多くの大学が、ホームページで、アカデミックハラスメント(アカハラ)に関する規程、相談窓口、研修情報を大きく掲げています。
かつては、「指導の厳しさ」「研究の世界の特殊性」「学問の自由」といった言葉の陰に隠れがちだったアカハラが、なぜ今、ここまで前面に出てきているのでしょうか。
それは、アカハラがもはや教育上の配慮や個人の資質の問題ではなく、大学の“統治リスク”そのものになったからです。
1.大学は今、最も「説明責任」を問われる組織になっている
大学は長く、自治と専門性を尊重されてきた組織でした。
教員の裁量は広く、研究室という閉じた空間の中で、独自の文化が形成されてきました。
しかし現在、大学を取り巻く環境は大きく変化しています。
- 公的資金に対する厳格な説明責任
- 不祥事発生時の迅速かつ全国的な報道
- ガバナンス体制そのものへの外部評価
一度ハラスメント事案が表面化すれば、問われるのは個々の教員の行為だけではありません。
「この大学は、問題を把握できる仕組みを持っていたのか」
「組織として是正する力があったのか」
大学は今、研究機関である前に、社会的組織としての統治能力を問われる存在になっています。
2.アカハラは、大学の中核構造と直結している
アカハラが特に深刻なのは、それが大学特有の構造と密接に結びついているからです。
- 指導教員が、評価・進級・修了・推薦を握る
- 研究室という密室性の高い環境
- 数年単位で続く、非対称な人間関係
- 学外から実態が見えにくい構造
この関係性の中では、学生や若手研究者が「違和感」を感じても、それを言葉にし、外に出すことは容易ではありません。
大学側も次第に認識しています。
問題の本質は、「一部の教員の資質」ではなく、「構造そのもの」にあるということを。
だからこそ、
- 規程の整備
- 相談窓口の可視化
- 教職員・学生双方への周知
- 継続的な研修
といった、組織的対応が不可欠になっているのです。
3.学生は「守られる存在」から「影響力あるステークホルダー」へ
学生の立場も、大きく変わりました。
現在の学生は、
- 権利意識が高く
- 情報収集力があり
- SNSや外部窓口を通じた発信力を持っています
つまり学生は、大学にとって単なる「教育の対象」ではなく、大学の評価・信頼に直接影響を与えるステークホルダーです。
アカハラ対応を誤れば、
- 志願者数への影響
- 留学生受入や国際評価への影響
- 若手研究者の流出
といった形で、大学経営そのものに波及します。
アカハラ対策は、「学生を守るため」だけのものではなく、大学の持続可能性を守るための基盤になっているのです。
4.「整備」だけでは足りない時代に入った
多くの大学で、規程や相談窓口、研修体制は既に整っています。
しかし現場では、次のような声も少なくありません。
- 「どこまでが指導で、どこからがアウトなのか分からない」
- 「自分の研究室のやり方は問題ないと思っている」
- 「事案が起きたときの判断基準が共有されていない」
つまり、制度はあっても、判断が現場に落ちていないという状態です。
今、大学に求められているのは、規程を増やすことでも、形式的な研修を重ねることでもありません。
教員一人ひとりが、自らの立場と権限をどう使うのかを、組織の判断軸として理解すること
ここまで踏み込んで初めて、アカハラ対策は「実装された統治」になります。
おわりに
なぜ今、大学にはアカハラ対策が求められているのか。
それは、アカハラがもはや教育現場の個別トラブルではなく、大学の統治能力を問う問題になったからです。
アカハラ対策とは、誰かを糾弾するためのものではありません。
大学という組織が、権限と責任をどう設計し、次世代の知と人材をどう守るのか。
その覚悟が、今、問われています。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
