なぜ政治や組織のトップの判断は歪むのか─「個人の失敗」ではなく「統治構造」の問題

政治や巨大組織のトップの判断が「不可解」に見えるとき、多くは個人の資質や倫理観に原因を求めがちです。しかし実態は、トップという役割に固有の判断環境の歪みにあります。情報は加工され、異論は希薄化し、判断負荷は過剰化し、政治合理性と倫理合理性が混線する。これは政治特有の現象ではなく、企業・大学・医療機関でも繰り返されています。本質は個人の問題ではなく、統治構造の設計不全です。トップを「優れた人格」に依存させるのではなく、誤りにくくする構造を埋め込むことが、組織の持続性を左右します。

首相の判断は、なぜ合理的に誤るのか

外から見ると不可解な政治判断も、当事者の意思決定環境を分解すると、一定の合理性のもとで誤っていることが分かります。

  • 情報の歪み
    不利な情報ほど加工され、深刻度が丸められる
  • 反対意見の希薄化
    権力勾配により異論が消える
  • 判断負荷の過剰
    同時多発案件により検証余白がない
  • 政治合理性と倫理合理性の混線
    支持率・派閥・短期安定が長期信頼に優越する

この状況下では、トップは「与えられた前提の中で最適化」しているに過ぎません。
問題は人格ではなく、判断前提の構造です。

政治だけではない、伝統的組織にもある歪み

同様の構造は、伝統的大企業、大学法人、医療機関などでも頻出します。

  • 情報が上に行くほどマイルド化
  • 異論を唱える人が周縁化
  • 成功体験による過信
  • 不祥事対応・倫理判断が後手化

結果として、トップは「安全に見える世界」を前提に判断してしまいます。
これは能力不足ではなく、認知環境の閉鎖性です。

なぜ歪みは繰り返されるのか──統治構造の問題

ここで重要なのが「構造」です。

現場リスク
   ↓(編集)
中間管理層
   ↓(忖度・配慮)
トップ資料
   ↓
トップ判断

歪みはこの過程で発生します。

  • 権限は集中
  • 責任も集中
  • しかし検証機能は分散

この権限・責任・検証機能の接続不全という構造が、合理的誤謬を生みます。

トップを疑う文化がない組織では、トップが誤った瞬間、組織全体が同時に誤ります。

実務で観察されるパターン

多くの企業では、不祥事発生後に次のような反省が出ます。

  • 「あの時止められたはずだった」
  • 「違和感はあった」
  • 「説明可能性を詰めていなかった」

再発防止策の議論で最も多いのは、「教育不足」や「倫理意識の向上」です。
しかし実際には、問題は意思決定プロセスの未設計にあります。

トップに上がる前に、

  • 社会的評価リスク
  • 説明責任可能性
  • 最悪シナリオ

を構造的に整理していなかった、というケースが大半です。

劣化適応型の統治設計という現実解

巨大組織や伝統的組織において、党全体・会社全体・大学全体のガバナンス構造を変えるのは、ほぼ不可能に近い。
様々な政治や利害が絡むため、多少は前進しても完走しないまま終わります。
一方で、トップの直近にある意思決定プロセスには、比較的手を入れやすいです。

事故りやすい領域だけ構造化する

  • 政治資金・利益相反
  • ハラスメント・不正
  • 外部説明を伴う不祥事

ここだけは直感判断を禁止し、説明可能性レビューを必須化します。

トップ周辺プロセスのみ設計する

  • 判断前レビューシート導入
  • 想定批判・最悪シナリオの明示
  • 代替案比較の義務化

全体改革ではなく、社長室/官邸運営の作法を変える発想です。

ルールではなく慣行として埋め込む

  • リスク論点メモ添付を常態化
  • 初動対応で三点整理(法的・社会的・説明可能性)
  • 賛成案と同時に不採択案のリスク提示

制度化よりも、オペレーションの静かな変化の方が定着します。

意思決定・人的資本・再発防止との関係

この論点は単独テーマではありません。

  • CEO意思決定枠組み
  • ハラスメント再発防止策設計
  • 内部通報制度の実効性
  • 人的資本モニタリング

いずれも共通するのは、トップ判断を補正する構造を持つかどうかです。

ガバナンスとは、倫理の問題ではなく、設計の問題です。


Q&A

Q1. 優秀なトップなら構造は不要では?

不要ではありません。
優秀であるほど、情報の偏りに気づきにくくなります。構造は人格を補完するものです。

Q2. 異論を言える文化を作れば十分では?

文化は重要ですが、文化は揺らぎます。
プロセス設計がなければ持続しません。

Q3. 全面改革は必要ありませんか?

硬直組織では全面改革は反発を招きます。
事故領域限定の構造設計が現実的です。

Q4. 企業にも政治と同じ歪みがありますか?

あります。
特に長期在任トップや成功体験の強い組織で顕著です。


結論

トップの判断が歪むのは、
個人の失敗ではなく、統治構造の問題です。

優れた人物を探すよりも、トップの判断を合理的に疑い、補正する構造を持つこと

それが、政治でも企業でも、組織の信頼を守る唯一の方法です。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。