ハラスメント予防・再発防止の実効解は、役職定義にある―「個人の問題」に見せかけた、組織設計の不備

ハラスメント事案は、問題のある個人によって引き起こされたものとして処理されがちです。
しかし、実務の現場で多くの事案を扱っていると、同じ構図が繰り返されていることに気づきます。
それは、役職の意義・責務・権限が曖昧なまま運用されている組織では、ハラスメントは偶発的に起こるのではなく、構造的に「起きるべくして起きている」という現実です。

本稿では、ハラスメントの予防・再発防止の実効解を、「役職定義」という観点から整理します。

1.ハラスメントは「逸脱行為」ではなく「役割逸脱」から生じる

多くの行為者は、自身を「加害者」だとは認識していません。
「指導のつもりだった」「組織のためを思って言った」という言葉は、事案対応の現場で繰り返し聞かれます。

ここで問題となっているのは、行為の善悪以前に、その役職として許容される行為の範囲(Boundary)が定義されていないことです。

ハラスメントに転化しやすい行為は、次の二類型に整理できます。

  • 越権型
    本来の権限を超え、私生活や人格に踏み込む指導・介入
    業務上不要な価値観の押し付け、私的関係への干渉
  • 放置型
    本来果たすべき育成・環境整備の責務を果たさず、
    結果のみを部下の資質や姿勢の問題として処理する

いずれも、個人の性格の問題というより、役職としての役割認識の欠如・誤認が生んでいる構造的問題だと言えます。

2.管理職の役割定義が曖昧な組織ほど、ハラスメントは多発する

管理職の役割が「成果を出すこと」に偏って定義されている組織では、次のような歪みが生じやすくなります。

  • 成果が出ない=部下の能力や姿勢の問題
  • 職場が荒れる=当事者同士の相性の問題
  • 離職が続く=若手の忍耐力の問題

本来、管理職には以下の責務が含まれます。

  • 人材育成の責務
  • 職場環境の整備・改善の責務
  • 業務プロセス設計の責務
  • 個人の問題を構造の問題へ引き上げる責務

これらが役職定義として明文化されていない場合、管理職は「結果責任のみを負う存在」へと矮小化されます。その結果、指導と支配の境界が曖昧になり、ハラスメント的行為が正当化されやすくなります。

3.役職別に見る「人材育成・職場環境整備」の責務

ハラスメントの予防・再発防止は、人事部門やコンプライアンス部門だけの仕事ではありません。
各役職に応じた責務を、組織設計として明確にする必要があります。

経営層の責務

  • 組織としての価値基準・判断軸を明確にする役割
  • 管理職に対して「成果+育成+環境整備」を期待役割として課す責任
  • ハラスメントを個別事案ではなく経営リスクとして位置づける責任

管理職(部長・課長クラス)の責務

  • 部下の成果創出を個人の努力に委ねず、育成・支援の構造を設計する役割
  • 職場の心理的安全性を確保する責任
  • 部下間の摩擦や孤立を放置せず、環境要因として介入する責任

現場リーダー・主任クラスの責務

  • 日常業務の配分・声かけ・関係調整を通じた環境づくり
  • 疲弊・萎縮・関係悪化といった兆候の早期検知
  • 上位職への適切なエスカレーション

人事・管理部門の責務

  • 役職定義・評価基準への育成・環境整備要素の組み込み
  • ハラスメントを個人の資質問題に回収しない制度設計
  • 相談・通報制度が機能する構造の維持

4.予防・再発防止の実効解は「役職定義 × 行動基準」の明確化

ハラスメント対策が形骸化する最大の要因は、「してはいけない行為」の列挙に終始している点にあります。
重要なのは、各役職において「何を担う役割なのか」「どこまでが権限なのか」「どこからが越権なのか」を具体的に示すことです。

例えば管理職であれば、次のような行動基準が必要です。

  • 評価対象は人格ではなく職務遂行・業務行動である
  • 指導とは感情の発散ではなく役割期待の明確化である
  • 成果が出ない場合、まず問われるのは育成・設計の妥当性である

こうした基準がないままでは、現場では「自分なりの正しさ」に基づく指導が横行し、結果としてハラスメントが再生産され続けます。

5.ガバナンスとしてのハラスメント予防

ハラスメント対策とは、「良い人を増やすこと」ではありません。
正しい振る舞いが必然になる構造を設計することです。

役職定義を明確にし、その役職に期待される行動を組織として言語化する。この設計がなされて初めて、個人の善意や忍耐に依存しない、持続可能な予防・再発防止が可能になります。

まとめ

  • ハラスメントの多くは、個人の資質ではなく役職定義の欠落から生じる
  • 越権と放置という役割逸脱が、尊厳侵害を生む
  • 人材育成・職場環境整備は、管理職の付随業務ではなく本来的責務である
  • 予防・再発防止の実効解は、役職定義と行動基準の明確化にある
  • ガバナンスとは、正しい判断と振る舞いが必然となる構造をつくることである

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。