ハラスメント相談窓口には、
事実確認、被害者配慮、組織防衛、再発防止――
複数の役割が一気に押し寄せます。
その中で最も重要なのは、「最初の聞き取りで、何を・どう聞くか」です。
初動の聞き取りを誤ると、
- 事実関係が歪む
- 相談者の信頼を失う
- 後の調査や判断が不可能になる
といった、取り返しのつかない事態を招きます。
本稿では、
相談が来た際に必ず確認すべき事項と、
聞き取り時の注意点・判断上のポイントを整理します。
1.相談者から聞き取るべき基本項目(整理用リスト)
以下は、評価や結論を急がず、事実を整理するための項目です。
順番どおりに聞く必要はありませんが、最終的にはすべて把握されている状態が望まれます。
① 相談の位置づけ
- 今回は「相談」か「正式な申立て」か
- 現時点で、どこまでの対応を望んでいるか(話を聞いてほしい/是正してほしい 等)
② 相談者本人について
- 相談者の所属・役職
- 行為者との関係性(上司・同僚・部下・取引先 等)
③ 行為の内容
- 具体的に何があったか
- 行為の言動・態度・行動の内容(可能な限り事実ベース)
④ 発生時期・頻度
- いつ頃から起きているか
- 一度きりか、継続・反復しているか
⑤ 発生場所・状況
- 職場内か、オンラインか、業務外の場か
- 周囲に人がいたか、第三者は存在するか
⑥ 行為者について
- 行為者の所属・役職
- 行為者が複数いる場合はその関係性
⑦ 相談者の受け止め
- 相談者はその行為をどう感じたか
- 業務や心身にどのような影響が出ているか
⑧ 証拠・記録の有無
- メール、チャット、録音、メモ等の有無
- 今後保全すべき資料があるか
⑨ これまでの対応
- 相談者自身が既に取った行動(注意・相談・拒否 等)
- 上司や他部署に相談したことがあるか
⑩ 緊急性・安全性
- 心身への重大な影響が出ていないか
- 二次被害や報復のリスクはないか
2.聞き取り時に必ず意識すべき注意点
評価・断定をしない
- 「それはハラスメントですね」
- 「それは違うと思います」
こうした早期評価は不要かつ有害です。
相談窓口の役割は、判断ではなく整理です。
感情と事実を切り分ける
相談者の感情は尊重すべきですが、そのまま事実認定に使うことはできません。
- 感情は受け止める
- 事実は丁寧に確認する
この切り分けができないと、後の調査・対応が必ず破綻します。
「聞いてあげている」という態度を取らない
相談者は、「好意で話を聞いてもらっている」のではありません。
制度として、正当な相談をしているという前提を崩さないことが重要です。
約束してはいけない言葉がある
以下は、安易に口にしてはいけません。
- 「必ず処分します」
- 「絶対に誰にも言いません」
- 「会社として守ります」
組織として守るべきは、人ではなく、正しいプロセスです。
3.相談窓口担当者が押さえるべき判断ポイント
相談=即ハラスメント認定ではない
相談が来た時点では、ハラスメントかどうかは未確定です。
- 事実確認が必要か
- 調査フェーズに進むか
- 組織対応が必要か
を切り分けるための材料を集めている段階です。
「小さな違和感」を軽視しない
一見すると軽微に見える事案でも、
- 継続性
- 権力関係
- 組織文化
によって、重大化するケースは少なくありません。
初動での記録と整理が、後の判断を左右します。
相談者を「問題の中心」にしない
問題の中心は、個人ではなく、行為と構造です。
相談者に
- 我慢を求める
- 適応を促す
といった方向に寄ると、制度は機能しなくなります。
4.伝えたいこと
ハラスメント相談窓口の役割は、「正しさを示すこと」でも、「誰かを守ること」でもありません。
正しい判断ができる状態を、組織として確保することです。
そのために必要なのは、
- 共感ではなく整理
- 善意ではなく構造
- 勇気ではなく設計
です。
最後に
もし、
- 聞き取り項目が担当者ごとにばらつく
- 判断の基準が属人化している
- 「この対応でよかったのか」と毎回迷う
のであれば、それは個人の問題ではなく、制度設計の問題です。
相談窓口は、人を増やすことで強くなるのではなく、構造を整えることで機能します。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
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