――なぜ「問題のある人」がいなくても、問題は起き続けるのか
ハラスメントは、特定の個人の性格や資質の問題として語られがちです。
しかし、実務の現場で起きている事象を丁寧に見ていくと、多くの場合それは、個人の逸脱行動というより、組織の構造と判断様式が生み出した必然的な結果として現れています。
同じ組織で、
似たような問題が繰り返される。
行為者が変わっても、構図は変わらない。
この現象を説明できるのが、「構造的要因」という視点です。
本稿では、当社が数多くの事案に関与してきた経験を踏まえ、ハラスメントを道徳や意識の問題ではなく、組織設計と判断の問題として整理します。
1. 権限と責任の非対称構造
――「止められない人」が生まれる設計
ハラスメントが発生しやすい組織には、共通して権限と責任の配置に歪みが見られます。
- 意思決定権はあるが、説明責任が弱い
- 人事評価・業務配分の裁量が一人に集中している
- 監督・牽制機能が名目化している
この構造下では、上位者の言動は修正されにくくなります。
注意や指摘が「個人の勇気」に依存し、結果として 「不適切だが止められない行為」 が蓄積されていきます。
ここで重要なのは、問題を個人のモラルに帰結させないことです。
チェックされない権限は、必ず歪む。
これは性格の問題ではなく、設計の問題です。
2. 成果至上主義と「判断プロセス」の不可視化
――結果が、行動を免罪する構造
短期的成果のみが強く評価される環境では、プロセスや行動の質が見えなくなります。
- 結果が出ていれば方法は問われない
- 威圧・圧迫が「厳しさ」「指導」として正当化される
- 被害は数値化されず、評価の外に置かれる
この構造では、ハラスメントは、「問題行動」ではなく、成果を出すための副作用として黙認されがちです。
当社が実務で感じるのは、多くの組織が「成果主義」そのものではなく、成果しか見えない評価設計に陥っているという点です。
評価指標は、行動を規定し、文化をつくります。
ここが歪めば、是正は困難になります。
3. 暗黙の同調圧力と沈黙の合理性
――「声を上げない方が得」になる組織
多くの組織では、ハラスメントを指摘しないことが極めて合理的な選択になっています。
- 異議を唱えると不利益を被る
- 通報しても改善されないという学習
- 周囲が黙っているため、正当性を失う
この状態では、被害者だけでなく、目撃者や同僚も沈黙を選びます。
結果として、ハラスメントは、「皆が知っているが、誰も止めない問題」として固定化されます。
これは勇気や倫理の欠如ではありません。
声を上げるコストが、構造的に高すぎるのです。
4. 役割不明確と責任の拡散
――判断が宙に浮く組織
ハラスメント対応において、次のような状態にある組織は少なくありません。
- 誰が初動対応するのか分からない
- 管理職・人事・経営の境界が曖昧
- 判断基準が属人的で、前例依存
この環境では、「誰かがやるだろう」という期待だけが共有され、実際には誰も判断しません。
結果として、対応は遅れ、被害は拡大し、後から感情的・過剰な是正が行われます。
必要なのは、善意ある誰かに依存しない判断構造です。
5. ハラスメントは「組織にとって合理的に起きている」
構造的に見ると、ハラスメントは、非合理な例外事象ではありません。
むしろ、
- 権限が集中し
- 成果のみが評価され
- 声を上げるリスクが高く
- 責任が分散している
この条件が揃った組織では、極めて合理的に発生する現象です。
ここを直視せずに、「教育」「意識改革」だけで対処しようとすれば、同じ問題は必ず形を変えて再発します。
おわりに
――ハラスメントは「起こるべくして起きている」
ハラスメント対策を、個人教育や倫理啓発に限定すると、問題は解決しません。
なぜなら、行動を生み出しているのは、個人よりも構造と判断の枠組みだからです。
実効性ある対策のためには、
- 権限と責任の再設計
- 評価指標と判断基準の見直し
- 声を上げても損をしない制度
- 初動・是正・再発防止の役割明確化
といった、組織統治の再設計が不可欠です。
ハラスメントは「起こるべくして起きている」。
その前提に立ち、構造を直すこと。
それこそが、再発防止を実装する唯一の道です。
当社では、ハラスメントを、
「問題行動への対処」ではなく、
判断が誤られにくい組織構造をつくる課題として捉え、
調査・個別指導・ガバナンス実装を支援しています。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
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