カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化とは、顧客や取引先による暴言・威圧・過剰要求などから従業員を守るため、企業に具体的な防止措置を講じることが求められる法的枠組みを指します。近年、労働施策総合推進法の改正議論を背景に、企業の安全配慮義務および職場環境配慮義務の一環として、相談体制整備・方針明確化・対応手順策定などの実務対応が強く求められる局面に入っています。これは単なる接客マナーの問題ではなく、企業の統治責任とリスク管理の問題です。
近年、顧客や取引先からの不当な要求や暴言、過度なクレーム対応が、現場の負担や離職要因として顕在化しています。
いわゆる「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」は、個々の従業員の対応力の問題ではなく、企業の業務設計・マネジメント・責任分担のあり方が問われる経営課題です。
2026年に向けた法改正・指針の整備は、企業に対し、「現場の善意に依存した対応」から「構造としての対応」への転換を求めています。
本稿では、カスハラの基本的な定義と背景、そして企業に何が求められつつあるのかを、全体像として整理します。
カスハラとは何か
カスハラとは、顧客・利用者・取引先などが、企業や従業員に対して行う、社会通念を逸脱した不当な要求、威圧的言動、継続的な迷惑行為等を指します。
重要なのは、「クレーム」や「正当な苦情」とは本質的に異なる点です。
- 正当なクレーム:商品・サービスの品質や対応に関する合理的な改善要求
- カスハラ:要求内容や手段が社会的相当性を欠き、従業員の尊厳・安全・就労環境を侵害する行為
この線引きが組織として明確になっていない場合、現場は「顧客対応の一環」として不当な行為を受け入れ続ける構造に置かれます。
なぜ今、企業責任として整理されているのか
カスハラが社会的・制度的な論点として扱われる背景には、次の構造変化があります。
- サービス業・対人業務の高度化
顧客接点の複雑化により、対応の裁量が現場に集中している - 人材確保の困難化
不当対応が常態化する職場は、採用・定着の面で競争力を失う - ハラスメント概念の拡張
職場内のみならず、職場外の第三者行為も「労働環境リスク」として認識されるようになった
これにより、カスハラは、「現場のストレス問題」ではなく、企業が適切な労働環境を提供しているかという経営責任の問題として位置づけられています。
2026年に向けた法改正・指針の方向性
詳細な制度設計は今後の整理を要しますが、方向性としては一貫しています。
- 企業に対し、カスハラを想定した予防・対応体制の整備を求める
- 従業員に対する安全配慮義務の一環として、第三者からのハラスメントへの対応を明示的に位置づける
- 事後対応だけでなく、方針の明文化、相談体制、現場支援の仕組みの整備を求める
重要なのは、法改正の趣旨が「個別トラブルへの対症療法」ではなく、組織としての備えを標準化することにある点です。
企業に求められる視点の転換
カスハラ対応において、多くの企業が陥りやすいのは、「現場に任せる」「個別事案として処理する」運用です。
しかし、これでは次のような構造的問題が温存されます。
- 対応基準が属人的になり、現場ごとにばらつく
- 管理職が「顧客優先」を理由に、従業員保護を後回しにする
- 不当要求を断る判断が、現場のリスクとして押し付けられる
これから求められるのは、誰が、どこまで判断し、どの段階で組織として介入するのかを明確にしたガバナンス設計です。
「カスハラ対策義務化」に関するQ&A-よくある質問
Q1. カスハラ対策は法的義務になりますか?
法改正の動向により、企業に防止措置を講じることが明確に求められる方向で整理が進んでいます。既に安全配慮義務や職場環境配慮義務の観点から、実質的な対応は不可避と考えられます。
Q2. いつから義務化されますか?
改正法の施行時期は今後の国会審議等により確定しますが、準備期間を考慮すると、企業は早期に体制整備に着手することが望ましい状況です。
Q3. 企業は具体的に何をすればよいですか?
一般に求められるのは以下の措置です。
- カスハラ防止方針の明文化
- 相談窓口の設置
- 対応マニュアル整備
- 管理職・従業員への教育
- 発生時の記録・再発防止策の実施
重要なのは「個別対応」ではなく、組織としての判断基準を設計することです。
Q4. 中小企業も対象になりますか?
原則として企業規模を問わず対象となります。むしろ体制が未整備な企業ほど、現場任せの対応によりリスクが顕在化しやすい傾向があります。
Q5. 罰則はありますか?
行政指導や勧告の対象となる可能性があります。また、適切な対応を怠った場合、労災認定や安全配慮義務違反として民事責任を問われるリスクもあります。
Q6. 正当なクレームとの違いは何ですか?
業務の範囲内で合理的に行われる苦情は正当なクレームですが、暴言・威圧・人格否定・過度な要求など、社会通念上相当性を欠く行為はカスハラに該当します。線引きには明確な基準設計が必要です。
Q7. 対応を誤るとどのようなリスクがありますか?
従業員の離職、メンタル不調、労災申請、レピュテーション毀損など、経営リスクに直結します。属人的判断に依存すると問題が拡大しやすいのが特徴です。
まとめ:対応の成否は“構造設計”で決まる
カスハラ対策は、単に「従業員を守る」ための施策ではありません。
それは、企業がどのような業務設計と意思決定構造を持つ組織なのかを示す、経営の姿勢そのものです。
2026年に向けた制度整備の流れを、“新たな負担”として受け止めるのではなく、持続可能な現場運営を実装する機会として活用できるか。
そこに、企業の中長期的な競争力が表れます。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
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