ハラスメントや不正は、個人の逸脱ではなく「判断環境の歪み」から合理的に生まれます。多くの組織は行為者に焦点を当てますが、再発を止める鍵は構造設計にあります。本稿では、判断歪みを7領域で整理し、それぞれに対応する統治レバーを配置した「7×7アーキテクチャ」を提示します。問題を処理するのではなく、誤られにくい組織を設計する。それが統治の本質です。
ハラスメントや不正は「例外」ではない
ハラスメント、不正、情報隠蔽、粉飾。
多くの場合、それらは「一部の問題人物」による突発的行為として語られます。
しかし実務の現場では、異なる人物であっても、似た構図が繰り返されるという事実に直面します。
- 上司が変わっても圧力構造は同じ
- 担当者が変わっても隠蔽の誘因は残る
- 制度を改定しても沈黙は解消されない
これは偶然ではありません。
判断が歪みやすい条件が、構造として温存されているからです。
行為ではなく「条件」を扱う
多くの対策は、個人に向けられます。
- 研修の実施
- 倫理教育の強化
- 懲戒基準の厳格化
これらは必要です。しかし十分ではありません。
問題の再発を防ぐために問うべきは、次のような構造条件です。
- 権限と責任は対称か
- 成果指標は組織目的と接続しているか
- 異議申立ては合理的な選択肢になっているか
- 制度は形式化していないか
- 役割と能力は整合しているか
私たちが見ているのは、判断そのものではなく、判断環境の設計です。
組織は合理的に誤る
組織の誤りは、多くの場合「非合理」ではありません。
条件が揃えば、むしろ合理的帰結です。
- 権限が集中している
- 成果のみが評価される
- 異議申立てが不利益になる
- 制度が形式的である
- 上位者が免責される
- 業務が過度に逼迫している
- 適性と役割が乖離している
この構造が重なれば、不正もハラスメントも発生確率が高まります。
倫理が不足しているのではなく、統治設計が歪んでいるのです。
判断歪みを生む7つの構造
私たちは、判断歪みを次の7領域に整理します。
- Authority–Accountability Asymmetry(権限と責任の非対称)
- Performance–Purpose Disconnection(成果と目的の断絶)
- Rational Silence(合理的沈黙)
- Institutional Formalism(制度の形式化)
- Executive Immunity Culture(上位者免疫文化)
- Structural Overload(構造的過負荷)
- Role–Capability Misalignment(役割と能力の不整合)
これらは独立して存在するのではなく、相互に連動します。
一領域の歪みが、他領域を増幅させます。
7つの統治レバー
それぞれの歪みに対し、統治レバーを配置します。
- 権限配分の再設計
- 評価指標の再接続
- 通報・異議申立て保護設計
- 制度の実効性検証
- 役員統治責任の明文化
- 業務負荷の再設計
- 役割定義と適性評価の再構築
この「7×7マトリックス」は、
- どこに歪みが潜在しているか
- どのレバーが機能不全か
- 対策が原因と接続しているか
を可視化する、統治設計の基幹フレームです。
ハラスメントは症状の一つに過ぎない
このフレームは、ハラスメント専用ではありません。
- 不正・粉飾
- 内部通報制度の形骸化
- 管理職の機能不全
- 戦略実行の停滞
- 人的資本開示の実効性不足
いずれも同じ構造歪みの延長線上にあります。
私たちが扱うのはテーマではなく、組織の統治水準そのものです。
統治は静かな建築
優れた統治は声高ではありません。
しかし、次の特性を持ちます。
- 誤られにくい
- 揺らぎにくい
- 説明可能である
秩序は意志からは生まれません。
設計から生まれます。
STRATEGIC INTEGRITYとは、火消しではなく、構造建築であるという宣言です。
簡易チェックリスト
(自組織の統治歪み診断)
以下に「はい」が多いほど、構造歪みが潜在しています。
権限・責任
- 権限は強いが、責任追及は曖昧な役職がある
- 経営層の判断が実質的に検証されない
成果・目的
- 数字の根拠が説明できない
- 成果達成の過程は評価されない
声・沈黙
- 異議を唱えた人が不利益を受けた前例がある
- 内部通報は形式的に存在するだけである
制度
- 規程はあるが、現場は参照していない
- 研修は実施するが、行動変化は検証していない
役割・能力
- 管理職に必要能力の定義が曖昧
- プレイヤー評価で昇格している
負荷
- 慢性的に「忙しすぎる」状態が続いている
- 判断を急がせる文化がある
問題が起きたとき、問うべきは「誰が悪いか」ではありません。
どの設計が歪みを許容していたのか。
その視点に立ったとき、はじめて再発防止は実装段階に入ります。
投稿者
- ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。
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