年度末から新年度にかけて、多くの企業で人事部が極端に疲弊します。しかし実務の現場を見ていると、これは単なる業務量の問題ではありません。毎年同じ時期に炎上する組織には、共通する構造欠陥があります。
役割設計の曖昧さ、意思決定プロセスの不透明さ、管理職機能の未実装――これらが重なったとき、人事は“最後の受け皿”として崩れます。本稿では、人事繁忙期を「統治設計」の視点から再定義し、詰まらない体制への転換点を示します。
毎年この時期に人事が崩れる組織の共通構造
単に「忙しい」のではありません。
毎年この時期に人事が疲弊・混乱・炎上する組織には、ほぼ例外なく構造的な欠陥があります。
1. 役割設計が曖昧(人事が“何でも屋”になっている)
人事部の役割が際限なく拡張しています。
- 制度設計
- オペレーション
- 調整役
- 苦情処理窓口
- 経営の代理交渉
本来は分離されるべき機能が一体化し、「それ、人事がやることか?」という業務まで吸収している状態です。
⇒結果
人事が“最後の受け皿”として組織の機能不全を吸収する構造になります。
繁忙期になると、それまで蓄積していた歪みが一気に顕在化し、破綻します。
2. 評価・異動・配置の意思決定がブラックボックス
- 昇進・異動の根拠が不透明
- 「結局、社長の一声」
- 方針変更が直前に発生
この状態では、人事は制度運用者ではなく、経営判断の翻訳係になります。
⇒結果
人事が、経営判断の“説明係”兼“矢面”となり、現場の不満・反発・不信を一手に引き受けます。
構造上、信頼が毀損しやすいポジションに置かれているのです。
3. 管理職に人のマネジメント機能が実装されていない
- 面談が形式的
- 評価コメントが形骸化
- 部下対応を人事に丸投げ
- トラブルは「人事へ相談」
これは能力の問題ではなく、役割設計の問題です。
管理職に初動責任が明確に設計されていない組織では、摩擦は必ず人事へ集中します。
⇒結果
本来は現場で吸収されるべき摩擦が、繁忙期に雪崩れ込む。
4. 人事部内の権限設計が未整理
- 誰がどこまで決めてよいか曖昧
- 課長・部長の決裁待ちがボトルネック
- ベテラン依存の属人運用
この状態では、処理能力は個人依存となり、繁忙期に即座に飽和します。
⇒結果
意思決定が詰まり、オペレーションが連鎖的に滞る。
5. 「未事案化ゾーン」を放置している
- 評価前からくすぶっていた不満
- 上司部下の関係悪化
- 空気の停滞
これらは平時には表面化しません。しかし年度切替という“イベント”がトリガーになり、潜在不和が一気に顕在化します。
⇒結果
潜在摩擦が人事案件として爆発する。
繁忙期でも燃え尽きにくい人事体制の設計
ポイントは、「頑張ること」ではなく、構造を置き直すことです。
人事の役割を三層に分離する
① 制度・設計レイヤー(戦略人事)
- 評価制度設計
- 等級制度設計
- 配置ポリシー設計
- 経営接続責任
② オペレーションレイヤー(実装人事)
- 異動手続き
- 入退社処理
- 評価運用
③ 関係調整レイヤー(摩擦対応)
- 初動整理
- 相談一次受け
⇒分離しなければ、設計者が雑務に埋没し、戦略機能が停止します。
説明責任を人事から切り離す
- 人事は“設計者・監査者”
- 説明責任は“ライン長”
⇒人事が説明係になる構造は、必ず燃え尽きと不信を生みます。
管理職に初動責任を設計する
最低限、管理職に課すべき責務。
- 異動・評価の事前説明
- 感情ケアの一次対応
- 不満の初期吸収
- 整理後のエスカレーション
⇒これを明確化しない限り、人事は“感情のゴミ箱”になります。
繁忙期専用の臨時設計を置く
- 受付窓口の一元化
- 保留ルール明文化
- 一時的な権限委譲
- 優先順位の事前合意
⇒繁忙期は、平時と同じ運用をしてはいけません。
臨時設計を持つ組織は詰まりません。
人事トップに判断の壁打ち役を置く
最も燃え尽きやすいのは、人事部長・CHRO層です。
- 経営意向の整理
- 現場反発の妥当性評価
- 判断の構造レビュー
⇒これを一人で抱えさせると、人事トップが孤立し、組織判断が歪みます。
実務的チェックリスト
- 人事の役割は明文化されているか
- 説明責任の所在は明確か
- 管理職の初動責任は制度化されているか
- 繁忙期専用の臨時運用はあるか
- 人事トップに構造レビュー機能はあるか
まとめ
この時期に人事が毎年疲弊している組織は、忙しさの問題ではなく、統治設計の問題です。
構造を置き直せば、業務量が同じでも消耗度は劇的に変わります。
人事を“消耗部門”にするか、“統治基盤”にするかは、設計次第です。
投稿者
- ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。
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