人事部にとって最大級の恐怖の一つが「誰が採用したんだ問題」です。ハラスメントや不正対応の現場を振り返ると、問題の多くは入社後に突然発生したのではなく、採用段階で既に兆候が存在しています。採用は人に関するリスクマネジメントの最上流です。ここが歪めば、その後の統治コストは指数関数的に増大します。本稿は、採用ミスマッチの構造要因を分解し、再発防止を“入口設計”から再構築するための実装論を提示します。採用はコストではなく、統治レバーです。
採用は「目利き」ではなく「設計」の問題
一般に、採用失敗は「見抜けなかった」「たまたま運が悪かった」と語られます。
検索キーワードでいえば「採用ミスマッチ」「問題社員 採用時点」「ハラスメント 加害者 特徴」などが並びます。
しかし実務で観察されるのは、偶発ではなく再現性です。
- 優秀だが攻撃的
- 実績はあるが他責的
- 論理的だが共感性が低い
これらは“例外的人物”ではありません。
能力偏重の評価構造が生み出す必然的帰結です。
「人を見る目」の問題に還元している限り、同じことは繰り返されます。
採用ミスマッチが生まれる構造
能力偏重と行動軽視
- 学歴・職歴・実績は十分
- 面接での受け答えも優秀
しかし入社後に顕在化するのは、
- 他者への配慮欠如
- 過度な自己確信
- 権威志向
- 責任転嫁
問題は能力ではありません。
“力の使い方”と“摩擦への反応様式”です。
役割期待の未定義
- 「優秀な人を採ろう」
- 「将来の幹部候補として」
この曖昧さが、入社後の失望を生みます。
役割が抽象的なままでは、評価も抽象になります。
これは人材の問題ではなく、設計の問題です。
文化適合の未検証
- 協働型組織に強烈な個人主義
- 伝統組織に制度軽視型リーダー
能力が高いほど、文化不整合は衝撃波になります。
好感度面接という構造欠陥
- 話がうまい
- ロジカル
- 自信に満ちている
これらは魅力ですが、同時にリスクの仮面にもなります。
特にハラスメント傾向は、優秀さと誤認されやすいのです。
責任設計の曖昧さ
- 人事主導
- 事業部長推薦
- 社長案件
しかし問題発生後は、
「誰が決めたのか」
この構図では、人事が矢面に立ちます。
これは個人の問題ではなく、責任設計の欠陥です。
なぜ同じ問題が繰り返されるのか
ここで重要なのは「構造」です。
能力偏重評価
↓
行動特性未検証
↓
文化不整合
↓
摩擦増大
↓
ハラスメント・不正リスク増幅
↓
人事責任論
↓
構造は未修正のまま
問題は“人”ではなく、判断・評価・責任の接続不全という構造にあります。
実務現場で繰り返されるパターン
多くの企業では、
- 採用基準が抽象的
- 面接ログが残っていない
- 試用期間が形式化している
再発防止策の議論で最も多いのは、
「面接を丁寧にする」
「人物重視にする」
しかし、何をどう評価するのかが明文化されていなければ、再発は止まりません。
ヒアリングで浮かぶ本質は一つです。
採用は統治設計の一部として扱われていない。
採用を統治レバーに変える3ステップ
Step1|評価基準の三層化
- Can(能力)
- How(行動特性)
- Fit(文化適合)
この三層を明文化してから面接に入ります。
Step2|行動履歴ベース面接
- 「強く反論された経験は?」
- 「誤りを認めた事例は?」
- 「納得できない指示への対応は?」
価値観は装えます。
行動履歴は装いにくい。
Step3|責任構造の共同設計
- 人事:設計責任
- 事業責任者:受入責任
- 最終決裁者:統治責任
合議ログを残す。
採用を“個人判断”から“組織判断”へ移行させます。
試用期間の再設計
- 行動観察項目の明文化
- 面談回数の固定
- 逸脱兆候のチェックリスト化
- フィードバックログ保存
採用は入社日で終わりません。
適合確認完了までが採用プロセスです。
人的資本経営との接点
人的資本経営やハラスメント再発防止を議論する企業ほど、採用設計の見直しが不可欠です。
- 内部通報制度の実効性
- 管理職評価設計
- 統治責任の明確化
これらはすべて、入口設計と接続しています。
採用を変えずに、統治だけを整えることはできません。
Q&A
Q1. 能力の高い人材を避けるべきですか?
いいえ。問題は能力ではなく、力の使い方と摩擦耐性です。評価軸を増やすことが重要です。
Q2. 面接官の力量に依存するしかありませんか?
依存させないために構造化します。評価項目とログ設計が鍵です。
Q3. 小規模企業でも可能ですか?
可能です。むしろ影響が大きい分、設計効果は高くなります。
Q4. ハラスメント防止と本当に関係しますか?
強く関係します。多くの加害傾向は、入社前に行動兆候が存在しています。
まとめ
採用ミスマッチは偶然ではありません。
- 能力偏重
- 役割未定義
- 文化未検証
- 主観面接
- 責任未設計
という構造の帰結です。
採用を再設計すれば、それは最大のリスク源から、最大の統治レバーへと変わります。
投稿者
- ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。
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