ハラスメント事案が発生した後、多くの企業では再発防止策が策定されます。研修の実施、規程の見直し、相談窓口の強化などが典型的な対応です。しかし実務の現場では、こうした対策を実施しても、数年後に似た問題が再び発生するケースが少なくありません。これは企業の努力不足というより、再発防止の設計が「個人対応」に偏り、組織構造の修正にまで踏み込めていないためです。再発防止の本質は行為者の教育ではなく、問題を生み出した意思決定環境の是正にあります。本稿では、再発防止が機能しない理由を整理し、再発を止めるための統治設計という視点を提示します。
再発防止は多くの企業で行われている
ハラスメント事案が発生した場合、企業は通常、次のような再発防止策を実施します。
- ハラスメント研修の実施
- 就業規則の見直し
- 相談窓口の強化
- 行為者の処分
これらは企業として当然行うべき対応です。
しかし現実には、こうした取り組みを行ったにもかかわらず、同じ組織で似た問題が再び発生することがあります。
つまり、再発防止は実施されているにもかかわらず、再発は止まっていないという現象が起きているのです。
なぜ再発防止は機能しないのか
再発防止が機能しない理由は、多くの対策が行為者中心で設計されているからです。
多くの企業では、問題の構図を次のように理解しています。
- 問題のある人がいた
- 教育する
- 改善する
しかし実務の現場では、次のような現象が頻繁に見られます。
- 行為者が変わっても摩擦が続く
- 同じ部署で問題が繰り返される
- 組織文化が変わらない
このような場合、問題の原因は個人ではなく、組織構造にあります。
組織問題は構造から再生産される
組織では、特定の条件が重なると問題が再生産されます。
例えば次のような状態です。
- 情報が上がらない
- 異論が出ない
- 役割が曖昧
- 評価が数字偏重
- 業務が過負荷
このような環境では、合理的な人でも判断を誤る可能性が高まります。
つまり問題の原因は、個人ではなく意思決定環境です。
この視点を欠いた再発防止策は、必然的に表面的な対応にとどまります。
行為対応だけでは再発は止まらない
ハラスメント対応では、次のような措置が中心になります。
- 事実調査
- 処分
- 研修
これらは組織として不可欠な対応です。
しかし構造が変わらなければ、問題は形を変えて繰り返されます。
例えば次のような現象が起きます。
威圧型上司が異動した
↓
別の管理職が同じ摩擦を生む
この場合、問題は個人ではなく、その行動を生みやすい組織条件にあります。
再発防止に必要な視点
再発防止のためには、視点を転換する必要があります。
行為を見る、のではなく、構造を見る。
つまり、問題を生んだ組織条件を修正することです。
この視点に立たなければ、再発防止策は単なる「事案処理の延長」で終わってしまいます。
是正設計という考え方
当社では再発防止を次の概念で整理しています。
是正設計(Corrective Governance Design)
これは、事案の原因となった組織構造を修正する統治設計です。
具体的には、次の統治レバーを見直します。
- 役割設計
- 意思決定設計
- 情報設計
- 評価設計
- 人材設計
- 保証設計
- 学習設計
これらの設計を通じて、組織の判断環境そのものを整えます。
Learning Governanceという視点
再発防止の本質は、組織が事案から学習できるかどうかにあります。
しかし多くの組織では、事案は次のように処理されます。
- 問題処理
- 責任追及
- 終結
このような対応では、組織は学習できません。
学習ガバナンスとは、事案を単なる問題処理ではなく、組織学習の契機として扱う統治アプローチです。
事案から組織は何を学ぶべきか
事案が発生したとき、最も重要な問いは次です。
なぜこの組織で起きたのか。
この問いに対して、組織は次の構造を検証する必要があります。
- 意思決定環境
- 情報構造
- 評価構造
- 組織摩擦
これらの構造条件を見直すことで、再発防止は初めて実効性を持ちます。
再発防止とは組織統治である
ハラスメント再発防止は、単なるコンプライアンス対応ではありません。
それは、組織の意思決定環境を設計する取り組みです。
つまり再発防止とは、組織ガバナンスの設計なのです。
投稿者
- ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。
