ハラスメント事案が発生したとき、経営者や人事担当者が最も悩むのは次の二点です。
- 再発防止策として何をすれば「足りる」と言えるのか
- どこまで実施すれば、社内外に対して説明可能(accountability)になるのか
形式的な懲戒処分や謝罪文の公表だけでは、この問いに答えたことにはなりません。
なぜなら、外部ステークホルダーが問うのは「罰したかどうか」ではなく、「なぜ起き、どう変わったのか」だからです。
「懲戒」と「再発防止」は別の論点
多くの組織で混同されがちなのが、懲戒処分と再発防止策です。
懲戒は、
- 就業規則との整合
- 懲戒処分との均衡
- 役職解除・降格基準との整合
といった法的・制度的な妥当性が問われます。
一方、再発防止は、
- 善管注意義務
- 監督義務違反の有無
- 職務専念義務との関係
- 取締役責任・理事会説明責任
といった、経営責任レベルの論点に接続します。
つまり、処分を決めただけでは、説明責任は果たせないのです。
説明可能になるための三つの整理軸
外部に対して説明可能な再発防止策には、少なくとも次の三段階の整理が必要です。
1.評価基準の明確化
何が問題と評価されたのかを、事実と評価軸に切り分けて整理する。
- 事実:何が起きたのか
- 評価軸:なぜそれが問題と判断されたのか
ここが曖昧だと、「不快だったから問題」「時代に合わないから問題」という主観的説明になり、労働審判や訴訟リスクに耐えられません。
2.判断構造の分析
なぜその判断に至ったのかを分解する。
- 前提となっていた価値観
- 無自覚な裁量認識
- 信頼関係への過度な依存
- 役職責任の誤認
人格の問題に還元せず、判断の構造として整理することが不可欠です。
ここを言語化できなければ、理事会や取締役会、あるいは教授会の場で論理的に説明することはできません。高度な立場にある者ほど、感情論ではなく論理で応答します。
3.行動設計の具体化
次に同様の場面でどう判断し、どう振る舞うのか。
- 境界線の再定義
- 代替行動の具体化
- 相談経路の明確化
- 権限と責任の再確認
抽象的な「気をつけます」では、再発可能性は残ります。
行動レベルに落とし込まれて初めて、再発防止策と呼べます。
「癒やし」だけでは足りない理由
行為者の中には、心理的な疲弊や孤立を抱えている者もいます。一定のケアは有効です。
しかし、
- 判断基準を論理的に理解していない
- 自身の裁量の限界を認識していない
- 役職責任と私的関係を混同している
状態のままでは、再発リスクは下がりません。
さらに重要なのは、癒やし中心の対応は説明可能性を弱めるという点です。
外部ステークホルダーは問います。
- なぜその行為が問題だったのか
- どの判断が誤っていたのか
- 組織として何を修正したのか
ここに論理的な回答がなければ、説明は感情論に見え、信頼は回復しません。
再発防止が「足りる」と言える条件
再発防止策が十分と評価されるためには、少なくとも以下が整理されている必要があります。
- 問題行為の評価基準が明確
- 判断構造の誤りが言語化されている
- 具体的な代替行動が設計されている
- 懲戒との均衡が説明できる
- 役職責任との関係が整理されている
- 理事会・取締役会で説明可能
- 労働審判・訴訟に耐えうる論理構造を持つ
ここまで到達して初めて、「やるべきことはやった」と言えます。
結論――再発防止とは「判断の修正」である
ハラスメントは、人格の逸脱ではなく、判断の逸脱として現れることが多いものです。
- 境界線の認識不足
- 信頼関係への依存
- 権限の過大評価
- 役職責任の誤解
これらを構造的に修正しない限り、再発可能性は残ります。
そして、再発可能性が残る限り、説明可能性も確立しません。
再発防止とは、処分を決めることでも、反省文を書くことでもなく、
判断基準を論理的に再構築し、行動として再設計することです。
そこまで踏み込めたとき、企業は初めて、社内外に対して胸を張って説明できる状態に至ります。
ケンズプロの【ハラスメント行為者個別指導研修プログラム】をご参照ください。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
最新の投稿
- 2026年2月16日知見2026年法改正に備える。カスハラ対策チェックリスト(企業向け)
- 2026年2月15日知見カスハラ対策義務化、企業は何をすればいい?―法改正対応の実務ポイント
- 2026年2月14日知見カスハラ対策義務化とは?2026年の法改正で企業に何が求められるのか
- 2026年2月13日再発防止策不正とパワハラ―不正のある組織では、なぜパワハラ「も」起きるのか
