2026年を中心に、日本の労働・雇用関連法制では、働き方や職場環境に関する制度見直しが相次いで検討・実施されています。
従業員の働き方と安全配慮を強化し、企業の雇用管理責任や情報開示の在り方を見直す動きが重なっており、経営者・人事担当者には、制度整備と運用対応を前提とした“雇用管理のアップデート”が求められる局面に入っています。
本稿では、2026年に向けた主な制度動向を、ハラスメント/労働時間・過労防止/多様な働き方・情報開示の観点から整理し、企業が今、どのような視点で備えるべきかを俯瞰します。
1.ハラスメント対応の強化
――「個別対応」から「組織の責任」へ
職場におけるハラスメント対策は、これまで主に社内のパワハラ・セクハラ対応を中心に整備が進められてきました。しかし近年は、社外からの不当な言動(カスハラ)や、採用・選考過程におけるハラスメント(就活セクハラ)といった、企業の統治姿勢が対外的にも問われる領域へと論点が拡張しています。
制度見直しの方向性としては、次の点が重なっています。
- カスタマーハラスメントへの対応を、企業の雇用管理上の責任として整理
- 求職者・インターン等、雇用関係に入る前の段階におけるハラスメントへの対応責任の明確化
- ハラスメントの相談・通報を行った者に対する不利益取扱いの抑止・実効性の強化
これらは、単に「ルールを整える」というレベルの話ではありません。
企業として、どのような判断基準で“守る/許容しない”を線引きし、その判断を現場と経営で再現できる構造になっているかが問われるテーマです。
2.長時間労働・過労防止
――「時間管理」から「業務設計・マネジメント責務」へ
長時間労働の是正や過労防止については、従来から時間外労働の上限規制などが設けられてきました。一方で、近年は、次の論点が浮上しています。
- 連続勤務の抑制
- 終業から翌日の始業までの休息時間(勤務間インターバル)の確保
- 勤務時間外の連絡・対応の在り方(いわゆる「つながらない権利」の考え方)
これらは、いずれも「個々人の自己管理」に委ねるだけでは実効性が担保されにくいテーマです。
実務上の本質は、業務量の設計、納期設定、進捗管理、管理職のマネジメント責務にあります。
- 業務は時間内完結を前提に設計されているか
- 管理職は、部下の労務管理・業務設計に責任を持つ構造になっているか
- 時間外対応を前提とした評価・期待が暗黙に組み込まれていないか
制度見直しの動きは、こうした組織の設計思想そのものの見直しを企業に迫るものと位置づけられます。
3.多様な働き方・情報開示
――「配慮」から「説明責任」へ
女性活躍推進や育児・介護との両立支援に関しては、制度上の枠組みが段階的に強化されてきました。2026年に向けた動きとしては、次のような方向性が重なっています。
- 男女間賃金差異や女性管理職比率など、人的資本に関する情報開示の拡充
- 育児・介護期における柔軟な働き方の選択肢提示に関する事業主の対応責任の強化
これらは、「配慮しているかどうか」ではなく、
企業としてどのような設計思想を持ち、どのような結果を出しているかを説明できるかという、ガバナンスの問題に直結します。
人的資本の情報開示は、単なる広報対応ではなく、
評価制度、配置、育成、管理職の役割定義といった内部の設計が整っていなければ説明不能なテーマです。
4.2026年の法改正が企業に突きつける本質的な問い
これらの制度動向に共通しているのは、次の点です。
- 形式的な制度整備では不十分
- 個別事案対応では限界がある
- 組織としての判断構造・責任構造が問われている
すなわち、2026年に向けた法改正・制度見直しは、企業に対して次の問いを突きつけています。
- 正しい判断が、属人的ではなく再現可能な形で行われる構造になっているか
- 管理職の責務は、役割として定義され、運用に落ちているか
- ハラスメント、労働時間、働き方の問題を、経営課題として統合的に扱えているか
5.法改正対応を「統治の更新」へ
法改正は、しばしば「新たな義務への対応」として受け止められがちです。
しかし実務の視点で見れば、2026年に向けた一連の制度見直しは、これまで曖昧にされてきた組織の判断構造・責任構造を見直す機会でもあります。
- ハラスメント対応を、属人的対応からガバナンスの問題へ
- 長時間労働対策を、時間管理から業務設計・マネジメントの問題へ
- 多様な働き方を、配慮の話から説明責任・統治の問題へ
法改正への「対応」を起点に、組織ガバナンスのアップデートへと転換できるかどうかが、これからの企業の競争力・持続性を左右する分水嶺になります。
まとめ
2026年に向けた法改正・制度見直しは、ハラスメント、長時間労働、働き方、人的資本開示といった個別テーマを通じて、企業の雇用管理と組織ガバナンスの在り方そのものを問い直す流れにあります。
制度対応に追われるのではなく、法改正を契機として、
- 判断基準
- 役割定義
- 運用構造
を見直し、正しい判断が必然となる組織構造を実装できるか。
それこそが、2026年に向けて企業に求められている本質的な課題です。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
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