人事部長の悩みは「人材が育たない」ことではありません。本質は、経営の理想と現場の行動が接続されていないという“構造的断絶”にあります。ガバナンスの形式は整っているのに、自律的に動く次世代リーダーが見えない――それは育成不足ではなく、判断基準が設計されていないからです。強い組織とは、優秀な人材がいる組織ではなく、正しい判断が現場で必然的に選ばれる組織です。人材育成の前に、判断の構造を整える必要があります。
人事部長が直面する「育たない問題」
「人材育成がうまくいかない」「次世代リーダーが育たない」「管理職が変革に消極的」。
多くの企業で、人事部長の悩みはこの言葉で語られます。
一般的な対策は以下です。
- 研修を増やす
- タレントマネジメントを高度化する
- 評価制度を見直す
- サクセッションプランを策定する
しかし、これらはしばしば“施策の追加”にとどまります。
ガバナンス体制を整備しても、委員会や規程が増えても、現場の判断は属人的なままというケースは少なくありません。
「世界で戦える組織」「自律型人材」という抽象語が、行動規範やリスク判断の基準に落ちていない。
ここに、表層的対策の限界があります。
三層の断絶という構造
この問題は、偶発的ではありません。繰り返されるのは“構造”があるからです。
① 経営の言語と現場の行動の断絶
- 経営:世界で戦える組織
- 現場:前例踏襲・無難な運営
抽象スローガンが、
「どの判断を任せるのか」
「どこまでリスクを取るのか」
に翻訳されていない。
理想が、判断基準に変換されていない構造。
② 形式的ガバナンスと実質的判断の断絶
- 規程は整備済み
- 委員会も設置済み
- 評価項目も存在
それでも、
- 若手に任せるかどうかの基準
- 管理職が挑戦するか否かの線引き
- 失敗をどう扱うかの判断
は属人的。
監督の枠はあるが、自律を促す枠になっていない構造。
③ 次世代リーダーの未定義という断絶
- 何をもって次世代なのか
- どの判断を任せられたら一人前か
- 何をもって経営目線と言うのか
評価制度以前に、“可視化の軸”が存在しない。
育成以前に、定義がない構造。
実務で繰り返されるパターン
多くの企業で、以下の状況が見られます。
- 管理職が「どこまで踏み込むと越権か分からない」と動かない
- ハラスメントや不正の兆候を察知しても、判断を上に上げ続ける
- 若手に裁量を与えたいが、失敗時の責任所在が曖昧
再発防止策の議論でも最も多いのは、「ルールはあるが、運用基準が曖昧」という指摘です。
ヒアリングで浮かぶ本質は、能力不足ではありません。
判断委譲の設計不全です。
人材育成ではなく、意思決定とガバナンスの実装問題
当社はこの課題を、人材育成の問題として扱いません。
意思決定とガバナンスの実装問題として扱います。
強い組織とは、
- 優秀な人材が多い組織ではない
- 正しい判断が、現場で必然的に選ばれる組織
です。
実装ステップ
- 経営の理想を判断要件へ分解
- 管理職の裁量範囲を明文化
- 任せている判断レベルでリーダーを可視化
具体的には、
- どの階層にどのリスクを委譲するか定義
- 任せる判断/上げる判断を線引き
- 失敗の許容範囲を明示
- 事案対応を次世代管理職の訓練機会に転換
ガバナンスを「縛る枠」から「育成装置」へ再設計します。
人的資本・不正対応・企業価値との関係
この構造問題は、人的資本経営とも直結します。
- リーダー可視化はサクセッションの前提
- 判断委譲設計は内部統制の中核
- ハラスメント・不正対応は管理職育成の実践教材
人的資本開示で問われるのは、「育成施策」ではなく「育つ構造」です。
ガバナンスはコストではなく、企業価値を増幅する装置になります。
人事部長へのメッセージ
貴社では、ガバナンスの形は整っているかもしれません。
しかし、それが次世代リーダーを育てる装置として機能しているかは別問題です。
人材を育てる前に、
人材が育つ構造を実装する。
経営の理想と現場の現実を、判断の構造で接続する。
それが、人事部長の板挟みを解く唯一の道です。
Q&A
Q1. 人材育成研修を増やせば解決しませんか?
研修は有効ですが、判断委譲の設計がないままでは効果は限定的です。任せる判断の範囲が曖昧なままでは、行動は変わりません。
Q2. ガバナンス強化は管理を厳しくすることですか?
違います。監督機能を強めるだけでは自律は生まれません。自律を促す構造設計が必要です。
Q3. 次世代リーダーはどう可視化すべきですか?
能力評価ではなく、「どの判断を任せているか」で定義します。任せた判断の質が、リーダーの成熟度を示します。
Q4. ハラスメント対策とも関係しますか?
強く関係します。事案対応や再発防止のプロセスは、管理職の判断力を鍛える実践機会だからです。
投稿者
- ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。
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