ハラスメントの構造的要因―ハラスメントを構造で捉える

なぜ「問題のある人」がいなくても、問題は起き続けるのか

ハラスメントは、特定の個人の性格や資質の問題として語られがちです。
しかし、実務の現場で起きている事象を丁寧に見ていくと、多くの場合それは、個人の逸脱行動というより、組織の構造と判断様式が生み出した必然的な結果として現れています。

同じ組織で、似たような問題が繰り返される。
行為者が変わっても、構図は変わらない。

この現象を説明できるのが、「構造的要因」という視点です。

本稿では、当社が数多くの事案に関与してきた経験を踏まえ、ハラスメントを道徳や意識の問題ではなく、組織設計・評価設計・意思決定構造・業務設計といった“統治の設計問題”として整理します。

ハラスメント発生構造7つの領域

1|権限・役割設計の歪み

――「止められない人」が生まれる構造

ハラスメントが発生しやすい組織には、共通して権限と役割の設計に歪みが見られます。

  • 意思決定権は強いが、説明責任・牽制が弱い
  • 人事評価・業務配分の裁量が一人に集中している
  • 上位者の言動をチェックする構造が制度上存在しない
  • プレイヤー上がり管理職に、役割転換の設計がない

この構造下では、上位者の言動は修正されにくくなります。
注意や指摘が「個人の勇気」に依存し、結果として、「不適切だが止められない行為」が組織内に蓄積されていきます。

重要なのは、問題を個人のモラルに帰結させないことです。

チェックされない権限は、必ず歪む。
これは性格の問題ではなく、設計の問題です。

2|評価・KPI設計の歪み

――成果が、行動を免罪する構造

短期的成果のみが強く評価される環境では、行動の質・プロセスの適切性が不可視化されます。

  • 結果が出ていれば方法は問われない
  • 威圧・圧迫が「厳しさ」「指導」として正当化される
  • 被害は数値化されず、評価の外に置かれる

この構造では、ハラスメントは「問題行動」ではなく、成果を出すための“副作用”として黙認されがちです。

多くの組織が陥っているのは、成果主義そのものではなく、成果“しか”見えない評価設計です。

評価指標は、行動を規定し、文化をつくる。
ここが歪めば、是正は困難になります。

3|意思決定・報連相の歪み

――「止める声」が上がらない構造

ハラスメントが長期化する組織では、異論や違和感が上に届かない構造が存在します。

  • 不都合な情報ほど上に上がらない
  • 異議を唱えると不利益を被る
  • 相談しても何も変わらない、という学習

この状態では、被害者だけでなく、目撃者や同僚も沈黙を選びます。
結果として、ハラスメントは、「皆が知っているが、誰も止めない問題」として固定化されます。

これは勇気や倫理の欠如ではありません。
声を上げるコストが、構造的に高すぎるのです。

4|ルール・ガバナンスの形骸化

――「制度はあるが、動かない」組織

多くの組織には、ハラスメント規程や相談窓口が存在します。
しかし、実務の現場では次のような状態が頻繁に見られます。

  • 誰が初動対応するのか不明確
  • 調査・是正・再発防止の流れが場当たり
  • 行為者への指導と、構造是正が切断されている

この状態では、制度は抑止力として機能しません
むしろ、「やっても大きな問題にならない」という学習を生みます。

ルールは「あること」ではなく、
「予見可能なかたちで機能すること」が重要です。

5|組織文化・暗黙の規範

――「厳しさ」が免罪される空気

ハラスメントを生む土壌として見過ごされがちなのが、組織文化・暗黙の規範です。

  • 「昔からこういう指導だった」
  • 「成果のためなら多少の犠牲は仕方ない」
  • 「厳しい人だが、結果は出す」

このような言説が共有されている組織では、不適切な関わり方が文化として正当化されます。

文化は自然発生するものではなく、放置された結果として歪むものです。

6|業務設計・負荷構造

――人が荒れやすい設計

慢性的な過重労働、役割過多、常態化した炎上対応。
こうした業務構造そのものが、感情の逸脱を誘発します。

  • 常に時間的余裕がない
  • 責任は重いが、裁量はない
  • 問題が起きても構造的に是正されない

この環境では、個々人の感情調整力に依存した運営になり、結果としてハラスメントが起きやすくなります。

7|人材要件・配置のミスマッチ

――役割と適性が噛み合っていない

最後に、個人要因も無視はできません。
ただしそれは、「人格の問題」ではなく、役割と適性のミスマッチとして現れます。

  • 管理職要件に対人スキルが含まれていない
  • プレイヤー能力のみで昇格している
  • 問題行動が起きても、役割調整・配置見直しの選択肢がない

この状態では、同じ人が別の部署に行っても、同様の問題が再現される構造が温存されます。

ハラスメントは「組織にとって合理的に起きている」

構造的に見ると、ハラスメントは非合理な例外事象ではありません。

  • 権限・役割が歪み
  • 成果のみが評価され
  • 止める声が上がらず
  • ルールが機能せず
  • 文化が免罪し
  • 業務が過酷で
  • 役割と適性が噛み合っていない

この条件が揃えば、ハラスメントは極めて合理的に発生する現象です。

おわりに

――ハラスメントは「起こるべくして起きている」

ハラスメント対策を、個人教育や倫理啓発に限定すると、問題は解決しません。
なぜなら、行動を生み出しているのは、個人よりも構造と判断の枠組みだからです。

実効性ある対策のためには、

  • 権限・役割設計の再構築
  • 評価指標と判断基準の見直し
  • 異論・違和感が上がる報連相構造
  • ルール・対応フローの実装
  • 文化の言語化と更新
  • 業務設計の是正
  • 役割と適性の再設計

といった、組織統治の再設計が不可欠です。

ハラスメントは「起こるべくして起きている」。
その前提に立ち、構造を直すこと。
それこそが、再発防止を“実装”する唯一の道です。

当社では、ハラスメントを、「問題行動への対処」ではなく、判断が誤られにくい組織構造をつくる経営課題として捉え、調査・個別指導・ガバナンス実装まで一貫して支援しています。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。