前回の記事では、首長によるハラスメント事案を手がかりに、権力が集中する組織で判断が歪む構造について整理しました。
この記事は、その続編として、民間企業の経営者・組織トップ自身が、自らの立場と権限を点検するためのチェックリストです。
本チェックリストは、「違反していないか」を確認するものではありません。
目的は、権力が集中する立場にあるとき、どのような構造的リスクが生じ得るかを可視化することにあります。
チェックの前提(必ずお読みください)
- Yes / Noで評価するものではありません
- 「自分は大丈夫だ」と確認するためのものではありません
- 答えに迷う項目があれば、
それ自体が重要な検討ポイントです
善意・人格・倫理観の問題ではないという前提で読み進めてください。
Ⅰ.あなたの言動は「判断」として扱われていますか
- あなたの発言は、単なる意見表明なのか、事実上の指示として受け取られていませんか
- 「これは決定ではない」と明示しなければ、現場が判断を止めてしまうことはありませんか
- 感情的な発言が、方針や評価と混同される構造になっていませんか
トップの発言は、本人の意図以上の重みを持ちます。
Ⅱ.あなた自身は「判断される側」に回れていますか
- あなたの言動について、問題提起や修正が行われる正式ルートはありますか
- そのルートは、あなたの直接の指揮命令系統から独立していますか
- 「トップの言動に関する相談」を受け止める仕組みが、実質的に機能していますか
判断する立場にある人ほど、判断されない構造に置かれがちです。
Ⅲ.進言した人が「損をしない」構造ですか
- あなたに異論を述べた人が、評価・配置・昇進で不利にならないと組織は本気で言えますか
- 「あの人は扱いにくい」という評価が、人事判断に影響していませんか
- 進言が「勇気」や「覚悟」を要する行為になっていませんか
進言が勇気を要する組織は、すでに権力が過度に集中しています。
Ⅳ.人事権・評価権は、どこまで集中していますか
- 重要な人事判断が、あなた一人の意向で左右されていませんか
- 評価基準やプロセスは、後から第三者に説明できますか
- 「気に入っている」「信頼している」という感覚が、判断に入り込んでいませんか
権力濫用は、明確な悪意よりも、曖昧な裁量から生じます。
Ⅴ.あなたの行為は「ハラスメントとして判断され得る」構造ですか
- 仮にあなたの言動が問題視された場合、誰が、どの手続で判断しますか
- その判断主体は、あなたと同質的なメンバーで構成されていませんか
- 外部性(社外取締役・外部有識者)は、形式ではなく実質的に関与できますか
トップの行為が判断の対象外になるとき、ハラスメントは構造化します。
Ⅵ.「何も起きていない」ことを、根拠をもって説明できますか
- 相談や通報が少ないことを、「問題がない証拠」と捉えていませんか
- 沈黙が、安心ではなく諦めの結果である可能性を検討していますか
- 定期的に、自分の権限行使がどう受け止められているかを点検していますか
問題が表面化しない組織ほど、構造点検が必要です。
チェックを終えて
このチェックリストを読み、
- 答えに詰まった
- 「これは誰が決めているのか」と考え込んだ
- 人によって答えが分かれそうだと感じた
としたら、それはリスクではなく、統治を見直すべきサインです。
当社の考え方
当社は、経営者や組織トップの問題を人格や倫理の問題として扱いません。
扱うのは、
権力が集中したとき、
判断が歪まない構造になっているか
という点です。
ハラスメントは、「悪いトップ」がいるから起きるのではなく、善意のトップのもとでも起き得る構造的現象です。
最後に
経営者にとって、自らの権限を点検することは、弱さの表明ではありません。
組織を長く健全に保つための、統治上の責任です。
当社では、こうしたチェックを個人の自己反省で終わらせず、組織の判断構造として実装する支援を行っています。
このチェックリストは、その入口にすぎません。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
最新の投稿
- 2026年2月1日知見教授一人に依存しない研究室運営とは―研究の自由を守るための〈分散設計〉
- 2026年1月31日その他の記事大学ガバナンスは機能しているか―不正を生まないための〈構造チェックリスト〉
- 2026年1月30日知見なぜ大学の不正は繰り返されるのか―「個人の問題」に見せかけた、組織構造の盲点
- 2026年1月29日知見ハラスメントの構造的要因―ハラスメントを構造で捉える
