き継げない
- 検証できない
そのため、ある日突然、
- 前は防げたのに、今回は防げなかった
- あの人がいれば違った
という説明しか残らない事態が起こります。
これは、個人に責任を押し付ける組織を生み、真の再発防止を遠ざけます。
ガバナンスの成熟度を分ける分岐点
ガバナンスの有無は、次の一点で分かれます。
- 正しい判断が「起きてから」語られるか
- 正しい判断が「起きる前」に定義されているか
前者では、結果が良ければ是とされ、後者では、結果に関わらずプロセスが検証されます。
この差が、ラッキーに頼る組織と、構造に支えられた組織の違いです。
おわりに
――ガバナンスとは、ラッキーを捨てられる状態
ガバナンスとは、優秀な人を集めることでも、注意喚起を重ねることでもありません。
ラッキーがなくても正しい判断がなされる状態、ラッキーに頼らなくてよい安心を組織に与えることです。
正しい判断が「たまたま」生まれる組織と、
正しい判断が「必然として」生まれる組織。
その違いは、能力の差ではありません。
判断を、個人から構造へ移せているかどうかの差です。
ガバナンスとは、偶然を期待することをやめる、という選択なのです。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
