粉飾、隠蔽、ハラスメント、不正な取り締まり。これらが繰り返される組織には、「数字そのものが目的化する構造」が共通しています。問題はノルマの有無ではありません。ノルマをどのような意味構造と評価設計の中に置いているかです。数字を戦略の翻訳装置として機能させるのか、単なる結果管理の道具に堕とすのか。その分岐点は、成果・プロセス・判断の質を統合した統治設計にあります。不正は倫理の欠如ではなく、評価構造の帰結です。
ノルマが悪いのかという誤解
「ノルマがあるから不正が起きる」「KPI管理が行き過ぎた」という議論は多く見られます。
検索ワードでいえば「ノルマ 不正」「KPI 不祥事」「数字至上主義 組織」などが典型です。
しかし、ノルマ自体は経営管理の基本的手法です。
問題は、
- 数字の根拠が説明されない
- 組織の目的と接続されていない
- 評価が結果一点張り
という設計にあります。
表層的な対策として「ノルマを緩める」「精神論を強化する」といった対応が取られますが、これでは構造は変わりません。
数字が“目的化”している限り、歪んだインセンティブは残ります。
ノルマが「不正誘発装置」になるメカニズム
不正が繰り返される組織では、次の構造が観察されます。
1. 根拠のブラックボックス化
なぜその目標値なのかが説明されない。
2. 目的との断絶
その数字が組織のミッションや社会的責任とどう接続するのか言語化されていない。
3. 結果偏重評価
達成/未達のみで評価され、プロセスやルール遵守が評価軸に入っていない。
4. 失敗許容度の極端な低さ
未達=処遇・キャリアに直結し、「手段の逸脱」が合理化される。
この構造下では、現場にとって
正しくやるより、数字を合わせる方が合理的
という歪みが生じます。
図解的整理
戦略(本来の目的)
↓(翻訳されない)
数字(目的化)
↓
結果のみ評価
↓
逸脱の合理化
↓
不正の再現
問題は個人の倫理ではなく、構造です。
実務で頻発するパターン
多くの企業では、次の現象が起きています。
- 目標値の妥当性を議論する場がない
- 「この数字は無理では」と言えない空気
- 未達レビューが犯人探しになる
- 管理職が部下に過度な圧力をかけても評価が下がらない
再発防止策の議論で最も多いのは、「倫理研修を増やす」という提案です。
しかしヒアリングを重ねると、問題の核心は評価制度にあります。
報告書で問題になるのも、「ルール違反はあったが、なぜ合理的に選択されたのか」の検証が弱い点です。
そこに構造分析が入らない限り、再発防止は機能しません。
評価を三層で再設計する
ノルマを統治の道具に戻すには、評価を三層で設計します。
① 成果(Outcome)
- 数値目標の達成度
- ただし単独評価にしない
② プロセス(Process)
- 手続・ルール遵守
- 顧客・社内への配慮
- 不適切な圧力の有無
③ 判断の質(Quality of Judgment)
- リスクを踏まえた意思決定ができたか
- 「止める判断」が評価されるか
- 上位方針への疑義提起が可能か
実務上の具体策
- 各KPIに「何の代理指標か」を明文化
- 逸脱行為は結果達成でもマイナス評価
- 無理な目標設定への問題提起を加点対象に
- 未達レビューを目標設計検証に位置づける
- 管理職評価に「圧力をかけない目標運用」を組み込む
ここまで落とし込んで初めて、不正は抑制されます。
人的資本・内部通報・ハラスメントとの関係
この問題は単なる営業管理の話ではありません。
数字の設計は、組織文化の設計そのものです。
評価構造が歪めば、心理的安全性も毀損されます。
まとめ
ノルマは悪ではありません。
悪になるのは、数字が目的になったときです。
数字の背後にある組織の意義。
数字の先にある守るべき価値。
その価値に近づくための適切なプロセスと判断。
これらを評価制度とガバナンスの構造に埋め込まない限り、不正は個人の問題ではなく再現性のある現象として繰り返されます。
不正を生むのは人ではなく、評価設計です。
Q&A
Q1. ノルマを廃止すれば不正はなくなりますか?
なくなりません。評価が結果偏重のままであれば、形式を変えても歪みは残ります。
Q2. 成果とプロセスのバランスはどの程度が適切ですか?
業種により異なりますが、少なくとも成果単独評価は避けるべきです。三層設計が前提です。
Q3. 判断の質はどのように評価できますか?
リスク検討の記録、異論提起の有無、停止判断の事例レビューなどを評価項目に組み込みます。
Q4. 中堅企業でも実装可能ですか?
可能です。むしろ評価制度が固定化していない段階の方が設計変更は容易です。
投稿者
- ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。
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