感情は止められないが、“暴走しない構造”は設計できる―ハラスメント行為者向け個別指導研修で私たちが一貫している立場

「人は感情の生き物。構造論では解決しない」という声は根強くあります。しかし実務で数多くのハラスメント事案に関与してきた立場から断言します。感情そのものは制御しにくいが、感情が暴走しづらい“条件”は構造で設計できる
重要なのは、感情を消すことではありません。感情が出ても壊れない環境をつくることです。構造は冷たい理屈ではなく、判断の緩衝材です。これが、当社の行為者向け個別指導研修における中核思想です。

「感情論 vs 構造論」という誤解

ハラスメント対策や行為者研修の現場では、次のように語られがちです。

  • 「結局は性格の問題」
  • 「アンガーマネジメントを学べばいい」
  • 「感情をコントロールできない人は変わらない」

確かに、苛立ち・焦り・不安・反発といった感情は瞬間的に生じます。「感じないようにする」ことは現実的ではありません。

しかしここで誤解があります。
感情そのものと、感情が強く噴出する“環境条件”は別問題です。

多くのハラスメントは、次のような状況で発生します。

  • 判断基準が曖昧
  • 即答を求められる
  • 業務が集中している
  • 自分しか分からない状態
  • 相手が思うように動かない

これは性格の問題ではなく、構造の問題です。

なぜ同じ人が繰り返すのか

ここで重要なのが「構造」です。

感情が爆発する典型的な回路は、次のように単線化しています。

抱え込み → 焦り → 強い口調

この回路には緩衝材がありません。
判断・共有・期限・役割分担といった中間工程が存在しないため、感情がそのまま言動に直結します。

構造を入れるとは何か

たとえば、次のような設計です。

  • 未完成でも一旦渡す
  • 判断期限を明示する
  • 役割・工程で分担する
  • 迷いを共有する

これらが定着すると、

  • 業務が滞留しない
  • 不安が減る
  • 予測可能性が高まる
  • 「突然」が減る

結果として、感情のピークが下がるのです。

重要なのは、感情がゼロになるわけではないという点です。
しかし、

  • 爆発しにくくなる
  • 持続しにくくなる
  • 言葉になる前に止めやすくなる

という変化が生じます。

構造は、感情を消すためのものではありません。
感情が出ても壊れないための土台です。

実務で見える共通パターン

多くの企業で共通しているのは、「本人は悪意がない」という事実です。

ヒアリングでよく聞く言葉はこうです。

  • 「急いでいただけ」
  • 「自分がやった方が早いと思った」
  • 「何度言っても直らないから強く言った」

ここで共通するのは、抱え込み構造です。

  • 権限が曖昧
  • 判断基準が言語化されていない
  • 中間報告の文化がない
  • 完璧主義が評価される

この環境では、能力が高い人ほど抱え込み、焦り、強く出ます。
再発防止策の議論で最も多いのは「気をつける」「意識を変える」という抽象論です。しかし、それでは再発します。

行為者個別指導で効果が出るのは、行動の前段に構造を入れたときです。

何から始めるか

抽象論で終わらせません。実装は次の3ステップです。

Step1|感情が強く出る“条件”の特定

  • どの場面で声が強くなるか
  • どの工程で滞留が起きるか
  • 判断が曖昧な箇所はどこか

Step2|緩衝材の設計

  • 中間共有ルール
  • 判断期限の明示
  • 役割と責任の明確化
  • 完成度基準の再定義(60%提出など)

Step3|行動の定着確認

  • 1on1での振り返り
  • 定例会での迷い共有
  • 強い言動が出る前の兆候確認

判断者は本人だけではありません。
上長・人事・経営が関与し、評価制度や役割定義と接続させることが不可欠です。

組織ガバナンスとの接続

これは個人の問題ではありません。

  • 役職定義
  • 評価制度
  • 意思決定フロー
  • 情報共有設計

これらが曖昧なままでは、感情は再び暴発します。
構造を整えることは、心理的安全性向上だけでなく、不正予防・内部統制・人的資本経営にも接続します。

判断の質を上げることが、感情の振れ幅を下げる。
この接続こそが統治の本質です。

感情は否定しない。
ただし、感情に振り回されない環境は設計できる。

構造は冷たい理屈ではありません。
それは、組織が壊れないための静かな土台です。


Q&A

Q1. ハラスメントは結局、性格の問題ではないのですか?
性格要素はあります。しかし再発を左右するのは、感情が強く出る環境条件です。そこは設計可能です。

Q2. アンガーマネジメント研修だけでは不十分ですか?
単発研修だけでは環境が変わらないため、再発率は高い傾向にあります。構造設計と併用することが現実的です。

Q3. 行為者本人が納得しない場合はどうしますか?
感情を否定せず、「条件」に焦点を当てると対話が成立しやすくなります。責める構図ではなく、設計の議論に移します。すると、大きく頷きます。

Q4. 管理職全体に応用できますか?
可能です。特に中間管理職の抱え込み構造は、組織横断で共通しています。


ハラスメント・不正再発防止

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。