看護の現場では、慢性的な人手不足と、患者・家族からのペイシェントハラスメント(ペイハラ)が同時に進行しています。
この二つは、別個の問題ではありません。
相互に増幅し合い、現場を疲弊させる構造的な連鎖です。
にもかかわらず、多くの医療機関では、
- 忍耐
- 献身
- プロ意識
といった言葉で、この問題を処理し続けています。
本稿では、人手不足とペイハラを「現場の問題」として切り分けるのではなく、医療機関の統治・設計の問題として整理します。
人手不足は、ペイハラ耐性を奪う
人手不足の現場では、一人の看護職が抱える負荷が増大します。
- 応対にかけられる時間がない
- 判断を共有する余裕がない
- クッション役が存在しない
その結果、患者・家族の不満は看護職に直接集中します。
本来であれば、
- 業務範囲の説明
- 境界線の提示
- 組織としての対応判断
が必要な場面でも、個人が矢面に立つ構造が生まれます。
人手不足は、ペイハラを受け流す余地を奪い、被害を個人に固定化します。
ペイハラは、人手不足を加速させる
一方、ペイハラが常態化している職場では、
- 心身の疲弊
- エンゲージメント低下
- 離職・休職
が連鎖的に発生します。
特に看護の現場では、「患者のため」「医療者として当然」という規範が強く、被害が表に出にくい。
結果として、
- 声を上げた人が「弱い人」になる
- 耐えた人が「優秀な人」になる
という、逆転した評価構造が生まれます。
この構造が、さらなる人手不足を招きます。
問題は「患者の質」ではない
ペイハラが問題になると、しばしば次の言葉が聞かれます。
「患者層が変わった」
「モラルの低い人が増えた」
しかし、これは本質ではありません。
同じ患者が、ある病院では問題にならず、別の病院では深刻なトラブルになる。
その差を生むのは、個々の患者の性格ではなく、組織の構造です。
ペイハラを生む医療機関の構造的特徴
ペイハラが頻発する医療機関には、共通する特徴があります。
- 看護職に判断権限がない
- 管理職・事務部門が現場に介入しない
- 対応基準が曖昧で属人的
- 「患者満足」が絶対視されている
この構造では、理不尽な要求に対して「断る主体」が存在しません。
結果として、最も立場の弱い看護職が矢面に立ち続けます。
必要なのは「我慢を強いる改革」ではない
看護の現場に必要なのは、
- メンタルケアの充実
- ストレス対処法の研修
だけではありません。
それらは、すでに負荷が限界に達している人に、さらに努力を求める施策になりがちです。
本当に必要なのは、個人の頑張りに依存しない構造改革です。
看護分野に必要な、三つの構造改革
① 判断を「個人」から「組織」に戻す
理不尽な要求への対応は、看護職個人の裁量ではなく、組織の判断として処理する。
そのためには、
- 対応基準の明確化
- 管理職・事務部門の即時介入
- 判断エスカレーションの設計
が不可欠です。
② 境界線を「事前に」示す
ペイハラは、
境界線が曖昧な現場で起こりやすい。
- できること/できないこと
- 業務範囲
- 組織として許容しない行為
を、事後対応ではなく、事前に可視化することで、衝突は大幅に減少します。
③ 管理職を「守る側」に再定義する
看護師長・管理職が「現場と患者の板挟み」になる構造は、ペイハラを助長します。
管理職の役割は、
- 現場を守る
- 組織判断を代行する
- 不当要求を引き取る
ことです。
この役割が明確になることで、現場の安心感は大きく変わります。
構造が変われば、離職は止まる
ペイハラ対策は、人権配慮や福利厚生の話ではありません。
- 人材確保
- 医療の質
- 組織の持続可能性
に直結する、経営課題です。
人手不足とペイハラの連鎖を断ち切れるかどうかは、医療機関が「現場に我慢を強いる組織」なのか、「判断を引き取る組織」なのかにかかっています。
看護の現場を守るとは、判断構造を整えること
看護職を守ることは、優しさや精神論ではありません。
- 判断を個人に押し付けない
- 境界線を組織で引く
- 是正を迅速に行う
この構造があって初めて、人は現場に留まり、専門性を発揮できます。
当社では、看護の現場を「献身に支えられた場所」ではなく、判断が機能する専門組織として再設計する視点から、ペイハラ対策・人材定着・ガバナンス整備を支援しています。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
最新の投稿
- 2026年2月1日知見教授一人に依存しない研究室運営とは―研究の自由を守るための〈分散設計〉
- 2026年1月31日その他の記事大学ガバナンスは機能しているか―不正を生まないための〈構造チェックリスト〉
- 2026年1月30日知見なぜ大学の不正は繰り返されるのか―「個人の問題」に見せかけた、組織構造の盲点
- 2026年1月29日知見ハラスメントの構造的要因―ハラスメントを構造で捉える
